斬魔刀
クラールはアエチディードと対峙しながらも、周囲の状況を確認していた。
「ずいぶんとやってくれたようだな。だが、わしが来たからには、これ以上好きにはさせんぞ!」
アエチディードは無言でクラールの後方まで移動すると、そこに音もなく着地した。クラールはその方向に体を向け、背後のキーツや支部員達をかばうように立つ。
「あのアテリイという人間と同じようなものなの?」
「そうだ、わしとアテリイではだいぶ戦い方は違うがな」
「あなたは空を飛んだりしないの?」
「楽しみにしていたなら残念だが、わしはそういう器用なことはできん」
クラールは太刀を肩にかつぐようにして構えた。アエチディードも自らの周囲に小さな闇の球体を無数に浮かべる。
両者はしばらくの間そのままの体勢で睨み合う。キーツはそれを後ろから見ながら、周囲からの攻撃がないかを警戒するが、特にその様子はなかった。そのキーツの肩をアルドが叩き、狼もつれて五人は後方に下がった。
それを待っていたかのようにクラールが地面を蹴ると、地面がえぐれ、その巨体が凄まじい速度で打ち出される。
そして、クラールの太刀は凄まじい速度で袈裟切りに振り下ろされた。だが、アエチディードは後ろに跳んでその一撃をかわす。それと同時に自らの周囲の闇の球体をクラールに放った。
「オオッ!」
クラールは気合と同時に太刀を振り上げ、その剣圧で闇の球体は弾けた。両者はそこで一度動きを止める。
「小細工をしてくれるな」
そう言うと、クラールは再び太刀を肩にかつぐようにして構えた。
「それは大した威力みたいね」
アエチディードの言葉に、クラールは口を歪める。
「今度はその身でわしの太刀の力を味わうといい」
「そうもいかないのよ」
指が鳴らされると、アエチディードの手の中に闇によって剣が構成された。
「ほう、それで打ち合うつもりか」
「その身で味わってみるといいわ」
今度はクラールは勢いをつけずにゆっくりとアエチディードに近づいていき、それに応じるようにアエチディードもゆっくりと歩く。
そして、互いに手の届く距離で同時に得物を振るった。太刀と闇の剣は激しくぶつかり合い、両者とも引かずに力比べとなる。
「おおっ!」
クラールの全身に力が漲ると足元が割れ、その太刀は闇の剣を押し込んでいく。
「…すごい力ね」
「まだまだだ!」
その言葉通り、クラールの全身はますます力に満ちていく。だが、さらに押し込まれる前にアエチディードは闇の剣を霧散させ、その場から飛び退いた。
クラールはすぐに太刀を引いて、今度はそれを片手で中段に構える。
「貴様、何がやりたい。技術があるのはわかったが、力はまるで出していないな」
「別に、今日のところは見に来ただけよ」
「なら、もう帰るのか?」
「ただで帰るのもつまらないわね」
そして、アエチディードは地面に両手をつくと、そこから地中に何かを注ぎ込んだ。数秒後、地響きが始まり、アエチディードの背後の地面から巨大な何かが飛び出してきた。
「さあ、てきとうに暴れておきなさい」
地面から飛び出してきたもの、巨大なミミズのような怪物が、人を余裕で飲み込めるような大口に並ぶ鋭い牙を見せた。クラールはその巨体を見上げてうなずく。
「なるほど、見たこともないような魔物だな。だが、本部からの知らせよりもこれはだいぶやりがいがあるぞ!」
クラールは巨体にひるむどころか笑みさえ浮かべた。アエチディードはそれを一瞥し、その奥の狼とキーツに視線を投げてから無言で飛び去っていった。
それを待っていたかのように、巨大ミミズは音としては聞こえないような雄叫びを上げ、周囲の建物を揺るがした。だが、クラールはその振動をマッサージかなにかのように受け流し、太刀を両手で握って上段に構える。
巨大ミミズは空に向かって猛スピードで体を伸ばし、その全長は周囲の建物の数倍になるが、それでも全身は現れないほどだった。巨大ミミズはその高さから牙をむいて一気にクラールに向かって落ちてくる。
「…斬魔刀」
クラールがつぶやくと、太刀から赤い霧のようなものが滲み出した。その霧が太刀にまとわりつくと、サイズが一回り大きくなる。
「剛!」
圧殺しようとする魔物に向かい、正面から赤い太刀が打ちつけられた。衝撃波が広がり周囲のガラスが破壊され、一瞬巨大ミミズの動きが止まった。
次の瞬間、その巨体が空に打ち返される。だが、巨大ミミズは倒れることなく踏みとどまり、もう一度クラールに向かってきた。
今度は口から粘液を吐き出してくる。クラールはそれを全て跳ね飛ばすが、そのせいで今度は体勢が整っていないように見えた。だが、最後の粘液を切り落とし、太刀が下を向いた瞬間、それを返す。
「斬!」
離れていたキーツには、太刀の動きがまるで見えなかった。しかし、その結果は明白、巨大ミミズの頭部は四つに斬られ、巨体はクラールの前に落ちていた。
アルドはそれを見て立ち上がろうとしたが、クラールは太刀でもってそれを制する。
「まだだ!」
その言葉通り、巨大ミミズは反対側の体を地面から突き出し、そこにも口のようなものが開く。
「往生際の悪いやつだな!」
クラールが地面を蹴ると、凄まじい勢いで巨体を宙に舞わせた。
「斬魔刀! 散!」
巨大ミミズの反対側の頭部に、数え切れないほどのクラールの斬撃が浴びせられた。クラールはそのままその背後に着地し、太刀を鞘に収める。その瞬間、巨大ミミズの新しい頭部はみじん切りとなって崩れ去った。
「普通の魔物とは段違いだったな」
クラールはつぶやきながら、支部に向かってゆっくりと歩く。そこにアルド達が駆け寄る。
「隊長! 大丈夫でしたか!?」
「ああ、あの程度なら全く心配いらん。それより、被害の確認だ! お前達は周囲の状況を確認してきてくれ!」
「はい!」
アルドと他の三人はすぐに周囲に散っていった。そこに入れ違いにアナスタが来る。
「隊長」
「おお、無事だったか。支部内はどうだ?」
「魔族が潜んでいたから、緊急結界を発動した」
「なるほど、それであの魔族が出てきたのだな。ところでキーツ、よく持ちこたえたな」
「魔族にはまるで歯が立ちませんでした。この魔道具はかなり性能がいいものなんですけど」
そう言うキーツにクラールは満面に笑顔を浮かべる。
「なに、途中から見えていたぞ! 立派な戦いぶりだった!」
「ありがとうございます」
「ハッハッハ! まあこれから忙しくなりそうだからな、お前達の力は存分に使わせてもらうぞ!」
クラールは笑いながらキーツの肩を数回強く叩いた。




