出会った者達
「なにやら大変なことがあったみたいだねえ」
夕方、食事が終わった頃、ファマドは色々情報を仕入れたらしく、昼にあった謎の男による事件のことをキーツに話し始めた。
「大事だったみたいですね。学院にも噂が流れてきてましたよ」
「それはどんな噂だったのかな?」
「警備隊をあっという間に倒してしまったとか、近づいた人が倒れたとか話を聞きました」
「ふむ、大体は合ってるかな。でも、どうやらその謎の男には魔法が一切効かなかったらしい。これはけっこう大変なことだよねえ」
ファマドはそう言いながらも、どこか楽しげな様子だった。
「魔法が効かないとなると、大変ですね。警備隊に軍も、みんな魔道具で武装していますし」
「そうだねえ、それでもパイロフィストならなんとか戦えるだろうけど。まあ、苦戦するだろうね。それよりも、謎の男の目的が気になるね」
「暴れた以外は何もしなかったと聞きましたけど。その後はどこかに消えてしまったんですよね」
ファマドはそれにうなずくと、お茶を一口飲んだ。
「そう、今の王都で姿を消すことができるなんてよほどのことだよ。それに、そうしたっていうことは、暴れる以外に何か重大な目的があるはずだ。何だと思う?」
問われたキーツは考え込んだが、しばらくしてから口を開いた。
「わかりません。一体何が目的なんでしょうか」
「さあ、近いうちにわかりそうだけどね」
そう言ってファマドがもう一口お茶を口に含んだ瞬間、爆音が響き、建物が揺さぶられた。キーツは立ち上がったが、ファマドはお茶を全くこぼさずに天井を見上げた。
「来たみたいだね」
「近いですよ、どうしましょう!?」
「行こうか、放っておくわけにもいかない」
ファマドが立ち上がり迷わずに外に出ると、キーツもその後に続いた。そして、外に出た二人はすぐに巨大な火の手を目撃した。
「近いね、急ごう」
二人が走り、燃えている建物の近くまで来ると、そこには焼け出されたらしい家族と、それを助けたり、ただの野次馬だったりが集まっていた。そんな中、燃えている家屋の中に人影が現れる。
「なるほど、あれが噂の男だね。見るからに普通じゃない」
ファマドの言うとおり、その人影は火の中にもかかわらず、その周囲の状況から何の影響も受けていない様子で、ゆっくりと外に出てきた。そして、ファマドとキーツに目をつけたようだった。
「こっちを見てますよ」
「そうだね、とりあえず人を避難させないとまずいか。時間稼ぎ、大丈夫かな?」
「はい、少しなら大丈夫です」
「じゃあよろしく」
そう言うとファマドは野次馬の方に走り、すぐにその集団を動かし始めた。そして、謎の男と人々の間にはキーツが一人立ちはだかる。
男は足を止め、キーツと数秒向かい合ったが、再び歩き出し、その周囲の瓦礫が浮かび上がった。次の瞬間、それがキーツに向かって動き出す。
「プロテクション!」
キーツが叫びながら手を振ると、その前面に大きく青い透明な壁が出現した。その壁は飛来した瓦礫を全て弾き返し、消えた。
男はその様子を見て首を傾げると、さらに足を踏み出そうとしたが、その前に何かが凄まじい勢いで落ちてきた。
それは赤いスーツに身を包んだ女、アテリイだった。アテリイはすぐに状況を確認すると、キーツに顔を向ける。
「大丈夫か!」
「はい、大丈夫です」
「すぐに避難を、後は任せろ!」
「わかりました!」
キーツはすぐに後ろに下がって、どうした手段を使ったのか、人々を全て避難させていたファマドと合流する。
「パイロフィストか、思ったよりも早かったね」
「でも、大丈夫でしょうか」
「大丈夫だと思うよ、彼女はエースだ。それより、もう少し下がっておこう。派手なことになりそうだし」
「はい」
ファマドとキーツが後ろに下がり、それを確認したアテリイが男に顔を向けると、男は再びゆっくりと動き出す。
それに動じず、アテリイは剣を抜き、男に向かってそれを突き付けた。
「警告する。止まれ」
静かでよく通る声が響いた。だが、男は止まることなく、ゆっくりとアテリイに近づいてくる。
「そうか、ならば拘束させてもらう」
アテリイはそれから姿勢を低くすると地面を蹴り、一瞬で男の横に移動していた。そこから剣の柄を男に叩き込もうとしたが、男は右手だけを上げ、それを受け止める。その瞬間、二人を中心として衝撃が走り、大気を震わせた。
「ほう、二人ともとんでもないね」
ファマドはつぶやき、キーツは黙ってその状況を見ている。アテリイと男は数秒その体勢のままでいたが、アテリイは地面を蹴って距離をとった。
男はアテリイが飛び退いた方向に体の向きを変えると、右手を確かめるように撫で、口を開いた。
「他の人間とは、違うな。この武器も、やはり違う」
奇妙にかすれた声だったが、それは不思議とよく響いた。
「お前の名を聞かせてもらおう」
アテリイの問いに、男は首をかしげる。
「名? そんなものは、知らない」
「なら、お前は何者だ」
「何者だ?」
男は逆に問いを発した。
「ならば、お前の目的は何だ。なぜ破壊行動をして、人を傷つけている」
「…決められたことだ」
そこで男は地面を蹴り、瞬時にアテリイの前まで到達する。アテリイはそれに素早く反応し左手を突き出すと、その前の空間が一瞬歪む。
次の瞬間、そこから爆発が起こり、男はそこに真っ直ぐ突っ込むことになった。男は衝撃に後ろに下がるが、その体に傷らしいものは見当たらない。
「全くというわけではないようだが、魔法が効かないというのは本当か」
アテリイはつぶやくと剣を構えなおした。
「強い力だ」
男はつぶやき、自分の手のひらを見つめた。すると、そこに黄色の光が現れる。アテリイはそれを見るとすぐに身構える。
「まずい、壁を頼むよ」
「はい、プロテクション!」
ファマドの言葉にキーツが二人を覆うようにして壁を出現させた。次の瞬間、燃えていた建物が丸ごと浮かび上がる。
「これは!?」
アテリイの声と同時に、それは急降下を始めた。それに対し、アテリイは右足を後ろに引いて姿勢を低くすると、剣を片手で地面と水平に構える。その剣にガントレットから力が集中していき、白い光を発していく。
「モード、ブリザード!」
その声と同時に剣が振るわれ、白い光が一気に膨れ上がり、急降下してくる建物に向かっていく。光は氷となり、凄まじい竜巻となって建物を砕き始めた。
破片が周囲に降り注ぐが、細かく砕かれたそれは建物には大したダメージにはならず、唯一この場に残っていた二人も、キーツの張った壁によってやり過ごすことが出来た。そして、それが収まった頃には男は姿を消していた。
アテリイは剣を収めると、ファマドに向かい、軽く頭を下げた。
「ファマドさん、ご無沙汰していました。一緒に本部まで来て頂けますか」
ファマドはそれに軽く手を振る。
「ああ、まあいいよ。でも、この子も一緒に行かせてもらうよ」




