剣の道
二つ目の町に到着したのは、そろそろ日が落ちる時間になってからだった。一行はすぐに宿をとるが、レウスは荷物を置くとすぐに外に出て行ってしまった。
「そういえば、昼のあれは何だったんだい?」
食堂に落ち着いたアクシャがジンにたずねると、返ってきた反応は落ち着いたものだった。
「暇だったから少し体を動かしていただけだ」
「ふうん。少年、あの青年は修行の旅をしてるんだったっけ」
「はい、そうらしいです」
「伸び悩んでる感じがするねえ。筋は悪くないし、本人もそれはわかってそうだけど」
「そうなんですか」
「だから今も落ち着かないでふらふらしてんでしょ。いいねえ、悩めるうちに思いっきり悩んでおけばいいんだよ」
そう言ってアクシャはビールをぐっと飲み干した。
「ところで、あの狼は」
「今日はずっと車でおとなしく寝てましたね、湖でもそうだったんですか?」
キーツに聞かれたジンはうなずいた。
「そうだったな。特にあの周囲に興味がある様子もなかった」
「ま、おとなしくしてるんならそれで結構」
アクシャはコップを置くと、骨付きの肉を手に取った。
その頃、レウスは夜の町を一人で歩いていた。その頭の中では、昼間の出来事が渦巻いている。
以前よりはるかに力をつけたジン、そして自分やそのジンよりも強いというアクシャの存在。アクシャの実力はまだ見たことがなかったが、アテリイの話からも相当な実力者だというのはわかっていた。
「ブラッドのその先か…」
そうつぶやくと、レウスは近くの店に近づいてその扉を開けた。店内は賑わっていたが、満員というほどではなく、レウスは空いているカウンターに腰かける。
「酒以外のものを」
そうして小銭をカウンターに置くと、バーテンダーは黙ってそれを受け取り、ジュースをレウスの前に置いた。レウスはそのよく冷えたジュースに口をつけると、ため息をついた。
「…親父はブラッドの先に行くには覚悟が必要だと言ってたな」
レウスは杖を強く握った。もちろんそうしたところで何か反応があるものでもない。
「人間を捨てるほどの覚悟、そんなもんどうすればいいんだ」
そうつぶやいてレウスは目を閉じたが、それで答えがでるはずもなかった。しばらくしてから、その前にバーテンダーが立つ。
「兄さん、だいぶ悩んでるな」
それにレウスは思わず顔を上げた。バーテンダーはそれに対してもう一杯ジュースをレウスの前に置いた。
「これはなんですか?」
「気にするなよ。ま、悩みは口に出したら楽になるもんだ。あんた旅をしてるんだろ、なら、俺なんかは話をするにはちょうどいい」
「…師匠に言われてたことを考えてただけですよ」
「その師匠っていうのは、何か武道かい」
「剣術ですよ」
バーテンダーはその答えに笑みを浮かべる。
「そいつはいい。有名になれたらうちの店の宣伝でもしてくれよ」
レウスは軽く首を傾げてから、二杯目のジュースを一気に飲み干した。
「それは無理でしょうね。別に有名になろうとは思ってないので」
「強くなれば自然と名が高まるもんだよ。あんたは強くなるって、俺の勘がそう言ってるんだ」
「それはどうも。でも上の壁は高いんですよ」
「そのほうが乗り越えた時に強くなれるっていうもんじゃないか」
「ものは考えようか」
レウスはそうつぶやいて笑うと、立ち上がった。
「この店を宣伝するのは引き受けましたよ」
「よろしくな」
店を出たレウスは今までよりもすっきりした表情をしていた。
そして翌朝、出発してから最初の休憩で、レウスは木に寄りかかっていたアクシャに近づいた。
「少し話があるんですが」
「なんだい青年」
「俺の修行に付き合ってもらえませんか」
アクシャは姿勢を変えると、口元に微笑を浮かべた。
「で、なんであたし」
「俺はあなたの実力も、戦いかたも知らない。でも俺より強いのはわかってます」
「なるほどなるほど、まあ参考にはならないと思うけど、別にかまいやしないよ」
アクシャはそれからキーツとジンに向かって手を上げた。
「ちょっと散歩してくるから、てきとうに待ってて」
そして、レウスとアクシャは少し離れた場所に移動した。そこでレウスはガランダルドを剣の形にする。
「なんでもいいので、攻撃してきてください」
「攻撃ね。ま、怪我しないように」
アクシャは足元から石を拾うと、それを一度上に放り投げてからつかみなおした。
「打ち返してみな」
手のひらに乗せた石を左手で軽く弾いた。次の瞬間、その石は凄まじい勢いでレウスに向かって放たれる。レウスがそれに反応して剣を振り上げ、石を砕こうとするが、それは空を切り、石はその背後の地面に埋まった。
「だめだめ、もっと直前まで見てよく狙わないと」
そう言うとアクシャは地面から石を三つ拾った。
「じゃあ、次は踏み込んでかわしてみな」
そしてもう一度石を弾くと、レウスはアクシャの言葉に従って踏み込む。そして一発目は剣で弾き、二発目は軽く跳んでかわした。
「はい、終わり」
レウスの目の前には、石を乗せたアクシャの手の平があった。
「どうも青年は動きが正直だねえ。反応事態はいいけど」
「見切ってるんでしょう?」
「まあ、今の青年の動きならね。でも、全力じゃないでしょうが」
「いえ、反応速度はこれくらいが限界です」
それからレウスは後ろに下がり、アクシャは手を引いた。
「なら、それの強化かね。あんたは基本的に近づかないと駄目みたいだし、そこさえやればその剣は力はありそうだねえ」
「わかるんですか、見せてないのに」
「いや、あんたのやばさは見ればわかるから。でもまあ、荒削りなのは確かだ」
「なら、どうすれば?」
その問いにアクシャは眉間を指でつまむ。
「そう言われてもねえ。まあ、耐えるっていうのは一つの選択肢なんじゃないの」
「耐える?」
「そうそう、とにかく防御で相手との間合いを詰めて、一撃必殺でズドンっていうやつ。まどろっこしいからあたしの好みじゃないんだけど」
「守って、反撃…」
そうつぶやきながら、レウスは剣を杖に戻すと、アクシャに向かって頭を下げた。
「ありがとうございます。いい修行になりました」
「そうかい。ま、参考になったならよかったよ。でも一撃必殺っていうのは難しいもんだけどね」
「いや、俺には向いてますよ」
そう言うとレウスは背を向けて車のほうに戻っていった。




