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異端の継承者  作者: bunz0u
第一章
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エレメントストーン

 学院が終わったキーツは、すぐにパイロフィスト本部方面に向かうバスに駆け込んだ。


「ずいぶん急いでいるようね」


 それを迎えたのはエルシアを伴ったレミだった。


「レミさん、まさか僕を待っていたりしたんですか?」

「そうよ、とりあえず一緒にパイロフィストの本部に向かいましょうか」


 レミはそれだけ言うと、後は口を閉ざし、キーツもそれ以上聞くことはしなかった。


 しばらくしてから、パイロフィスト本部の最寄でキーツ達はバスを降りて歩き出した。


「少し歩かせる程度なんて、パイロフィストは基本的に開放的よね。それよりキーツ、私の渡した魔道具は?」

「カバンに入れてあります。僕が指輪をしてたら変に思われそうですし」

「それもそうね、隠していることにも意味があるとも言えるし」


 そうしているうちに三人はパイロフィスト本部の入口に到着し、キーツは守衛に挨拶をして中に入っていく。


 そのまま真っ直ぐ試験室に向かうと、その途中でニッケルと出くわした。


「おや、キーツ君に、レミ様ですか。どうぞゆっくりしていってください」


 それだけ言って笑顔で軽く礼をすると、ニッケルはゆったりとした足取りでその場から去っていった。


「事実上のパイロフィストの指導者ね」

「そうなんですか?」

「常識でしょう。団長は方々を飛び回っていてほとんど落ち着いていないのだから。まあ、こうしてここに出入りしていれば会うこともあるかもしれないけどもね」


 しばらく歩いて試験室に入ると、そこにはすでにマーガレットがいてノートに何かを書き込んでいた。


「あれ、いらっしゃい。今日は別のお客さんもいるのね」


 マーガレットは顔を上げると、レミとエルシアを見て笑みを浮かべた。


「いらっしゃい王女様。今日はどうしたのかしら?」

「キーツがやっていることを見に来たのよ。このままパイロフィストにとられるのは気に食わないし」

「なるほど。モテモテねキーツ君」


 そう言って笑顔を向けると、立ち上がったマーガレットは二人分の白衣を取り出し、レミとエルシアに差し出した。


「とりあえず、着ておいてくれるかしら」


 二人は黙って白衣を受け取ると、それを羽織ってボタンをとめた。


「さて、今日はどこから手をつけるのかしら」


 マーガレットが腰に両手を当てて、すでに白衣を着ていたキーツにたずねる。キーツは自分のカバンからノートを取り出すと、その中ほどのページを開いて実験台の上に置いた。


「今日は僕の考えた回路を利用して、魔力を流す実験ですね。ここでなら、学院とは比べ物にならないレベルのことができるはずなので」

「その通りね」


 マーガレットは棚に近づいて鍵を開けると、そこからピンク色をしたシリンダーを取り出した。


「これは試験用のマジックカートリッジ。車だって余裕で動かせるだけの容量と出力だから、たっぷり使えるわよ」

「ありがとうございます」


 それからすぐにキーツとマーガレットは試験の準備を開始した。レミとエルシアはそれに口を挟まず、ただ黙って見ている。


 基本的にキーツが回路を組み、マーガレットはたまに補助をする程度で、あっという間に試験用の簡易魔導回路が出来上がった。


「段階的に出力を上げていく形で始めます」


 キーツはまずは最小の出力で試験を始めた。段階的に出力を上げながら、エレメントストーンの反応を逐一ノートに記録する。


「ここからは学院ではできなかったレベルになります」


 つぶやくように言うと、多少緊張した面持ちでキーツはエレメントストーンの反応に注目する。それでも何も変化はなく、段階的に出力を上げていく。


 そして、最高出力の一歩手前に設定した時、エレメントストーンが一瞬小さな光を発した。だが、次の瞬間、中心からひびが入り、崩れ落ちてしまった。


「これは面白い現象ね」


 マーガレットが粉々になったエレメントストーンを覗き込んでつぶやく。


「はい。一瞬ですけど、魔力の伝導が完全に止まりました。そして、光った時にはそれが反転したようです」

「魔力が一気に流れたみたいね。それに耐え切れなくて自壊したわけかしら?」

「わかりません。ただ、あの瞬間はエレメントストーンの不安定な性質が安定したように見えました」


 キーツはそう言ってマジックカートリッジを回路から取り外す。

「今までは出力が足りなかったんですね。これでまた新しい実験が色々とできそうです」

「確かにそうね。限界まで負荷をかけるとこんな風になるなんて、今までやらなかったのが迂闊だったわ。とは言っても、そうする理由もなかったのだし、それにこの回路、普通とはずいぶん違うものね」

「はい、このエレメントストーンの性質を生かすことを前提にして考えたものですから。他のものではあまり使えない欠陥回路でしかありません」

「確かに、これではね。誰もここまで到達できなかったのもうなずけるわ。エレメントストーンをまともに使えるものとして研究しようという人もいなかったんだから」


 マーガレットはため息をついた。


「でもここからが難しいわよ。エレメントストーンをうまく制御するためには、かなり繊細な設計が必要になるはず」

「そうですね、高出力の魔力の微妙なコントロールのために、さらに回路を修正する必要があります。回路に使う材料もよく検討しないと」

「これは忙しいことになりそうね。早速使えそうなものをリストアップしないといけないわ」


 そう言うマーガレットは満面の笑顔を浮かべ、試験室から足早に出て行った。残ったキーツは立ったままでノートに何かを書き始め、そこにレミが歩み寄っていく。


「キーツ、どうなったのか私にはよくわからなかったのだけど、説明してもらえる?」


 キーツはその問いに顔を上げると、ペンを置いた。


「そうですね、今起こったのは、基本的に魔力が伝導したりしなかったりという、性質が不安定なエレメントストーンが一瞬ですけど安定したんです」

「でも、壊れたわけね」

「はい、安定するレンジはかなり狭いみたいですね。あるいは、僕の作った回路の問題かもしれません。でも、これならいけます」


 力強い言葉を放つキーツに、レミは微笑を浮かべる。


「突破口ね。最近では一番いい表情をしてる。それでこそ私が目をつけたキーツよ」


 そう言うとレミは白衣を脱ぎ、エルシアも同じようにした。


「私がいても何もできることはないし、今日は退散するわ。あなたの研究、頑張りなさい。それと、私との通信用魔道具くらいは身につけておきなさい」


 そうして白衣を実験台の上に置くと、二人は外に出て行った。一人残されたキーツはカバンから指輪を一つ取り出すと、それを指にはめ、再びノートに向かった。

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