首都到着
「よく来てくれた! わしはこの地域を預かる隊長、クラールだ!」
キーツ達の前には、大柄で筋骨隆々の立派な髭をたくわえた中年の男、クラールが立っていた。腰には二本の太刀を差している。
その前にアクシャが一歩踏み出した。
「アクシャだ、よろしく」
そしてアクシャは胸ポケットから一角獣を出し、それを元のサイズに戻した。それを見たクラールは一瞬目を見張ったが、すぐに満面に笑みを浮かべる。
「おお! こんな動物は初めてだ!」
クラールは一角獣に近づいてその首を撫でた。
「しかし、こいつはいい馬だ。どこまでも駆けていけそうな風格がある」
「へえ、中々見る目があるねえ。あんたの言う通り、この子だったらこの大陸のどこにだって行けるよ」
「そうだろう。是非乗せてもらいたいものだ」
アクシャとクラールは友好的に盛り上がっていたが、そこにハイガルが一歩踏み出す。
「隊長、時間もあまりないですから」
「おお、そうだったな! では他の者も紹介してもらおう」
「ん、じゃあ少年から」
言われた通り、キーツが一歩前に出た。
「僕はキーツ、ノーデルシア王国の王立学院に通っています」
「マーガレットから聞いているぞ、大変優秀だとな」
次はジンが前に出る。
「ジンだ。世話になる」
「お主は超能力者というものだな、中々いい面構えだ!」
そしてクラールはその隣のレウスに視線を移すと、手を叩いた。
「君がレウスか。アテリイから見所のある若者がいると聞いていたが、確かに只者ではない雰囲気があるな」
「よろしくお願いします」
レウスは軽く頭を下げただけだった。トーラはその横に勢いよく踏み込む。
「いよいよあたしの番ね!」
「あー、これがトーラ、聖剣の継承者ね」
アクシャがあっさりそう言うと、トーラは勢いあまってその場で転んだ。その場の空気が少しの間固まるが、それはクラールの大笑いで破られた。
「なるほど、伝説の聖剣使いとはこんな可憐な少女だったのだな!」
トーラは立ち上がると、髪をかきあげてなんとかその場を取り繕った。
「ま、まあね。まあこのあたしが来たからには、何があっても安心よ」
「その力、明日にでも見せてもらいたいものだ」
「見世物じゃないけど、あなた達だけに見せるなら、まあ特別にいいかな」
「そうか! それなら後で是非見せてもらいたい!」
それからクラールは狼の前で片膝をついた。
「ふむ、美しい狼だな。一匹で人と行動をするとは面白い」
そうして狼の頭を軽く撫でると立ち上がる。
「さて、わしはこれから巡回がある。ハイガル、戻るまでは頼んだぞ」
「はい」
クラールはハイガルの肩を力強く叩くと、大股でその場から離れていった。それを見送ったハイガルはすぐにキーツ達に向き直る。
「では、ご案内します」
ハイガルに先導され支部に入ったキーツ達一行を迎えたのは、忙しく働く職員達だった。
「いやあ、よく働くもんだねえ」
「違法な魔道具の製造組織に関しての情報が集まっていますから。その整理と調査に全員が追われています」
「それだったら、少年は詳しいよな」
アクシャがそう言ってキーツの背中を叩くと、ハイガルは目を細めてそこに視線を向けた。
「マーガレット部長が言っていたのはあなたでしたね。そういうことでしたら、ここの技術の責任者を紹介しますから、会ってみてください」
「はい、わかりました」
ハイガルは一度その場から離れると、まだ若い白衣をまとった女性を一人連れてきた。
「この支部の技術責任者、アナスタです」
ハイガルに紹介されたアナスタという女性はキーツに目を向けると、軽くうなずいた。
「君が部長の言っていた…」
それだけ言うとアナスタはすぐに背を向けて歩き出した。
「こっちに」
「はい」
キーツはその後について歩き出し、狼もついていった。トーラは何か聞きたそうにアクシャに顔を向ける。
「少年はあっちでいいんだよ、難しーいことをやるんだから」
そう言われたトーラは少し首をかしげて、手を叩いた。
「じゃあ、後で見に行ってみる」
「好きにしなよ。じゃ、ハイガル君、続けて案内よろしく」
「はい、ではこちらに」
ハイガルは表情を変えずに体の向きを変えると、キーツ達とは反対方向に歩き出した。そして到着したのは、机が並ぶ地味な部屋だった。
「ここが我々実働部隊の部屋です。見ての通り、基本的には事務室ですね」
それからハイガルはホワイトボードに歩み寄り、その脇にある地図を張り付けた。
「これはこの街の地図です、何か気づくことはありませんか?」
アクシャたちはそれぞれその地図の近くまで移動すると、それに注目する。その中で最初に口を開いたのはアクシャだった。
「街の西の赤い丸は何だい?」
「それが魔道具の密造工場があると思われる場所です」
「へえ、ずいぶん範囲が広いんだね。それに、ここは行政府の近くに見えるけど、そんなところにそういうもんがあるもんかね?」
「政府中枢に近いのなら、パイロフィストでも簡単には調べたり、立ち入ったりはできないんじゃないですか?」
レウスがアクシャのあとをついて言うと、ハイガルはうなずいた。
「その通りです。我々がパイロフィストとはいっても、場所が場所なので、公式には簡単に手が出せません。情報だけはなんとかすることができても、実際に行動はできない。それに、我々をよく思わない存在もいるのが厄介です」
「つまり、どっかお偉い人の中に密造に関わってる人物がいて、あんたらを邪魔してるっていうのかい?」
アクシャの言葉には、ハイガルは少しだけ満足そうな表情を一瞬浮かべた。
「そういうことです。さらに問題なのは、我々は皆知られていて、こちらが動けば少なからず相手にもそれがわかるということです。それに、密造工場とは離れた場所で狙ったように事件が起こっていて、中々集中できません」
「そこまでわかっているのなら、なぜ強引にでも動かないんだ。お前達の実力なら、たとえ一人でもなんとかできるはずだ。特にあの隊長ならな」
ジンの疑問にはハイガルでなく、アクシャが答える。
「下手なことしたら、この国が大混乱に陥るくらい微妙な状況なんだろうよ。そうなったらパイロフィストでも厳しい。だから、あたし達がこれだけ歓迎されてるわけ、な?」
それにハイガルは今度こそはっきりと、にやりと笑った。
「話が早くて助かります。皆さんの実力は聞いていますし、そちらのトーラさんは聖剣使い。この街では顔も知られていない少数精鋭、これが我々が待ち望んでいた、状況を変えられる一手になります」
そして、ハイガルはホワイトボードの上の棒を手に取り、それを伸ばした。
「では皆さん、てきとうにかけてください。現在のこの国の状況と、これからの方針を説明します」
レウスとジンはすぐに手近な椅子に座り、アクシャはあくびをしていたトーラを引っ張って椅子に座らせると、自分はその後ろの席に陣取った。




