ロベイル共和国入国
旅は特に何の問題もなく順調に進み、もうすぐロベイル共和国に入れるところまで来ていた。
「順調でしたね」
歩きながらキーツがそう言うと、アクシャはあくびをした。
「まあね、とりあえず近くの町に到着すれば首都まではすぐだよ。迎えも来てるはずだし」
「迎えとは何だ?」
ジンが聞くと、アクシャは振り向いて笑う。
「パイロフィストの人間が車と一緒に待ってるはずなんだよ。旅は大体予定通りだから、合流には問題ないはずだ。ま、連絡もとってるし」
「つまり、何かパイロフィストと共同してやることがあるのか」
「その通りその通り。少年はわかるだろう?」
「まさか、魔道具の密造組織に関わることですか?」
「当たり。あの連中は人手が足りないからね、このレベルの高い一行に目をつけたわけ」
そうして歩き続け、夕方には一行はロベイル共和国の町に到着した。
「さてさて、迎えはどこかな」
アクシャは周囲を見回すと、すぐに目的の人物を見つけた。それはその人物も同じようで、近づいてくる。
「お待ちしていましたよ」
その人物は眼鏡をかけ、小柄だが抜き身の刃物のような雰囲気を持った男だった。
「私はパイロフィスト所属、ロベイル共和国配属小隊の副隊長、ハイガルと申します」
そうして差し出された手をアクシャは握り返した。
「お迎えご苦労さん。あたしはアクシャ、ハンターだよ。まさか副隊長さんなんて偉い人が来るとは思わなかった」
「あなた達は本部の推薦ですから。それより、宿にご案内します」
「よろしくよろしく」
「こちらにどうぞ」
ハイガルは表情を変えずにアクシャ達を先導し、一行は宿にたどり着いた。そこは質素だが清潔な宿で、それぞれに個室が用意されていた。
「翌朝お迎えにあがります。今日はゆっくりお休みを」
そう言い残すと、ハイガルはその場をすぐに去ってしまった。
「愛想のない奴だねえ。ま、そんなことよりせっかく屋根のあるところで眠れるんだから、ゆっくりすることにしますか」
アクシャはそう言うと自分の部屋に入っていった。
「あたしもとりあえず休む」
トーラも同じように部屋に入っていき、ジンも一つうなずいただけで無言で同じようにした。
「僕も休もうと思いますけど、レウスさんはどうするんですか?」
「俺は少し町を散歩してきますよ」
「わかりました。また夕食の時に」
キーツはレウスを見送ってから狼と一緒に自分の部屋に向かった。そして、キーツが扉を開けると、狼が先に部屋に入ってベッドに登って寝そべる。
「さて、資料の整理からかな…」
そうつぶやいて椅子に座ると、キーツは自分のカバンからノートを取り出して机の上に置いた。それを開くと、そこには今までのデータに加え、アクシャの技術とトーラの聖剣の力のことが書き加えられていて、かなり混沌としたものになっていた。
だが、キーツにはその中に自分が進むべき道を見ていた。
「アクシャさんの技術は一つの精霊の力によって他の精霊の力を使うもの。これは魔力でも代替できるけど、それには人間の魔力ではとても足りない。そして、聖剣の力の本質は記憶。エレメントストーンがそれに関与している可能性がある、か」
そこで言葉を切ると、キーツはノートに新しい文字を書き込んでいく。
「エレメントストーンの特殊な魔力の伝導はひょっとして記憶の力の作用なのかもしれない。とりあえず、今はその記憶の力に絞って調べるべきかな」
そこで狼があくびをしてキーツの思考は遮られた。キーツは立ち上がって振り返ると、狼の隣に座る。
「そういえば、お前はなんで一緒についてきてるんだろうな」
キーツがその首筋に手を置くと、狼は頭をその手のひらに押し付けてきた。
「お前には不思議な力があるみたいだけど、正直よくわからないな。おじさんやアクシャさんは色々知ってるみたいだけど、教えてはくれないし」
もちろん狼がそれに答えることはなく、キーツは単純に狼とたわむれて夕食までのんびりすることになった。
そして翌朝、ハイガルが予定通り現れ、一行は用意された大型の車に乗り込んだ。
「首都にはどの程度で到着するんですか?」
キーツが尋ねると、ハンドルを握ったままハイガルは答える。
「何もなければ昼過ぎには到着しますが、そこから我々のこの国における拠点に到着するまでは、もう少し時間がかかります」
「ふうん、ところであんたらは何人いるんだい?」
アクシャが口を挟んだが、ハイガルは同じ調子で答える。
「現在、実働部隊は私を含めて六人です」
「ノーデルシア王国のほうと一緒か。けっこう力入れてんだね」
「この国はあまり状況がよくないので、本部でも重要視しているんです。それこそ、部外者の力を借りてもいいと考えるくらいに」
「いやいやいや、目標達成に柔軟なのは悪いことじゃないさ」
そこで会話は打ち切られ、数時間後。車は首都の門をくぐっていた。
「ここは城壁があるんだな」
ジンが外を見ながらそう言う。
「王国だった頃の遺物ですけど、今は観光名所にもなってるらしいです」
「さすが少年。ま、この城壁が本体の目的で役に立つようじゃ困るわけだけどねえ」
「この街の壁は我々です」
ハイガルはきっぱり告げた。アクシャはそれに笑みを浮かべる。
「そうこなくっちゃ」
そして、それからしばらく後、車はパイロフィストの拠点に前まで到達していた。そこは本部に比べるとだいぶ小さな建物だったが、堅牢さは上回っているように見える、砦と言いたくなるような雰囲気だった。
「到着しました。降りてしばらく待っていてください」
キーツ達が車を降りると、ハイガルは裏手の車庫に車を移動させていった。
レウスは腕を組んで建物を見上げる。
「ずいぶんと物々しい雰囲気ですね」
「確かに、ノーデルシア王国の本部とはまるで雰囲気が違いますね。これもこの国が不安定なせいなのでしょうか」
キーツがそう言って、レウスと並んで建物を見上げた。その横ではアクシャがてきとう
に歩き回っている。
「まあ、そうかもねえ。少年に青年、とりあえず気を引き締めておいたほうがいいよ、何が起こるかわからない。それからトーラ、あんたはふらふらしないようにしな、観光なら後で行けるから」
「わ、わかってるし! 観光とか別にそういう目的じゃないし!!」
トーラはあからさまに同様していて、図星としか考えられない様子だった。
「街だったらすぐに見られるさ。その前にあんたの力をここの連中に見せる必要があるけど」
「力?」
「実力がわかれば、あんたを巡回とかに加えたくなるさ。絶対確実だ」
そう言われ、トーラは握りこぶしを作って気合を入れた。ジンと狼はその様子を気にすることなく、街のほうを眺めていた。そうしているうちに、車を置いたハイガルが戻ってくる。
「お待たせしました。それでは隊長のところにご案内します」




