超能力者も人間
二日後、キーツ達は四つ目の町に到着していた。王都からだいぶ離れたそこは、今までよりも小規模な町だった。
「さて、そろそろ目的地に近づいてきたねえ。ここからは野宿になるけど、準備はいいかい」
車から降りたアクシャが声をかけると、キーツはうなずいた。
「わかりました。じゃあ、僕は食料の買出しに行ってきます」
「俺も行きますよ」
レウスはそう言って、二人は町の商店街に足を向けた。狼もそれについていく。
「さてジン、あんたはちょっと付き合ってもらおうか」
「わかった、いいだろう」
一角獣をその場に残すと、アクシャはキーツ達とは反対側に歩き出し、ジンもそれに続いた。そして、公園に到着すると、アクシャは露店でお茶を二つ買い、一つをジンに手渡してから、近くのベンチに腰かけた。
ジンもそのとなりに腰かけると、アクシャはお茶を一口飲み、足を組む。
「あんたの超能力だっけ、それはどんな能力なんだい?」
「手を触れずに物を動かせる。基本はそれだ」
「へえ、じゃああたしの腕を上げたりとかできるの?」
「生物を直接動かすのは無理だ」
「でも、あんたは飛んでたっていう話を聞いたけど」
「それは仲間の能力だ。空気を操るのに特化している。俺はそれを見て、真似ている」
「なるほどなるほど、直接じゃなくて、空気を使ってね、なかなかたいしたもんだ。そういえば、あんたの仲間はもう一人いたんだろう」
ジンはお茶を一口飲んでからそれに答える。
「もう一人は金属を操る能力だ」
「あんたらの力はまるで精霊の力だけど、その力を使うのに魔法も精霊も関係してないなんて、こりゃ先生が知ったら大喜びだ」
「先生というのは、お前の師匠だったか」
「そう、まあ今は気にしないでいい。それよりもあんたの力、どの程度のもんなのかね」
その問いにジンはしばらく考える様子を見せてから、口を開いた。
「魔族には勝てない。今はまだな」
「そのうちなんとかなりそうな口ぶりだねえ」
「俺の力は最初よりもだいぶ増してきている」
「へえ、それじゃあ」
アクシャは自分の持っているお茶をジンに向かって放り投げた。それは中のお茶ごとジンの目の前で一瞬止まると、中身がカップに戻ってその手の中に収まった。
「細かい使い方も思いのままじゃないか、その調子なら大丈夫そうだ」
それからアクシャは立ち上がった。
「あんたも色々準備しておくといいよ。野宿となれば面倒なこともあるから」
ジンの返事を待たず、アクシャはさっさと立ち去ってしまった。残されたジンはカップを露店に返すと、あてもなく歩き出した。
こうして穏やかに日中の小さな町を歩くのは、ジンにとっては新鮮な感覚だった。王都とは違い車も人も建物も少なく、自然が豊かで、空気も澄んでいるように感じられた。
「平和というものか」
そうつぶやきながら、ジンは町を歩く。だが、散歩だけをしているわけにもいかないので、とりあえず手近な通行人に声をかけて雑貨屋の場所を聞くと、そこに足を向けた。
雑貨屋はそれなりに立派な建物の一階にあり、外にも日用品が並べられている。ジンはそれを一通り見てから、店内に入っていく。
「いらっしゃいませ!」
元気のいい若い女性の声が響いた。店内には様々な生活必需品が並び、ジン以外にも数人の客が買物をしている。
ジンはとりあえず店内を一回りしたが、野宿に必要なものがはっきりわからなかったので、店員に声をかけることにした。
「少し聞きたいんだが」
「はい!」
元気のいい女性店員がにこやかに返事をする。
「野宿に必要なものを探している。初めてのことでよくわからないので教えて欲しい」
「野宿ですね。失礼ですがお客様は野宿の経験は?」
「記憶にある限りではない」
「そうですか、まずは水、食料に雨風をしのぐものでしょうか」
「いや、それなら連れが用意しているはずだな。四人で旅をしているところだから、基本的なものはあるとして、個人で必要なものを教えてもらいたい」
その問いに店員は少し考えるような仕草をしてから、歩き出した。そして衣料品の場所で足を止める。
「夜は寒くなりますし、清潔でいるのは重要なので服は余分に持っておくといいです」
「なるほどな。他には」
「そうですね」
そこからまた移動すると、今度は食料品の棚の前で止まった。
「食料があるといっても、個人である程度保存食を持っておくといいですよ。はぐれてしまう可能性もありますから」
そう言って、棚に並んでいる缶詰を指差した。ジンはその一つを手に取る。
「なるほどな、確かにいざというときのためにこういうものは持っておくべきか」
それからジンは次々に缶詰を確認したが、特に判断はつかずに店員に顔を向けた。
「よくわからない。六日ぶんほど選んでくれ」
「それなら、魚と肉の煮物に水も必要ですね」
店員はかごを取ってくると、その中に缶詰を次々と入れていった。次は衣服をかごに入れる。
「六日ならこの程度ですね」
「なら、これで頼む」
「はい、ありがとうございます!」
そうして勘定を済ますと、ジンはサービスでもらった手提げ袋に缶詰と服を満載して道に立っていた。
「大荷物になったな」
とりあえずジンは一度車に戻ることにした。そこにはアクシャが戻ってきていて、元のサイズの一角獣の毛をブラッシングしていた。そのアクシャはすぐにジンに気がつく。
「おやおや、そんなに買物してくるとはね」
アクシャは少しあきれたような顔をした。
「これで六日分らしいが」
「いや、その半分で大丈夫だから。まあ、どこにでも商売上手はいるもんだねえ」
「そうなのか」
ジンはうつむくが、アクシャはその手からかごを奪い取ると、車に放り込んだ。
「まあ、この程度なら土産にもなるし、別にいいけど。で、いくらかかったの」
「この程度だ」
ジンが領収書を出すと、アクシャはそれに目を通してうなずいた。
「まあ、値段は高くないか。悪くない店を見つけたのはあんたの超能力かい」
「いや、俺にそういう能力はない」
「冗談だよ。それより、この町はどうだった? 今までは大体宿に泊まるだけだったし、こういう小さな町をのんびり歩くのは初めてなんじゃいのかい」
「そうだな、ここはいいところに見える。王都よりも静かで、平和だ」
その答えにアクシャは笑みを浮かべる。
「なるほどなるほど。まあこれからはしばらく人里を離れるし、もう少し町を満喫してきたらどうだい。ここはあたしが見てるから」
「わかった、それならもう少し町をまわってくる」
「はいよ、まあ早めに戻ってきな」
ジンはアクシャに手を振られ、再び町を散歩することにした。




