目的
朝、パイロフィスト本部にはファマドの姿があった。そして会議室に向かうと、そこにはイステルとアテリイ、後はパイロフィストの部長三名の姿があった。
「おや、勢ぞろいだね」
ファマドはそう言ってから椅子に座る。それと入れ違いにニッケルが立ち上がった。
「さて、予定していたメンバーも集まりましたから、始めましょうか」
それに続いてマーガレットが立ち上がり、ホワイトボードの前に立つと王都の地図を張った。それから赤い棒を取り出し、地図を叩く。
「では、私から説明しますね。この地図に描かれた印は例の謎の男の一味が破壊行為をした場所です。この目的は不明でしたが、一つの可能性が出てきました」
そこで言葉を切ると、ファマドに視線を向ける。
「なるほど、これは結界の強化だね」
「待ってください、それでは、あの者達は王都の守りを強化するために行動していたと?」
バーブが発言をすると、ニッケルはうなずく。
「そういうことになりますね。行動の意味はわかっても、その動機はむしろ謎が深まります。ですが、あの者達の狙いが王都の治安の悪化につながるものではないとなれば、交渉の余地も出てきます」
「それは確かにそうですな。しかし、どのように接触をするのです?」
「そういうことでしたら、結界術に詳しいファマドさんに教えて頂けると思いますが」
ニッケルが話を振ると、ファマドは微笑を浮かべ、立ち上がった。
「そうだね、結界の強化であるなら、次の行動の予測もできる」
ファマドはマーガレットから赤い棒を受け取ると、地図のうち二箇所を指し示した。
「次があるとしたら、このどちらかになるかな」
「なるほど。アテリイ君、人員の手配はできますか?」
ニッケルの問いにアテリイはうなずく。
「問題ありません」
「そういえば、預かりにした青年は戦力になりますか?」
「大いに力になってくれるはずです」
「では、そちらは任せます。すぐに取りかかってください」
「はい、では失礼します」
アテリイは退室し、バーブが口を開く。
「私はこの件について王国のほうと連絡を取ることにします」
そしてバーブも会議室を出ていった。
「私もキーツ君のところに行こうかしら。後はよろしくね」
マーガレットも出て行くと、それまで黙っていたイステルが口を開く。
「ニッケル部長、どうしようと考えているのですか?」
「どうということもないですよ。ただ、状況をはっきりさせる必要があります。正体不明の魔物も気になりますからね」
「それは我々のほうでも調べます」
「くれぐれもお願いします」
そうしてイステルも出て行くと、残ったニッケルとファマドは微妙な距離をとって椅子に座った。
「…ファマドさん、最近の出来事はどう見ていますか?」
「面白いとしか言えないね。結界の強化ということは外からの脅威に備えるため、それは現れた謎の魔物に関係があるかもしれない。実に面白い」
「魔物に関してはファマドさんでもわかりませんか」
「話を聞いた限りでは、僕も知らないものだろうね。それに、明らかに外からではなく、街の中で発生したと考えられるのは興味深い」
楽しげなファマドだったが、ニッケルは微妙な表情を浮かべる。
「そう言わずに、ファマドさんにも協力していただきたいところですが」
「気が向いたらそうしよう。でも、これはあの子達に、それから君達でなんとかできると思っているし、期待しているんだよ」
「…そうおっしゃるなら、わかりました」
その返事はファマドを満足させたようだった。
「それなら、少しキーツに会って行こうかな。後はよろしく」
ファマドは外に出て行った。最後に残されたニッケルはため息を一つつくと、紙に何かを書き始めた。
そして、パイロフィストの試験室では、キーツが一人で実験をしていた。キーツは淡々とやっていたが、あまりうまくいってはいない様子だった。
「やあ、うまくいってるかな」
そこにファマドが入ってきて、軽く手を上げる。キーツは手を止めて顔を上げた。
「いえ」
「なるほどね」
そう言いながらファマドは手近な椅子に座る。
「まだそれを制御するような方法はわからないわけか」
「はい、基礎的な試験からやりなおしてるところですけど。有効なデータはまだ取れてません」
そこにマーガレットが入ってきた。
「あらファマドさん、来てたの?」
それからマーガレットはキーツの隣に立つ。
「試験結果はどうかしら?」
「これです」
キーツは試験結果を書いた紙を差し出し、マーガレットはそれを受け取ってじっくりと読んだ。
「うまくいってないわね、やはりエレメントストーンは気難しい。何が鍵で特性が変化するのか、それがわからないのよね」
「はい。その条件を探すためにこうして一から調べてるわけですけど、手ごわいですね」
マーガレットは紙を置くと、ファマドに視線を向ける。
「ファマドさんは当然何か考えてるのよね」
ファマドは首を横に振ったが、その表情には笑みが浮かんでいる。
「僕には何もないね、ただ、知り合いなら何か知ってるかもしれない。何しろ、それをエレメントストーンと名づけたのはその知り合いだからね」
「そうだったんですか?」
キーツが聞くと今度はファマドはうなずく。
「まあ、別に隠しているわけじゃなかったけど、実際僕もよく知らないんだよ。だから、その本人か、弟子が来るまでは、こっちでなんとか工夫してみるしかないね」
「その人達は何を研究しているのかしら?」
「精霊の研究だそうです」
「そうなの。ファマドさんの知り合いなら、きっとかなりのものなのね。会えるのが楽しみだわ」
「そうだね、おやちょっと失礼」
そこでファマドは立ち上がって二人に背を向け、胸元からキューブを取り出した。
「何か用かな?」
「あと少しでそっちに私の弟子が到着するはずだ」
「ほう、弟子ね。どんな子だい?」
「会えばわかる。と言いたいところだが、服装だけは教えておこう。緑色のコートを着ている、眼鏡もだ」
「ありがたい情報をありがとう」
「あとのことは本人から聞け」
そこで通信は終わり、ファマドはキューブを元の場所にしまった。それからキーツとマーガレットに振り向く。
「近いうちに待ち人は来るらしいよ。緑一色だそうだ」
マーガレットは手を叩き、笑顔を浮かべた。
「それは楽しみね。一体どんな人なのかしら」
「僕も知らないし、楽しみだよ」
そう言ってからファマドはドアに手をかけた。
「じゃあ、研究のほうは頼んだよ」
ファマドが出て行くと、キーツはすぐに次の実験の準備にとりかかる。
「助っ人は待てないかしら?」
「答えが来るとは限りませんから。僕は僕でやれるだけのことをやらないといけません」
「それもそうね、私も手伝うわよ」




