隠れ里
キーツ達一行の前には、この時代にそぐわない村の光景が広がっていた。
「ここが隠れ里なんですか」
キーツの言葉にアクシャはうなずく。
「そうだよ少年。見た目はド田舎の中のド田舎だけどね」
「だから嫌なんだけど」
「そう言いなさんな」
アクシャは悪態をついたトーラの頭に手を置いた。
「元々、あんたを連れ出そうと思って来たんだよ。だから、とりあえずはおとなしくしておきな」
その言葉にトーラは目を輝かせた。だが、アクシャはその口に手を当てて黙らせる。
「ほら、いいから行くよ」
そして一行は村に向かって歩き始めた。
「トーラ!」
村の前まで来ると、一人の初老の女が走ってきた。その女はアクシャを見ると表情を和らげる。
「あなたでしたか、早かったですね」
「まあね。この子のことも含めて、落ち着いて話さないと駄目だから、案内よろしく」
「わかりました。ご案内します」
村に入っていくと、そこは実にのどかで、王都とは全く正反対で時間の流れすら違うように感じられた。キーツは興味深げに周囲を見回し、多少古いが魔道具があるのを見つけた。
「この村は外とは頻繁に交流があるんですか?」
その問いにはアクシャが答える。
「ここはノーデルシア王国の王室とかパイロフィストの上層部とは交流があるんだよ。例外としてはあたしの先生とかみたいな変わり者が研究目的で来たりすることもある」
「アクシャさんも以前に来たことがあるんですよね」
「まあね。あたしはけっこう最近のお客さんで、その時この子と会ったわけだ」
「精霊のご加護を受けた方は特別です」
初老の女性が口を開くと、ジンが首を傾げる。
「それはどういうことなんだ?」
「伝説では聖剣使いは精霊の力をその身に宿すことができるといいます。その力は魔族をも滅ぼすほどだったということです」
「そうなのか、それは見てみたいものだな」
そうしている間に、村の中でも大きな建物に到着した。
「皆さん、どうぞ中に」
一角獣は外に残し、一行と狼はその中に入った。そして円卓のある大広間に通された。
「しばらくお待ちください」
初老の女が一礼して出て行き、それぞれてきとうに椅子に座った。だが、トーラだけは立ったままアクシャに近づく。
「本当に大丈夫なの?」
「あんたを連れ出すくらいなら別に問題ないよ。まあ、問題はそこの少年が色々と調べ物ができるかだ」
アクシャが顎でキーツを指すと、トーラはキーツを見て腕を組んだ。
「あたしと同じくらいに見えるけど…」
「あの少年はすごい秀才なんだよ。あんたと違って」
「ふうん」
トーラは少し今までとは違う目でキーツを見ることにした。そこにさっきの初老の女が、一人の老人を連れて戻ってきた。
その老人はキーツ達を見回してから、トーラを見る。だが、特に何も言わずに空いている席に座ると、まず軽く頭を下げた。
「皆様、遠路はるばるようこそおいでくださいました。我々はあなた方を歓迎いたします」
そこで言葉を切ると、まずはアクシャに視線を向ける。
「まずはアクシャ殿、お久しぶりです。あなたの先生は元気にされていますか?」
「さあね、まあ元気にしてると思うけど」
「そうですか。では、今回の来訪の目的について教えて貰えますかな」
「少年、君の目的を話してくれるかな」
「はい」
アクシャに話を振られたキーツは立ち上がった。
「僕はノーデルシア王国の王立学院で学生をやっているキーツという者です。今はパイロフィストで、ある物質の研究をしています」
「まだお若いのに素晴らしいことです。その物質というのは?」
キーツは自分の前にエレメントストーンを置いた。それを見た老人は目を細める。
「ほう、その石ですか…」
「何かご存知なのでしょうか?」
「ある程度は知っていますよ。後ほどお互いにわかっていることを話し合いましょう」
「はい、よろしくお願いします」
キーツはそう言って腰を下ろした。それを笑顔を浮かべて見た老人は、レウスとジンに視線を移す。
「アクシャ殿、そちらの方々は?」
「そっちの杖持ってるほうがレウス、魔剣とかいうのを使う。で、パッとしない顔してるのがジンだ。魔法でも精霊の力でもない、特殊な力を使う。あとそこの狼は、まあとりあえず気にしないでいいから」
老人はそれにうなずくと、まずはレウスに視線を向けた。
「魔剣使いとは、また珍しい」
「知っているんですか?」
「はるか昔、最強の聖剣使いと言われている方がいまして、その方が一度魔剣使いと手合わせをしたことがあると、この村には伝わっています」
「へえ、おもしろい伝説があるね」
アクシャが口を挟むと、老人は首を横に振った。
「私どもは事実だと考えています。現在の聖剣継承者、トーラはまだ未熟ではありますが、最強に肩を並べうる才を持っています」
「一度手合わせをしてもらいましたが、滞在中もお願いしたいですね」
「トーラ、ご要望にお答えしなさい」
そう言われると、トーラは少し嫌そうな表情を浮かべつつうなずいた。そして、老人は次にジンに顔を向ける。
「ジン殿、あなたは何がお望みかな」
「特にない。だが、ここはいいところだ。自由に歩かせてもらえるとありがたい」
その言葉に老人は微笑を浮かべた。
「そういうことならば、ご自由にどうぞ。なにもないところですが」
「礼を言う。俺の力が必要なことがあったらいつでも言ってくれ」
それに老人がうなずくと、アクシャが一つ手を叩いた。
「ま、話は済んだね。それじゃとりあえずは宿だ、準備は出来てるかい?」
「もちろん出来ています。すぐにご案内しましょうか?」
初老の女が答えると、アクシャはうなずいた。
「よろしく、それじゃあ諸君は一足先に行ってて休んでおくといい。あたしはまだこのじいさんと話があるから」
それから数分後、円卓に残っているのはアクシャと老人だけになった。
「アクシャ殿、あの狼は…」
「ああ、あれが魔族に狙われてる。まあ、今は見つからないようになってるけど、それもずっとっていうわけにもいかないね」
「そうですか。まさか狼にあの力が宿るとは」
「混沌の力ね、まさかそんなもんが目の前に出てくるとは思ってなかったなあ。たしか、伝説の勇者と一緒に戦った人もそれ持ってたんだっけ?」
老人はだまってうなずき、立ち上がった。
「これもまた何かの運命でしょう。トーラのことはアクシャ殿にお任せします」
「はいよ、任されました。ま、あの少年のことは頼んだよ」
それに老人は満面の笑みを浮かべた。
「私の知っていること全てを伝えることにしましょう」




