工場突入
アナスタから連絡を受けたハイガルは難しい顔をしていた。
「そうですか、大それたことを考えるのがいるものですね。それで、今はキーツ君が時間稼ぎをしていると」
「彼なら大丈夫そう。私は支部内を調査しておく、あまりにもタイミングが良すぎるから」
「確かに、なにか仕掛けられてる可能性がありますね。それはよろしくお願いします。そちらの応援には隊長に向かってもらいます」
「了解」
そこで通信は終わり、ハイガルはすぐにクラールに通信をつないだ。
「クラール隊長、お聞きだと思いますが、支部が襲撃を受けています」
「ああ、わかっている。わしが向かえばいいんだな」
「はい。これは私の勘ですが、魔族が絡んでいる可能性もあります」
「それはチャンスだな。全速力で向かうぞ! まあアテリイほど速くはないがな」
「お願いします。私達は他の警戒を続行しますので」
「任せたぞ!」
通信は終わり、ハイガルは続けて各隊員にも連絡をすると、レウス達に連絡を入れようとして、それはやめた。
「まあ、彼らには余計なことは教えなくてもいいですかね」
そうつぶやくと、ハイガルは車をゆっくりと発進させた。
その頃、レウスとジンは、路地から地図で示された建物を見張っていた。すでにそれなりの時間が経っていたが、まだ動きはない。
それから数分後、その建物から二人の男が出てきた。その二人は何かが入った大きなリュックを背負っていたが、一見したところ特別に不審ということはなかった。
しかし、あらかじめ情報を知っていたレウスにとっては、その二人は不審極まりなかった。手でジンに待っているように合図をすると、その二人組みの後をつけ始めた。
そして、人気のない通りに入ると、レウスは素早くその二人の前に出る。その姿に二人組みは足を止めた。それに向けてレウスは杖を突きつけた。
「さて、その荷物を置いておとなしくしてもらおうか」
二人組みは当然それには従わず、リュックを下ろすと、そこから短剣の形をした魔道具らしきものを取り出した。
「逃げないのは上出来だ」
レウスの言葉が終わると同時に、目の前の二人から氷の牙が放たれた。レウスは杖を右手に持ち替えると、左のガントレットでその二発を打ち砕く。レウスはそのまま前方に走ると、まず近い方の男の魔道具を持つ手を杖で打った。
レウスはすぐに左手を伸ばし男の頭をつかむと、一気に引きずり込んで腹に膝を叩き込んだ。男は息を吐き出してその場に崩れ落ちようとしたが、その前にレウスによって壁に投げつけられる。
もう一人の男はかなわないと見て逃げ出そうと背を向けたが、その前にはいつの間にかジンが立ちはだかっていた。男は魔道具を構えようとしたが、ジンが手を前に出すとそれは弾かれて宙に舞った。そこで間髪入れずにレウスがその男の首筋を打って意識を刈り取った。
レウスはすぐに無言で男達が持っていたリュックを調べる。その中には様々な魔道具らしきものが詰まっていた。
「これからどうするんだ?」
ジンがそう言うと、レウスはハイガルに通信を入れた。
「魔道具を持ってどこかに行こうとしていた男を取り押さえましたよ」
「そうですか、例の建物からですね? 制圧はできますか?」
「あの建物からで間違いないですよ。制圧も問題ありません」
「責任はこちらで取りますので、遠慮はいりません。証拠として必要なので、設備を全て破壊するようなことはやめておいてくれると助かります」
「そうしますよ」
そこでレウスは通信を切ると、ジンに視線を向けた。
「そういうわけです」
「それなら、急いだほうがいいだろうな。だが、ここの魔道具はどうする?」
「そこらへんの屋根の上にでも置いてきてください」
「わかった」
ジンは二つのリュックを持つと、すぐに近くの屋根にそれを置いて戻ってきた。そして、二人は合流すると、すぐに見張っていた建物の前に移動した。
「制圧と言っていたが、どうやるんだ」
「正面から行くだけですよ」
そう言って建物に無造作に近づいたレウスは、そのドアを躊躇なく蹴り破った。屋内は一見したところ普通の集合住宅のロビーのようだったが、人の気配はない。
「俺は地下に行くので、上は頼みます」
それだけ言うとレウスは返事を待たずに下りの階段に向かう。そうして二階ぶんほど降りると、鋼鉄の扉が目の前に現れた。
「当たりか」
レウスは杖をガランダルドに変えて構えると、それを扉に向かって振り下ろした。それから間髪入れずにそこに蹴りを入れると、剣によって作られた裂け目から扉は真っ二つに開いた。
レウスはすぐに中に入ると、剣を構えてその内部を見回す。そこは明らかに建物の見た目以上の広さがある工場で、魔道具の製造設備が整然と揃えられていた。
そこには人の気配がなかったが、レウスは注意深く足を進めていく。
「魔剣使い、そんなのがいたとは聞いていたわ」
レウスは声が聞こえてきた方向、自分の右手に体を向けた。そこは暗闇だったが、そこからゆっくりと女の格好をしたものが姿を現す。
「お前は、アエチディードとかいう魔族か」
「念のためにここにも送っておいたけど、外れではなかったようね」
アエチディードはそうつぶやくと、意識をレウスに向けた。
「ここである程度見せてもらう必要があるわね」
そう言ったアエチディードから、濃厚な闇の気配が放たれた。レウスはそれに一瞬気圧されたが、すぐに気を取り直すと、ガランダルドを構える。
「お前は大した力の持ち主らしいな。ちょうどいい、俺と遊んでもらうぞ」
レウスは勢いよく踏み込むと、ガランダルドから闇の刃を放つ。アエチディードはその一撃を軽く指で弾いて消してしまった。だが、レウスはそれがわかっていたかのようにして、その横に回りこんでいる。
そして、剣から闇が伸び、アエチディードをとらえようとした。アエチディードはそれに抵抗するような素振りも見せずに、おとなしくそれに引きずり込まれた。
「なるほど、面白いことをやるのね」
アエチディードはそう言って周囲を見回す。レウスはそこに側面から切りかかったが、その直前にアエチディードが手を上げると、闇の結界がより深い闇によって上書きされた。その余波によってレウスの足も止められてしまう。
「ちっ、魔族には通用しないか」
それから、レウスは剣を自分の右手に剣を突き刺し、ガランダルド・ブラッドをその手に持った。アエチディードはそれを見て、かすかに眉を動かした。
「悪くないわね」
そのつぶやきが終わる前に、レウスは黒い血管を伸ばしていた。それはアエチディードの体を拘束し、レウスはそこに剣の一撃を叩き込んだ。
「なるほど、いい攻撃だったわ」
そう言って軽く笑うと、アエチディードの姿が霧散し、周囲の闇も消えて
いった。
「本体じゃないな…」
レウスは歯を食いしばると、魔剣を杖の姿に戻した。上からは、ジンが起こしているらしい騒乱の物音が聞こえていた。




