屍竜
「くそ、まだわいてるのかよ!」
マルハスは倒しても倒しても一定以上に数が減らない魔物に悪態をつく。
「元を断たないと駄目だな」
つぶやきながらも動きは止めずに、炎をまとった槍で魔物を薙ぎ倒し続ける。そしてマルハスは魔物を生み出す門を発見した。
しかし、そこまでの道筋は魔物の大群が遮っていて、容易に近づくことはできない。それでもマルハスが勢いを増してその門、空間の歪みまで数十歩というところに到達した時、歪みが一気に膨れ上がった。
そして、そこから一気に巨大なドラゴンが飛び出す。
「こいつ、ゾンビかよ…」
マルハスはその体を腐らせ、嫌な臭いを放っているドラゴンゾンビとでも呼ぶべきものを見て顔をしかめる。それは腐った肉を落としながら空を舞い、声とも言えないようなうめき声を上げると、マルハスを腐った目でとらえた。
「俺を狙うくらいの理性はあるわけだ」
マルハスは周囲の魔物を警戒しながらも空を見上げ、槍を構えた。
「まあ、さっさと片付けて魔族のほうを何とかしないとな。モードファイア、ランス!」
槍をまとう炎が一気に燃え上がり、マルハスの身長の二倍はあろうかという巨大なランスのに変化する。ドラゴンゾンビはその炎にひきつけられるように急降下を始めた。
マルハスはランスを一振りして周囲の魔物を片付けると、すぐに炎のランスの穂先をドラゴンゾンビに向けて構えた。
そして、地面を蹴るとマルハスは放たれた矢のように一直線にドラゴンゾンビに向かう。その一撃は片方の翼をもぎ、ドラゴンゾンビは急降下の勢いのまま地面に叩きつけられて派手に土を巻き上げた。
しかし、ドラゴンゾンビはすぐに体を起こすと、そのもがれた翼が再生する。その一部始終をまだ空中にいるマルハスは素早く見て取っていた。
「ゾンビのくせに再生能力かよ。腐ってもドラゴンってやつか。やっかいなやつだぜ」
そのままマルハスは着地すると、再び炎のランスを構えた。
一方、残りの二班にもマルハスのいる場所と同じようにドラゴンゾンビが現れていた。
「勘弁してくれよな」
両手に曲刀を持ったジョシンはうんざりした表情を浮かべ、前方のドラゴンゾンビを見ていた。
「まあ、ヤルメルのほうも大変そうだし、早いところなんとかしたいところだけど」
そこにドラゴンゾンビの毒のブレスが迫るが、ジョシンは両手の刀を振ってそれを散らした。
「こいつは手強い。ちょっと遅れそうだ、悪いな」
「いいからそっちに集中してろ!」
ヤルメルの怒声が響き、ジョシンは首をすくめた。
「はいはい」
そこにドラゴンゾンビが飛びかかってくるが、ジョシンは素早くかつ大きく横に跳躍してそれをかわす。
「まずはこっちか。モードファントム!」
ジョシンの持つ二本の曲刀が光の刃をまとい、巨大なものとなった。そして間髪入れずに地面を蹴ると、ドラゴンゾンビに上空から切りかかる。
その一撃はドラゴンゾンビの背中を深々と抉るが、すぐに尾が振り回され、ジョシンはその回避のために距離を取ることを余儀なくされた。
そこからドラゴンゾンビは咆哮を上げると、翼を動かして空に舞い上がった。
「硬いな」
そうつぶやいてから、ジョシンは二本の光の刀でドラゴンゾンビに対して構えをとる。そこに毒のブレスが吐き出されるが、ジョシンは地を這うように加速してそれを避けながら、ドラゴンゾンビの真下に到達すると、急制動から地面を蹴って真上に跳び上がった。
「はあっ!」
気合と同時に光の刃がドラゴンゾンビの片翼を切り落とした。ジョシンはそこから反転し、今度はその背中に刃を突き立てる。
「落ちろ!」
ジョシンは力を込め、片翼を失ったゾンビは落下していく。そして、墜落直前にジョシンはその背中から大きく跳躍して転がりながら勢いを殺して、すぐに結果を確認すべく振り向いた。
だが、その目に映ったものは、失った翼を再生したドラゴンゾンビの姿だった。
「ちょっとこれは、本当に勘弁してほしいな」
ジョシンは体勢を立て直して再び光の刃を構えた。
そして、ベネディックも他の二人と同じようにドラゴンゾンビと交戦していた。すでにドラゴンゾンビの両の翼は切り落とされ、再生しているところだったが、そこに二つに分かれた刃から雷の矢が放たれる。
それはドラゴンゾンビの頭を穿つが、それでも倒れることはなく歪んだ咆哮を上げた。
「再生できなくなるまで叩くしかないようですね。ならば、モードライトニング」
ベネディックのブーツが光ると、その姿が消え、瞬時にドラゴンゾンビの背後に現れる。さらにそこからその巨体の周囲を高速移動して、派手にそれを切り刻んだ。
しばらくの間ドラゴンゾンビはされるがままだったが、翼を強引に動かして上昇しながら、でたらめにブレスを撒き散らした。
だが、ベネディックはその攻撃を受けることなく、瞬時に間合いを取っていた。そして再び姿を消すと、今度はその真上に現れる。
そして剣をその背中に突き立てると、その勢いのままドラゴンゾンビを地面に叩き落した。次の瞬間、剣から激しい雷が発した。ベネディックはすぐにそこから離れると、嫌な臭いの煙を上げるドラゴンゾンビの様子をうかがった。
数十秒後、それが動かなくなったのを確認すると、ベネディックはアテリイに連絡を入れながら、残りの魔物の掃討にかかった。
「ドラゴンゾンビか。そんなものまで現れるとは、どれだけの準備をしたというんだ…」
アテリイはベネディック達の報告を聞いてこめかみに手を当てていた。そしてすぐに隊員全員への回線を開く。
「全員聞け、状況は悪いが魔族達はこれ以上のものを用意している可能性があると考えられる。それに対応するために私は動けないが、問題はないな」
アテリイの言葉が終わる同時に、すぐに隊員達の返事がある。
「こちらベネディック、問題ありません」
「こちらジョシン、大丈夫ですよ」
「こちらクリストール、心配ないです」
「こちらヤルメル、隊長はそのまま備えていてください」
「こちらマルハス、客の面倒もちゃんと見ますから」
五人の返事にアテリイはうなずいた。
「よし、皆頼んだぞ」
「了解!」
小気味良い返事があり、通信は終わった。
それと同じ頃、王都のはるか上空に一つの人影が現れる。それは身の丈もあるほどの髪を持ち、ゆったりとしたローブに身を包んだ、人間の姿をしたものだった。
「下はうまくやってるのね、もう少しで本番が始められそう」
それは楽しげに微笑んで王都を見下ろしていた。




