聖剣のこと
レウスとトーラがやりあっている頃、キーツとジンはあの老人と向かい合って座っていた。狼は近くの床に寝そべっている。
「つまり、聖剣というのは歴代の使用者全ての力を宿しているものなんですか」
「そういうことになります。剣の技術も精霊の力も、聖剣の継承者が使ったものならば使えるのです」
「でも、それはいったいどういった原理なのでしょうか? 剣が所有者を選び、その能力を記憶して、それを継承者が使えるというのは、途方もない話ですよね」
「私は個人的な興味で色々調べはしましたが、結局何もわかりはしませんでした。しかし、あなたが見せてくれたあの石が聖剣に使われていることはわかっています」
「エレメントストーンが?」
キーツは驚き、それから自分の持っているエレメントストーンを取り出した。
「そう、それです。どんな意味があるものかはわからないのですがね」
「それなら、僕が研究した資料があります。少し待っていてください」
キーツは席を外して外に出て行った。狼はそれについていき、残ったジンは老人の顔を真っ直ぐ見る。
「俺にはお前達が何を言っているのかよくわからないんが、聖剣というのがと想像を超えるものだというのはわかった」
「確かにそうです。その力が全て発揮されれば、現代の魔法技術以上の力が発揮できるでしょう」
「そこまでの力があるのか。だが、あの若い娘がそこまでできるのか?」
「あの子は才能があります。アクシャ殿がそれを引き出してくれました」
「アクシャはここに来たことがあるようだが、何が目的だったんだ?」
「アクシャ殿は何回かここに来たことがありますよ、幼い頃は先生と呼ぶ女性と来ていました。聖剣やこの里にいたく興味を持って、変わった知識や技術を持っていましたね」
老人が言葉を切り、しばらくするとキーツが戻ってきた。そして、その手に持ったノートを老人に差し出す。
「これは僕が王都でとったエレメントストーンのデータです。見てみてください」
老人はそれを受け取ると、うなずきながら目を通し、半分ほど読んだところで顔を上げた。
「私には理解できないところもありますが、よくこれほどのデータをとれましたね」
「設備の整った場所で実験ができたおかげです。基礎的なデータはとれましたけど、その先はまだこれからです」
「そういうことでしたら、私達の研究が役に立つかもしれませんよ。こういった基礎的なデータはありませんが、実際の働きを見て得られたものは役に立つでしょう」
「たしかに、そうですね。それに、聖剣にエレメントストーンが使われているというなら、実際にその働きを観察すればわかることがあるかもしれません」
「それなら、俺達も向こうに付き合ったほうがいいんじゃないのか」
ジンがそう言うが、キーツは首を横に振った。
「いえ、僕があの二人の立会いを見たところでなにもわかりませんよ」
「俺なら一応見ることはできるだろうが、お前が求めるものはわからないだろうな。どうするんだ?」
「トーラさんに協力してもらうしかありません。旅の準備もあって忙しいとは思いますけど、大丈夫でしょうか?」
話を向けられた老人は、うつむいて考えるような仕草をすると、小刻みにうなずいた。
「それなら大丈夫でしょう。その変わり、あの子には街のことを話してあげてください。都会に行きたくて里を飛び出すくらいですからね」
「僕にできる範囲でやってみます」
「この里にはあの子は同年代も少ないですし、キーツ殿のような友達はいませんでしたから、喜ぶと思いますよ」
「そうだといいんですけど、僕は勉強ばかりですから」
「それこそ、この里に足りないものです」
「わかりました」
キーツは立ち上がり、ジンもそれにならった。狼も立ち上がってから老人を一瞥してその二人について外に出て行った。
そして、トーラ達がいる場所に向かう途中、ちょうど戻ってくる三人と出会った。
「おや、少年。あのじいさんとの話は済んだのかな?」
「はい。それで、トーラさんの力を借りたいことができたんです」
「あたしの?」
トーラが自分を指差すと、キーツはうなずく。
「はい。トーラさんのことをもっと知る必要があります」
「えっ? そ、そんないきなり…」
「僕ではトーラさんから直接教えてもらうしかないので、ぜひお願いします」
キーツが頭を下げると、トーラはまごついた様子で助けを求めるようにアクシャに顔を向けた。アクシャはそれにうなずき、トーラの肩に手を置くと、優しげな笑みを浮かべる。
「少年は将来有望だし、いい相手じゃないか」
「え、ええ。やっぱり都会に行くならそれくらいじゃないとね…」
そうつぶやいてからトーラはキーツに向き直った。
「いいわよ、じゃあとりあえず家に行きましょうか」
「はい」
その返事を聞いてトーラはアクシャにぐっと近づいて、耳打ちの姿勢になる。
「ついてきてよ!」
「はいはい、お嬢様のおおせのままに」
アクシャは小声で応じてから、いい笑顔になった。
「青年、あんたはジンでも連れて一休みでもなんでもしてきなよ。こっちはこっちでてきとうにやっとくから」
レウスは一つため息をつくと、無言でジンに手招きをして里の外に向かって歩き出した。それを見送ったアクシャは手を叩く。
「さてさて、それじゃあトーラのお宅訪問かな」
「別に大したもんじゃないのわかってるでしょ」
そう言いながらトーラは先頭に立って歩き出した。その後ろをキーツとアクシャが歩き、狼が後ろについて歩き出す。
そしてしばらく歩くと、小さな家が見えてきた。トーラはその前で足を止める。
「ここがあたしの家。一人暮らしだから狭いけどね」
三人と一匹がその中に入り、キーツは室内を見回した。室内はあるていど掃除されているが、色々散らかっていて乱雑な印象がある。
「トーラさんはずっと一人で暮らしていたんですか?」
「まあ、両親は物心つく前に病死したから、小さい頃は長老のところにいたけど、十歳くらいでここで一人暮らし始めたわけ。色々うるさいの嫌だったし」
「そうだったんですか。僕は王都で二人暮しですけど、トーラさんはすごいですね」
「別に、自分のことは大体できるし、あたしは聖剣の継承者だから特別だし。早いところこんな田舎出て行って都会に行きたいからその練習」
「いやいやいや、こんなド田舎で一人で暮らせても都会とは全然違うから」
アクシャは手を振りながらそう言うと、かまどに手を置いた。
「王都じゃ、これだって魔道具使うのがあたりまえだよ」
「そんなのわかってるから」
トーラはそう言うと、テーブルに座り、キーツに視線を向ける。
「だから、あたしに王都のこと教えてよ。それなら、あたしのことを教えてあげてもいいけど」
「はい、そういうことならいくらでも」




