防衛
クラールは支部への道を急いでいた。その移動方は魔法によって大きく跳躍していくというもので、大柄な体は非常に目立っている。
「状況はどうだ!?」
クラールはアナスタに連絡を入れる。
「あのキーツ君と、戦える者で食い止めてるところ。隊長が来るまでは大丈夫そう」
「そうか! 何か発見はあったか!?」
「近くに強力な魔力が存在してる。正体は不明」
「魔族の可能性があるな。わしが行くまで無理はするなよ、場合によっては支部を放棄してもかまわん!」
「了解」
通信はそこで終わり、クラールは速度を上げた。
その頃、支部ではキーツと狼に、四人が襲撃に対応していた。キーツは主に防御にまわっていて、他の四人は反撃をしていた。
しかし、キーツの最初の反撃以降は、敵方もそれに対応していて、大した効果は上げられていない。そこに一斉に攻撃が来ると、キーツは少し遅れながらも、勢いよく一歩前に出て手をかざした。
「プロテクション!」
かざした手から広範囲に障壁が展開され、危ないタイミングで魔道具からの攻撃を全て防いだ。
「すまん、助かった!」
一番前に出ていたアルドという事務員が慌ててキーツの横まで下がる。
「まだ来ます!」
キーツはさらに踏み出すと、さらに障壁を展開して二重の防護壁を作った。そこにさらに攻撃が降り注ぐが、新しく張った障壁によってそれを防ぎきることはできた。
だが、二重の障壁は崩れてしまい、キーツは後ずさる。その前に狼が走りこむと、さらなる攻撃を咆哮によって散らした。
「下がるぞ!」
アルドはキーツを引っ張って後ろに下がり、そこに残りの三人が入って反撃を開始した。その隙にキーツとアルドは即席のバリケードの後ろに隠れ、一息つく。
「敵はしつこいですね」
キーツがそう言うと、アルドは魔道具のメイスを抱えてバリケードから顔を出して様子を見る。
「でも、これなら持ちこたえられる。すぐにクラール隊長が来てくれるさ。それよりも、ここに来ていきなり災難だったな」
「はい。でも、役に立ててるみたいで良かったです」
キーツはそう言って笑顔を浮かべる。アルドはその動じていない様子に感心のため息をついた。そこに残りの三人も飛び込んできて、入れ違いにキーツはバリケードを乗り越えて前に出た。
そこには狼だけが残っていて、攻撃を避けていた。キーツは一発だけ火の玉を威嚇のために撃ってから、その横に並ぶ。
「押し返さないと」
キーツはつぶやくと、杖の握る部分を変える。
「カートリッジの残量はまだいけるし、時間稼ぎならこれかな。被害は出るけど」
杖の前に雷の球が発生し、それが大きくなっていく。そして、それが人の頭よりも一回りほど大きくなった瞬間、そこから雷が一斉に放たれる。その雷は無差別に襲撃者がいると思われる建物を削った。
「チャンスです!」
キーツが声をかけると、バリケードの向こうの四人が一斉に飛び出した。それぞれがこのチャンスに、出し惜しみなく反撃をする。キーツはそれに反撃が来るかと身構えるが、すぐには何も起こらない。
だが、狼が突然低くうなりだし、少ししてからキーツも何か雰囲気が変わったのに気がついた。
「皆さん!」
キーツが振り向いた瞬間、パイロフィスト支部の最上階の壁が弾け飛んだ。キーツはとっさに障壁を展開して、降り注ぐ瓦礫を防ぐが、そこに何か強烈な衝撃が加えられて障壁は崩れ去ってしまう。
そして、その頭上に現れたのは、闇をまとう魔族、アエチディードだった。
「なんだあれは…」
その圧力にアルドは絶句する。
「魔族です。話だけ聞いてましたけど、これは間違いありません」
キーツは断言し、狼はそれに応じるようにして短く吼えた。
「ここにいたのね」
アエチディードは狼に視線を注ぐとうなずく。しかし、それはキーツが遮り、杖を向ける。
「いけ!」
声と同時に杖の先端に槍の穂先のように鋭い氷が生成され、それはアエチディードに向かって凄まじい速度で撃ち出された。その一撃は目で追える速度ではなかったが、アエチディードはそれを目の前でつかんで止めていた。
キーツはそれがわかっていたかのように、すぐに火の玉を放つ。それはアエチディードの前で爆発し、一瞬だが視界を奪う。その爆発が収まる頃には、キーツはアエチディードの真下に移動して雷の球を作り出していた。
「ライトニング!」
前回とは違い雷は一撃、空気を裂く轟音と共にアエチディードを直撃した。
「俺達もだ!」
さらに、アルドの号令で残りの四人も一斉にアエチディードに向かって攻撃を放つ。
「休むな!」
続けて攻撃が加えられ、アエチディードの姿が爆煙に巻かれていく。だが、それは突然巻き起こった闇の波動によって打ち消されてしまう。その中心には、傷一つないアエチディードの姿があった。
「頑張るわね」
そうつぶやいたアエチディードは、瞬時に攻撃を加えていたアルド達四人の中心に移動していた。そこから闇の波動が広がると、四人は吹き飛ばされてしまう。
キーツにもそれは及ぼうとしたが、狼がその前に躍り出ると同時に前足を振るい、その波動をかき消した。
「大丈夫ですか!」
キーツは吹き飛ばされたアルド達に声をかけるが、返答はない。
「…厳しいな」
そうつぶやいたが、キーツはまだあきらめた様子は微塵も見せず、再び杖を構えた。狼はその横に移動していて、アエチディードに向かって牙をむいている。
「大した力もないというのに、まだ抵抗する気力があるなんて、少し変わった人間ね」
そう言いながら、アエチディードはキーツを値踏みするように眺めた。その雰囲気から、すぐには追撃がこないと感じたキーツは、狼を抑えて数歩前に踏み出す。
「あなたには聞きたいことがあります。この子、狼を狙っているようですけど、それはなぜなんですか?」
「教える義理はないし、必要も感じないわ」
「いいえ、僕はあなた達が襲撃をした時にノーデルシア王国にいましたし、今もこうしてここにいます。それに、今はあなた達が狙っているものと一緒に行動しているんですから、無関係ではありません」
「だから?」
「僕の持っている情報が欲しいとは思わないんですか? それに、もしかしたら味方に引き込めるかもしれませんよ。あなた達は人間だって使っていますよね」
キーツの言うことに、アエチディードは空を見上げて、なにか考えるような様子を見せた。
「…手間が省けるか? いいや、そういうわけにはいかないわね」
何か結論が出たらしいアエチディードはキーツを射抜くように見た。
「消えてもらうわ」
軽く手を動かすと、キーツに向けて闇が覆いかぶさるように立ち上がった。キーツはすぐに障壁を展開しようとしたが、それは発動直前に闇に飲まれて何も起こらない。
キーツと狼はそれに飲み込まれそうになったが、直前でその一人と一匹の前に人影が飛び込んできた。
「フンッ!」
気合一閃、闇は十字に切り裂かれて消え去っていた。
「遅くなってすまなかった!」
キーツの前には大柄なパイロフィストの隊長、太刀を握ったクラールの姿があった。




