結界強化、超能力
「ファマドさん、わざわざすみません」
「いや、別に問題はないよ」
パイロフィスト本部で落ち合ったアテリイとファマドは車で移動していた。
「それにしても、君達があれだけ苦戦する相手の力は興味深いね。魔法ではない人間の力を超えた未知の能力、超能力とでも呼べばいいのかな」
「超能力ですか、中々いい名づけだと思います」
「それなら、パイロフィストのほうで正式にそう名づけてもらいたいね。超能力者と」
「報告書に書いておきます。それより、そろそろ到着ですよ」
「おや、さすがにいい車を使ってるだけあるね」
アテリイとファマドは車から降りると、その場を見回す。
「さて、結界強化を始めようか」
そうつぶやくと、ファマドは四階建てのアパートに近づき、その周囲の地面に手を触れていく。
「しかし、結界強化の場所を的確につかんでいたのは驚きだね。超能力者達の背後にはよほど知識があるモノがいるらしい。いや、破壊というような方法しかとれないようだと、それほどでもないのかな」
「ファマドさんでなければこれほど簡単にはできないのではないですか?」
「そうかもねえ。大体、結界の強化と言っても、こうするとムラが出来やすくなるし、少し範囲も狭くなる。普通はやる必要はないわけだけども」
「普通でない場合は、必要なんですか?」
「普通の相手でなければ、だね。結界術というのはけっこう繊細だから、色々難しいんだよ」
しゃべりながらアパートを一周してから、元の場所に戻ると、ファマドは一つ手を叩いた。
「これで終わりと。もう一箇所も行こうか」
「ここで終わりではないんですね」
「せっかくだからね」
二人は再び車に戻ると、移動を再開した。
その頃、マルハスはレウスをヤルメルに紹介していた。
「こいつが噂の魔剣使いのレウスだ。で、こっちはヤルメル」
「よろしくお願いします」
レウスが軽く頭を下げて手を差し出すと、ヤルメルはそれをおざなりに握り返した。
「よろしく、まあ実力のほうはそのうち見せてもらうけど」
「おい、レウスの実力は隊長も認めてるんだぞ」
「私は見てない。隊長が言うから一緒に行動するんだ」
それだけ言うとヤルメルは先に歩き出してしまった。マルハスは苦笑を浮かべてレウスに顔を向ける。
「あいつはああいう奴なんだ、気にするなよ」
「別に気にしてませんよ」
「まあ、お前の力を見せればすぐに納得するさ。でも、そういうことがないほうがいいんだけどな」
「そうなんでしょうね」
「お前は騒ぎが起こって欲しそうだな。まあいい、とりあえず足で稼ぐぞ」
そしてマルハスとレウスはヤルメルの後を追って歩き出した。三人は不審な人物を目撃したという情報があった場所、倉庫や工場が並んでいる区画に足を向ける。
「どれくらいで着くんですか?」
「もうすぐだ、ほら、もう煙突が見えてきただろ」
マルハスが指で指した先には高い煙突が見えた。
「さすがに都会はすごいですね」
レウスはそれを見上げて感心した声を出す。ヤルメルは振り向くと、特に何も言わないが、どことなく馬鹿にしたようにも見える表情を浮かべている。
「俺はほとんど山奥育ちなので」
それだけ言ってレウスはわずかに首をすくめた。それを見たヤルメルは軽く息を吐き出すと前を向いて足を速める。
「我が同期ながら、仕方のない奴だな…」
マルハスは小さくつぶやいてペースを合わせた。
そんな調子で三人が目的の場所に到着すると、警備隊が数人で封鎖している倉庫があった。
「場所が絞り込めてたのか?」
マルハスがつぶやいてそこに近づくと、一斉に敬礼が返された。
「ここで何かあったんですか?」
「はっ! 先ほど不審な人物を見たという通報がありましたので、封鎖して警戒にあたっているところです」
「倉庫内は?」
「確認していますが、今のところ何も確認できていません」
「それならすぐに中の調査は我々が引き継ぎます」
「了解しました!」
再度の敬礼にうなずいたマルハスはヤルメルに顔を向ける。
「お前はレウスと外を頼んだ」
「ちょっと、いや、いい」
ヤルメルは何か言いたそうだったが、首を横に振って手を振った。マルハスは一人で倉庫の中に入っていく。
後には緊張した様子の警備隊員と、空を見上げるヤルメル、周囲を見回しているレウスが残った。その二人のぎこちない空気にその場の警備隊員達は緊張している。
しばらくすると、中を調べていた警備隊員全員が外に出てきた。ヤルメルはそれに近づく。
「中の様子は?」
その問いに隊長らしき一人が前に出た。
「何者かがいたような痕跡はありました、ですがそれ以上は何も。今はパイロフィストの
方がお一人で調べています」
「では、引き続き周囲の封鎖をお願いします」
「はっ!」
返事をした隊長の指揮によって、警備隊員達はすぐに周囲に散っていく。
数分後、上から窓が開かれる音がしてヤルメルとレウスがそちらに顔を向けると、マルハスが窓から身を乗り出していた。
「二人とも、ちょっと来てくれ」
それだけ言うとすぐに中に引っ込んでいってしまう。レウスはすぐに中に入っていき、ヤルメルは軽くため息をついてから倉庫の中に向かった。
倉庫に足を踏み入れると、一応明かりはついているが、薄暗く、静かにほこりが舞っているような状況だった。
「あまり人がいたような気配はありませんね」
レウスがつぶやいたが、ヤルメルはそれには答えずに、積み上げられたパレットを調べたりしている。そこに上からマルハスが下りてきた。
「その辺りは、せいぜい誰かが寝起きしてたってくらいしかないぞ」
「確かに、このパレットには人が座ったりした形跡があるな。でも、これだけじゃ何もわからないじゃないか」
「いいから上に来てみろ」
マルハスは下りてきた階段を再び上り、ヤルメルとレウスもそれに続いた。そして、マルハスは自分が身を乗り出していた窓の下で足を止めると、その下を指差した。
「ヘビですか、頭が潰されてますね」
「そうだ、それでこいつは」
マルハスが足でヘビの死骸をひっくり返すと、裏側には小さいながらも手足のようなものが生えているのが目に入った。
「ヘビに手足? わけがわからないんだけど…」
つぶやいたヤルメルにマルハスは笑みを向ける。
「鱗のあったネズミの話はしただろ。こいつはたぶんその同類、魔物になりかかったところを何者かによって倒されたっていうところだな」
「これをやったのがあいつらだとしたら、一時的にでもここを寝床にしていたのかもしれませんね」
「そういうことだ。推測でしかないけどな。でもまあ、これだけ物々しくしてたらあの連中が戻ってくることもないだろうし、技術を呼んで回収させたら俺達は他をあたるとするか」
「何かあったら警備隊にすぐ連絡させるようにしておいたほうがいいんじゃないの?」
「それはお前がやっといてくれ」
ヤルメルはうなずくと、すぐに外に向かった。




