事後処理
「こりゃまた、派手にやったもんだねえ」
アクシャは支部付近の惨状を見て帽子を取る。
「まったく、あたしがいれば魔族でもなんでもあっさり片付けてやったのに」
「調子に乗らない」
アクシャはトーラの額を指で押した。
「パイロフィストの隊長ってのはさ、とんでもなく強いんだよ。大体戦闘経験ならあんたよりずっと上だから」
「ふうん」
そうして二人は片付けと調査をしていたキーツを見つけると、手を上げてそこに近づいていく。
「少年、災難だったらしいね」
「はい、魔族の襲撃で大変でした。クラールさんが戻ってきてくれたので助かりましたけど」
「そりゃよかった。なんであたし達に連絡がなかったのかも聞いておかないとだねえ」
「連絡が、ですか?」
キーツが首をかしげると、トーラが口を開く。
「そう、噂が聞こえてくる頃にはこうなってたわけ」
「そうだったんですか。レウスさん達はどうしてるんでしょうか」
「さあ、まあ青年のことだから張り切って仕事してるんじゃないのかね」
アクシャがそう言って手を広げた。そこにクラールが大股にで近づいてくる。
「おお、アクシャ殿! 何もなかったですかな?」
「ああ、隊長さん。まあ、それほど特別なことはなかったよ」
「そうか、詳しい話は集まってからだ、後で来てくれ!」
それだけ言うと、クラールはさっさとその場から離れていってしまった。それを見送ったアクシャはわざとらしくため息をついてみせる。
「何か色々ありそうだ。面倒くさいねえ」
それからキーツの頭を軽く叩いた。
「少年、これからはトーラと一緒にいるといい。ま、なんといっても聖剣の継承者だ、護衛としてはかなり上等だから」
「え、あたしが?」
「とりあえず観光はしたんだから、あとは働きなよ」
「…わかった」
渋々といった雰囲気でトーラはうなずくと、自分の胸元を叩いた。
「ま、このあたしが護衛になるんだから、魔族がまた出てきても余裕余裕」
「はい、よろしくお願いします。じゃあ、まずは一緒にここの片付けから始めましょう」
キーツはすぐに元の仕事に戻っていった。トーラはいかにも嫌そうな顔をしたが、アクシャに背中を押されてそれを手伝うことにした。
「さて、そこの副隊長さん。なんで隠れてるのか知らないけど、顔出したら」
「気づいていましたか」
アクシャの背後の何もないように見えた空間から返事が聞こえ、突然ハイガルの姿が現れた。
「そんな魔法もあんのね」
「まあ、私のオリジナルです。こうも簡単に見破られてしまったのは初めてですよ」
「油断できないおっさんだねえ。で、なんでこっちに連絡入れなかったのか、聞かせてもらおうか」
「観光を楽しんでいるのかと思いましたので」
「おいおい」
アクシャがわざとらしく手を広げると、ハイガルは首を横に振った。
「クラール隊長が間に合いそうだったのと、まだあなた達には戦って欲しくなかったからですよ。こちらの手の内を見せるにはまだ早いですから」
「なるほどなるほど、それなら次はちゃんと連絡して欲しいもんだね。事情がわかればあんたに協力してやらなくもないよ」
「では、その話は後ほど。今度は連絡を入れますので」
ハイガルは支部内に向かっていった。アクシャはその後姿を見て口元に笑みを浮かべる。
「パイロフィストは人材豊富だねえ」
一方、レウスとジンは建物から外に出て、連絡をしたパイロフィストの迎えを待っていた。
「それにしても、ずいぶんぼろぼろになりましたね」
レウスの言葉通り、ジンの服は切れたり破れたり焼けたりしていた。だが、体には傷一つついてない。
「魔道具で攻撃されたからな。俺に効くようなものはなかったが、数が多かったから完全に無力化するのは少し時間がかかった。お前のほうはどうだったんだ?」
「魔族の分身だけですよ」
「俺のほうより大変だったようだな」
そこにパイロフィストの大型車両が到着し、そこから二人の隊員が降りてきた。
「やっと来たか」
ジンがつぶやくと、その二人の隊員はレウスとジンの前で止まり、軽く礼をした。
「レウスさんとジンさんですね」
女の方が口を開くと、レウスは一歩前に出た。
「そうです。地下は製造設備だけ、上のほうにいた連中は全員無力化されてます」
「わかりました。ああ、申し送れましたが、私はエトラ、パイロフィスト実働部隊の隊員です」
エトラが隣の男にうなずいてみせると、その男も口を開いた。
「自分はウィレオンです、早速建物の中を調べたいので、どちらかお一人は一緒に来てください」
それだけ言うと、ウィレオンは車両から降りてきたパイロフィスト職員の方に向かった。エトラはそれを見て苦笑を浮かべる。
「無愛想ですみません」
「別にいいですよ。俺よりジンが行ったほうがいいですね」
ジンはそのレウスの言葉にうなずいた。
「わかった。間取りは覚えたから問題ない」
それだけ言ってウィレオンの方に歩いていった。それを見送ってからレウスはエトラに顔を向ける。
「ところで、さっき派手な爆音が聞こえましたけど、何かあったんですか?」
「…支部が襲撃されました。ですが、クラール隊長によってすでに鎮圧されています」
「襲撃? どういうことですか」
「最初は魔道具を使用した襲撃があったそうです。ちょうど実働部隊が出払っていましたが、なんとか持ちこたえている間に魔族が出現、しかし、クラール隊長が間に合って魔族とそれが作り出した魔物を撃退したとのことです」
レウスはそれを黙って聞き、しばらくしてから息を吐き出した。
「何で俺に連絡がなかったんですかね」
「こちらで対応できる見込みがあったので、レウスさん達の邪魔をしたくなかったのでしょう。副隊長はそういう人ですから」
「協力者を騙す人ですか?」
「いいえ、少し秘密主義なところがある人ですけど、そういったことはしませんし、被害が出るようなことも見過ごしはしません。今回連絡がなかったということは、それが必要なかったということです」
「…わかりました、とりあえずそういうことにしておきます。それで、そういう人ならすでに次の手も考えてるんだと思いますけど」
エトラはそれにうなずいた。
「ここを片付けたらすぐに次の動きに入ると聞いています」
「それは楽しみですね」
レウスはそれだけ言うと、建物の中に入っていった。それを見送ったエトラはため息をつき、ハイガルに連絡を入れる。
「副隊長、エトラです」
「そちらの状況はどうですか?」
「予定通りです。ですが、もう少し事前に説明が必要だと思いますが」
「それなら、あなた達が帰ってきてからやりますから、そちらを急いでください」
それでハイガルは通信を切ってしまった。
「もっと中間管理職らしくして欲しいんですけどね」
その嘆息は誰にも聞かれてはいなかった。




