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異端の継承者  作者: bunz0u
第一章
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青い狼

「外はどんな状況なんでしょうか…」


 キーツは不安そうな表情を浮かべていた。その向かい側に座っているファマドは落ち着いた様子でお茶を口に含む。


「さっき結界が破られたようだけど、パイロフィストと国の軍が総出で対応してるし、大丈夫なんじゃないかな。大量の魔物に攻められたとしても、少なくとも一晩くらいならね」

「そうですよね」

「そう、だから今日はもう休んだほうがいいよ、明日は学院は休みだけどね」

「わかりました」


 キーツは立ち上がると、自分の部屋に移動した。しかし、ベッドに横にはならずに、机に向かう。そして、パイロフィストでの実験の結果を書いたノートを取り出すと、それを読み返し始めた。


 それから少しして、窓の外を何かが落ちてきたのが見えた。キーツはすぐに居間に向かったが、そこにファマドの姿はなかった。


「おじさん?」


 キーツは声を上げるが、それに返事は無い。そこでキーツは少し迷ったが、落ちてきたものを確認しようと窓から顔を出す。


 そこから目に入ったのは、青い毛を持った動物らしきものだった。


「青い、狼?」


 つぶやいたキーツは、その獣に魅せられ、今の状況を忘れて外に出た。そのままうずくまっている狼に近寄ると、膝をついてその様子を観察する。


 狼の右肩のあたりには大きな傷があり、それ以外にも細かい傷が見受けられ、血が青い毛を汚していた。


「すぐに治療しないと」


 キーツは狼を抱えようとしたが、思ったよりも重く、持ち上げることはできない。だが、狼は目を開けると自分の足で立ち上がった。


 だが、自分を抱えるキーツを振り払おうとはせずに、抱えられたままおとなしく一緒に家に入っていく。


「とりあえずここで」


 キーツは狼を玄関に横たわらせると、救急箱を取り、とりあえず包帯を取り出す。


「いや、その前に傷を洗わないと」


 包帯を置くと、キーツはその場を離れ、バケツに水を入れて持ってきた。それをその場に置くと、さらにタオルも持ってくる。


 それからタオルを水に浸すと、まずはそれで狼の傷の周囲を拭う。それからそのタオルを床に敷くと、傷に水をかけながら洗った。


 その間狼は目を閉じてされるがままになっている。そこにドアを開けてファマドが戻ってきた。


「おや、これはどういう状況なのかな」


 狼はその声に反応して目を開けると、警戒をしている様子で低いうなり声を出した。


「別に怖くはないよ。どうやら怪我をしているようだね、治療してあげてるのかい?」

「はい。外に倒れていたんですけど、なぜか気になって」

「ふむ、確かにその毛の色といい、雰囲気といい、かなり変わっているね」


 ファマドは顎に手を当ててうなずくと、狼をしげしげと見つめる。


「ちょっと変わったお客さんだけど、まあいいんじゃないのかな。僕は少しやることがあるから、少し出かけてくるけど、外には出ないようにね」


 ファマドはそう言うと、荷物をまとめるために自室に向かい、すぐにカバンを持って戻ってきた。その手には小さな瓶がある。


「一応薬を持ってきたよ。動物にも使えるから、塗ってあげるといい」

「ありがとうございます」


 キーツがそれを受け取ると、ファマドはすぐに外に出て行ってしまった。それを見送ると、キーツは再び目を閉じた狼の傷に薬を塗って、その上から包帯を巻いた。


「さて、これでとりあえずは大丈夫かな。あとは小さい傷だけど」


 小さな傷はとりあえずタオルで拭ってから薬を塗りこんでいく。そして、キーツが立ち上がると、狼はその場で小さく丸まった。


「後はゆっくり休むといいよ」


 キーツは狼の頭を撫でると、その場から離れた。


 一方、家を出たファマドはその前で立ち止まっていた。


「あの子は興味深いね。でも、遮蔽結界は張っておいたし、問題はないかな」


 確認するようにつぶやくと、ファマドは空を見上げる。


「これ以上暴れられても困るし、話はつけておいたほうがいいだろうね」


 そしてファマドはその場から消え、その姿は一瞬で空中に転移したかのように見えた。そこでファマドは軽く手を叩く。


「まだこのあたりにいるんだろう? 出てきなよ」


 その言葉に応じるように、ファマドの数歩先の空間が歪み、そこから闇が広がると、アエチディードが姿を現した。


「何の用かしら。見たところ同類だろうけど」

「初めて見る顔だね。今晩の襲撃は君が主導したことかな」

「そうよ」

「ふむ、目的は…」


 ファマドはそこで一度言葉を切るが、答えは待たずにすぐに再び口を開く。


「いや、言わなくていいよ、大体予想はついてる。君の狙いはこの街に潜り込んでいた獣だろう」

「そうね、どこかで見なかったかしら?」

「さあ、知らないね。もう出て行ってしまったんじゃないかな」

「確かに、もうここには気配を感じられないわね…」


 腕を組んでそう言うと、アエチディードは街の外に目を向ける。


「外を探したほうがよさそうね。まあ、そのほうが面倒はないか」


 それだけ言うとアエチディードはその場から姿を消した。


「やれやれ、若いとせっかちでいけない。それよりそこの君、もう出てきても問題はないよ」

「やはり気づいていたか」


 エリオンダーラがファマドの背後に姿を現した。ファマドはゆっくりと振り返る。


「さて、君の狙いを聞かせてもらえるかな? 君はあの中では長生きだし、僕とは知らない仲でもないからね」

「それを言う必要があるのというのか?」

「無理にとは言わないけどね。君は色々と動いているようだし、簡単に種明かしをしたくないのはわかるよ。でも、秘密主義だけではおもしろくならないよ」


 笑いながらそう言ったファマドに、エリオンダーラはため息をついた。


「俺は人間の未知の力を引き出したいと思っている。かつて見たものとは全く違う、新しい力だ」

「なるほど、超能力者の裏にいたのは君か。あの子達はなかなかのものだね」

「超能力者? ああ、いい呼び名だ。あいつらは誰も立ったことがない場所に立つべき者達だからな」

「大した自信だね。だが、人間を導くのは人間だよ、君はあまり手を出さずに、彼らの自由にさせてやるといい。それが魔族と敵対することになったとしてもね」


 ファマドの言葉にエリオンダーラは少し考えるような仕草を見せた。


「それが人間の可能性か?」

「さあね。でも、近々面白いことがあるから、その時は君にも教えてあげよう。しばらくはこの街の近くにいて欲しいね」


 しばらく間があいたが、エリオンダーラはかすかにうなずく。


「わかった。連絡を待たせてもらう」


 そして、エリオンダーラはその場から姿を消し、残されたファマドは息を吐き出した。


「予想よりもずっと面白くなりそうだね。まあ、役者は揃ったようだし、心配はないか。それより、結界の応急措置をしとかないと」


 次の瞬間にはファマドは何事もなかったかのように地面に立っていた。

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