早速の動き
アナスタの後についたキーツは研究室に到着していた。狼もとりあえずその部屋に入って隅のほうで丸まっている。アナスタはそれを一瞥しただけで、特に何も言わず、キーツに白衣を差し出した。
「とりあえず着て。王都で現物を見ている君に見てもらいたいものがあるから」
「はい、そのものはどこにあるんですか?」
「試験室。来て」
アナスタは二重になっている扉を通って、様々な試験器具が置かれている試験室に入った。キーツも続いてそこに入り、室内を見回す。そこには本部に負けないだけの実験機器が並んでいた。
「パイロフィストはどこにでもこれだけの設備を揃えているんですか?」
「必要ならそうしてる。それより、これを見て」
アナスタは実験台の上に転がる剣を指差した。
「昨日押収された魔道具。君は王都で解体もしてるんでしょ」
「はい、それなりに出来がいいものでした」
「実際に見ているなら、大いに助けになる」
そうしてアナスタは手袋をキーツに手渡すと、自分も同じものを装着する。
「さて、キーツ君、解体は?」
「できます」
「なら、任せる」
「はい」
キーツは剣の前に立つと、それを手にとってよく見てから、工具を一つ選ぶ。それで刀身を外すと、さらに違う工具で柄部分の分解を始め、すぐに内部の回路を露出させた。そこにはマジックカートリッジとシンプルな魔法回路がある。
「王都で見たものと似ていますね。複雑ではないですけど、誰にでも使いやすく、十分な威力が発揮できそうです」
それから、キーツは拡大鏡を手に取ると、それで魔法回路のパターンを調べ始めた。しばらくそうしていると、うなずいたキーツは拡大鏡を置いた。
「魔法回路の癖も王都のものと似ていますね。設計者は多分同じでしょうか」
アナスタはそれにうなずくと、キーツの前に資料を置いた。
「データはこれね」
キーツはそれに目を通し、目の前の魔道具が間違いなく王都で見たものと
同じだという確信を抱いた。
「間違いないですね。この魔道具はノーデルシア王国で魔道具を製造されていたものと同じです。これなら製造していた設備も同じようなものでしょうし、魔道具を製造している工場も絞込みやすくなると思います」
「それなら、すぐに資料を集めて調査かな。実働部隊にも連絡しないと」
そう言うと、アナスタは試験室の扉に手をかけたが、そこで動きを止めて顔だけキーツに向けた。
「君は自由にこの部屋と研究室を使ってくれていいから」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ」
アナスタは一つうなずくと外に出て行った。キーツはそれを見送ってから、再び実験台の上の剣と向き合うことにした。
一方、アクシャ達は街に出るべく準備をしていた。
「さて、それじゃあトーラはあたしと一緒だ。青年とジンはあんたにまかせるよ」
アクシャがそう言うと、ハイガルは難しい顔をする。
「私は皆さんの力を把握していませんが」
「ああ、こっちは大丈夫だし、そっちも青年は特に街中での戦闘で大いに役立つ力を持ってるし、ジンは偵察なんかにも役立つさ」
「そういうことならばわかりました。私のほうは巡回が戻ってきてから出ます」
「はいはい、こっちはてきとうに行かせてもらうよ」
アクシャは手を振りながらトーラを引っ張って外に出て行った。それとほぼ入れ違いでアナスタが姿を現す。
「副隊長、ちょっと」
ハイガルはそれにうなずくと、レウスとジンを置いて部屋の外でアナスタと向かい合う。
「どうしました?」
「キーツ君のおかげで魔道具の密造工場の絞込みが進んだ」
「そうですか、その情報は」
アナスタは無言で一枚の紙をハイガルに差し出した。ハイガルはそれに目を通してから、自分の腰のポーチにしまう。
「ちょうどいいですね、あの二人に早速頼むことが出来ました」
「あとはよろしく。こっちはこっちでやるから」
「よろしく頼みますよ」
ハイガルとアナスタはそこで分かれると、アナスタは支部内のどこかに、ハイガルはレウスとキーツの元に戻った。
「では行きましょうか。早速頼むことが出来ました」
そして、三人は支部から出ると、車に乗り込んだ。
「どこに向かっているんだ?」
「先ほどお話した魔道具の密造工場があると思われる場所です。多少絞り込めましたので、皆さんのことが相手に知られる前に動くことにしました」
「そうか。ならどうしてアクシャ達に別行動をさせた」
ハイガルは振り向かなかったが、なぜか笑ったような雰囲気を出した。
「止める間もなかったといったところですが、結果的にあのお二人は自由にしてもらったほうが良さそうですね。特に聖剣使いの彼女が目立ってくれれば、いい陽動になります」
「性格が悪いんですね」
レウスにそう言われると、ハイガルはかすかに首をかしげた。
「よく言われます。しかしそれが私の仕事ですから」
それから数十分後、車はハイガルが地図で示した近くに到着していた。ハイガルは地図を取り出すと、それに何かを書き込んで、腕輪と一緒にレウスに差し出す。
「その地点に向かってください、それから連絡用の魔道具も渡しておきますので」
「それで、何をすればいいんですか」
「とりあえずは待機していてください。こちらで相手をおびきだすようにするので、何か動きがあったらそれを止めて、相手を無力化してください」
「つまり、お前達が敵を誘き出すから、それに反応した連中を捕らえればいいんだな?」
確認するようなジンの言葉に、ハイガルはうなずく。
「簡単に言えばそういうことです。余裕があったら密造工場を制圧してもかまいませんよ」
「急な話だ。本当にそこまでやっていいんだな」
ジンが質問ではなく、確認の言葉を発した。ハイガルはその目を真っ直ぐ受け止める。
「責任は私が取ります。いきなりのことで驚きもあるかと思いますが、これがパイロフィストの流儀でもありますから」
「人々を守る、だったか。お前達はそのためなら、どんな手段でも使うんだったな」
ジンはドアを開けて外に出た。レウスもそれに続いてドアを開けたが、車を降りる前に口を開く。
「俺は俺のやりかたでやりますよ」
「君の戦い方は聞いてますから、心配をしていませんよ。では、気をつけて」
レウスも外に出ると、ハイガルは車をすぐに発進させた。そして残されたキーツとレウスはその場で街並みを見回す。
「それで、あの男が言っていた場所はどこなんだ」
「それならこっちですよ」
レウスは地図を広げながら歩き出した。
「それより、なにかあったら俺が最初に動くので、邪魔はしないでくださいよ」
「わかった、お前がそう言うならそうしよう」
二人は微妙な距離をたもったまま歩き続けた。




