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異端の継承者  作者: bunz0u
第一章
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出会った者達

「なにやら大変なことがあったみたいだねえ」


 夕方、食事が終わった頃、ファマドは色々情報を仕入れたらしく、昼にあった謎の男による事件のことをキーツに話し始めた。


「大事だったみたいですね。学院にも噂が流れてきてましたよ」

「それはどんな噂だったのかな?」

「警備隊をあっという間に倒してしまったとか、近づいた人が倒れたとか話を聞きました」

「ふむ、大体は合ってるかな。でも、どうやらその謎の男には魔法が一切効かなかったらしい。これはけっこう大変なことだよねえ」


 ファマドはそう言いながらも、どこか楽しげな様子だった。


「魔法が効かないとなると、大変ですね。警備隊に軍も、みんな魔道具で武装していますし」

「そうだねえ、それでもパイロフィストならなんとか戦えるだろうけど。まあ、苦戦するだろうね。それよりも、謎の男の目的が気になるね」

「暴れた以外は何もしなかったと聞きましたけど。その後はどこかに消えてしまったんですよね」


 ファマドはそれにうなずくと、お茶を一口飲んだ。


「そう、今の王都で姿を消すことができるなんてよほどのことだよ。それに、そうしたっていうことは、暴れる以外に何か重大な目的があるはずだ。何だと思う?」


 問われたキーツは考え込んだが、しばらくしてから口を開いた。


「わかりません。一体何が目的なんでしょうか」

「さあ、近いうちにわかりそうだけどね」


 そう言ってファマドがもう一口お茶を口に含んだ瞬間、爆音が響き、建物が揺さぶられた。キーツは立ち上がったが、ファマドはお茶を全くこぼさずに天井を見上げた。


「来たみたいだね」

「近いですよ、どうしましょう!?」

「行こうか、放っておくわけにもいかない」


 ファマドが立ち上がり迷わずに外に出ると、キーツもその後に続いた。そして、外に出た二人はすぐに巨大な火の手を目撃した。


「近いね、急ごう」


 二人が走り、燃えている建物の近くまで来ると、そこには焼け出されたらしい家族と、それを助けたり、ただの野次馬だったりが集まっていた。そんな中、燃えている家屋の中に人影が現れる。


「なるほど、あれが噂の男だね。見るからに普通じゃない」


 ファマドの言うとおり、その人影は火の中にもかかわらず、その周囲の状況から何の影響も受けていない様子で、ゆっくりと外に出てきた。そして、ファマドとキーツに目をつけたようだった。


「こっちを見てますよ」

「そうだね、とりあえず人を避難させないとまずいか。時間稼ぎ、大丈夫かな?」

「はい、少しなら大丈夫です」

「じゃあよろしく」


 そう言うとファマドは野次馬の方に走り、すぐにその集団を動かし始めた。そして、謎の男と人々の間にはキーツが一人立ちはだかる。


 男は足を止め、キーツと数秒向かい合ったが、再び歩き出し、その周囲の瓦礫が浮かび上がった。次の瞬間、それがキーツに向かって動き出す。


「プロテクション!」


 キーツが叫びながら手を振ると、その前面に大きく青い透明な壁が出現した。その壁は飛来した瓦礫を全て弾き返し、消えた。


 男はその様子を見て首を傾げると、さらに足を踏み出そうとしたが、その前に何かが凄まじい勢いで落ちてきた。


 それは赤いスーツに身を包んだ女、アテリイだった。アテリイはすぐに状況を確認すると、キーツに顔を向ける。


「大丈夫か!」

「はい、大丈夫です」

「すぐに避難を、後は任せろ!」

「わかりました!」


 キーツはすぐに後ろに下がって、どうした手段を使ったのか、人々を全て避難させていたファマドと合流する。


「パイロフィストか、思ったよりも早かったね」

「でも、大丈夫でしょうか」

「大丈夫だと思うよ、彼女はエースだ。それより、もう少し下がっておこう。派手なことになりそうだし」

「はい」


 ファマドとキーツが後ろに下がり、それを確認したアテリイが男に顔を向けると、男は再びゆっくりと動き出す。


 それに動じず、アテリイは剣を抜き、男に向かってそれを突き付けた。


「警告する。止まれ」


 静かでよく通る声が響いた。だが、男は止まることなく、ゆっくりとアテリイに近づいてくる。


「そうか、ならば拘束させてもらう」


 アテリイはそれから姿勢を低くすると地面を蹴り、一瞬で男の横に移動していた。そこから剣の柄を男に叩き込もうとしたが、男は右手だけを上げ、それを受け止める。その瞬間、二人を中心として衝撃が走り、大気を震わせた。


「ほう、二人ともとんでもないね」


 ファマドはつぶやき、キーツは黙ってその状況を見ている。アテリイと男は数秒その体勢のままでいたが、アテリイは地面を蹴って距離をとった。


 男はアテリイが飛び退いた方向に体の向きを変えると、右手を確かめるように撫で、口を開いた。


「他の人間とは、違うな。この武器も、やはり違う」


 奇妙にかすれた声だったが、それは不思議とよく響いた。


「お前の名を聞かせてもらおう」


 アテリイの問いに、男は首をかしげる。


「名? そんなものは、知らない」

「なら、お前は何者だ」

「何者だ?」


 男は逆に問いを発した。


「ならば、お前の目的は何だ。なぜ破壊行動をして、人を傷つけている」

「…決められたことだ」


 そこで男は地面を蹴り、瞬時にアテリイの前まで到達する。アテリイはそれに素早く反応し左手を突き出すと、その前の空間が一瞬歪む。


 次の瞬間、そこから爆発が起こり、男はそこに真っ直ぐ突っ込むことになった。男は衝撃に後ろに下がるが、その体に傷らしいものは見当たらない。


「全くというわけではないようだが、魔法が効かないというのは本当か」


 アテリイはつぶやくと剣を構えなおした。


「強い力だ」


 男はつぶやき、自分の手のひらを見つめた。すると、そこに黄色の光が現れる。アテリイはそれを見るとすぐに身構える。


「まずい、壁を頼むよ」

「はい、プロテクション!」


 ファマドの言葉にキーツが二人を覆うようにして壁を出現させた。次の瞬間、燃えていた建物が丸ごと浮かび上がる。


「これは!?」


 アテリイの声と同時に、それは急降下を始めた。それに対し、アテリイは右足を後ろに引いて姿勢を低くすると、剣を片手で地面と水平に構える。その剣にガントレットから力が集中していき、白い光を発していく。


「モード、ブリザード!」


 その声と同時に剣が振るわれ、白い光が一気に膨れ上がり、急降下してくる建物に向かっていく。光は氷となり、凄まじい竜巻となって建物を砕き始めた。


 破片が周囲に降り注ぐが、細かく砕かれたそれは建物には大したダメージにはならず、唯一この場に残っていた二人も、キーツの張った壁によってやり過ごすことが出来た。そして、それが収まった頃には男は姿を消していた。


 アテリイは剣を収めると、ファマドに向かい、軽く頭を下げた。


「ファマドさん、ご無沙汰していました。一緒に本部まで来て頂けますか」


 ファマドはそれに軽く手を振る。


「ああ、まあいいよ。でも、この子も一緒に行かせてもらうよ」

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