手がかり
レウスとマルハスはパイロフィストの訓練場で向かい合っていた。
「とりあえず、少し俺達の装備について説明しておく」
「いいんですか?」
「別に全部を隠してるわけじゃないからな、まずはこの赤いスーツだけど、これは当然派手なだけじゃない」
レウスはうなずいて先をうながす。
「これはファントムアーマー、特殊な繊維で作られていて魔力をほぼ完璧に伝えられるから、かなり魔法が使いやすくなるし、軽くて動きやすい。装甲も材質は同じ繊維だ」
「見た目は金属みたいですけど、違うんですね」
「そうだ、でも普通の刃物だったらまず通さないし、このスーツの特性のおかげで、どこにでも楽に障壁を張れるから、どんな攻撃にも柔軟に対処できる」
そう言ってレウスは自分の膝の部分に小さな青い障壁を発生させた。
「なるほど、でもそれは魔道具の機能でなく、自力でやってるんですよね」
「そこが技術の見せ所なんだな。それで、このスーツには小型で大容量のマジックカートリッジもついてる。一日中だって戦えるだけの魔力はあるし、自動で魔力を取り込む機能もある」
「すごい技術ですね」
「問題は恐ろしく高いってことくらいだな」
そこで言葉を切り、マルハスは左右の腰に差している二本の棒に手を置く。
「次は俺の武器だ」
そして二本の棒を抜いてそれを繋ぐと、それは一瞬で手槍となった。
「これも魔力が伝わりやすい素材だから」
マルハスが軽く柄を握ると、その穂先に炎が灯る。
「こうやって使える」
「それも、特に機能はないんですか?」
「それは秘密だ」
そう言って笑ってからマルハスは槍を分解して腰に戻した。
「まあ、こんなところだな。他に何か聞きたいことはあるか?」
「いえ、特には」
「じゃあ巡回に出るとするか。王都は広いから、まだほとんど見てないだろ」
「そうですね、お願いします」
二人は訓練場を後にして街に出ることにした。そして、巡回を始めると、レウスが口を開く。
「俺は田舎育ちなのでパイロフィストの歴史はよく知らないんですけど、元々は魔族と戦うための組織なんですよね」
「まあ、そうだけど、魔族と限った話じゃないな。あらゆる脅威からこの世界を守るのがパイロフィストの使命だ」
「最近の件は魔族絡みだと思いますか?」
「それはわからないな。魔族は最近は何十年も出てないし、今回の事件でも、今のところ確認できてない」
「そうですか。ところで、初代の団長っていうのはどんな人だったんですか」
レウスの問いにマルハスは少しの間空を見上げる。
「何百年も前の人だから当然俺だって知らないけど、気さくで強い人だったらしいな。精霊の力が二種類も使えて、勇者から魔法を授けられたりもしたっていう。そういえば、元々はこの国の王子だったんだ。まあ、これくらいは子どもでも知ってることだよな」
だが、レウスは首を横に振った。
「おいおい、どれだけ田舎で育ったんだよ」
「俺は小さい頃からずっと師匠のところで剣だけやってきたので」
「まあ、そうでもなければあれほどには戦えないか」
マルハスはため息をついて立ち止まると、レウスに向き直った。
「お前に教えることは多そうだな。主に常識の点で」
そこでマルハスの通信具から声が響いた。
「聞こえるか、ジョシンだ」
「こちらマルハス、何かあったのか」
「大したことじゃないかもしれないが、どうも変わった事があった。ちょっと魔剣使いとやらを連れてきてくれ、俺達とは違ったものが発見できるかもしれないからな」
「了解、レウスを連れてそっちに向かう。場所は?」
場所を聞いてから通信を終わらせると、マルハスはレウスにうなずいて見せる。
「聞いたとおりだ、付き合ってもらうぞ」
「ええ、もちろんです」
二人は足早にジョシンから連絡があった場所に向かった。
「こっちだ」
倉庫や工場が立ち並ぶ区画で、警備隊が人を寄せ付けないようにしてる中、ジョシンが軽く手を振ってマルハスとレウスを呼び込んだ。
ジョシンとレウスが簡単に自己紹介してから、ジョシンの指で指された地面を見ると、そこにはネズミの死骸が転がっていた。
「ネズミだな、これがどうしたんだよ」
「いいから、もっとよく見てみろ。動かしてもいいぞ」
首を傾げたマルハスにジョシンは。地面に膝をついてネズミの様子をよく見る。首の辺りに鋭利な刃物で切られたような深い傷があるだけで他に変わった様子はないが、それを裏返してみると。
「鱗、ですか」
レウスの言葉の通り、ネズミの体の一部分には本来あるはずのない鱗のようなものが一部分にあった。
「これは…」
「あの魔物にあった鱗に似ていますね」
「そうなのか、マルハス」
「ああ、確かに似てる。でもなんでこんなネズミにこれがあるんだ。というより、なんでこいつを発見出来たんだ?」
「ここで何か騒音があったという通報があったらしい。それで今はこんな事態だから、近くにいた俺に連絡があって、警備隊と一緒に調べに来たんだ」
マルハスは黙ってネズミを地面に置き、腕を組んだ。今度はレウスがそのネズミに顔を近づける。
「この傷は明らかに誰かにつけられたものですね。しかも、その誰かはこのネズミが魔物になりかかった段階で倒してるはずです。おそらく、それはかなり早い段階で魔物化が起こったことを感知しないと無理ですよ」
「ネズミが魔物に変わるか、確かにそう考えられるな。マルハス、お前はどう思う」
「確かにレウスの言う通りだな。なんでというのはともかく、前の件で突然騒ぎが起きたのを考えれば、こいつがあの魔物になるのはそう時間がかからないのは予想できる。だから、問題は誰がこのネズミをそれだけ早く始末できたのかだ」
「完全に魔物化したものを倒したら後には何も残りませんでしたからね」
三人はそこで一度会話を切って黙り込んだが、その沈黙を破ったのはレウスだった。
「パイロフィスト以外でそんなことができるのは、今のところあの謎の男達しかいませんよね」
それにジョシンはうなずく。
「確かに、あの連中ならそれくらいできそうだな。アーマーなしだったとは言っても、俺も抑え切れなかったし」
「で、なんでその連中が魔物を狩るんだ?」
「それは当人達に聞いてみないことにはな。まあ隊長の話だとその機会もすぐに来るだろ」
「そうだな、張り込みは嫌いだけど、そうも言ってられないか。そういえばレウス、お前にはまだ話してなかったな」
「何の話なんですか?」
「あの連中が次に現れそうな場所が二ヶ所あるんだよ。そこで張り込んで連中を捕らえるのが次の任務だ。もちろんお前にも協力してもらう」
レウスはそれに間髪入れずに力強くうなずいた。
「そういうことなら、こちらからお願いしたいくらいです。あいつらには一度逃げられてますから」
「これは頼もしいな」
ジョシンは笑いながらレウスの肩を軽く叩き、マルハスに顔を向ける。
「俺は技術の連中が来るまでここに残ってる。お前達はもう自由にしていいぞ」
「わかった、それじゃ街の案内に戻るか」
「はい、お願いします」
マルハスとレウスはその場から去り、残ったジョシンはそれからしばらくして到着した技術班にその場を引き継いだ。




