魔剣の能力
「しかし、まさか魔物が街中に現れるとはな」
マルハスの報告を受けたアテリイは険しい表情を浮かべていた。
「見たこともない魔物でした。それに攻撃力もかなりのものです」
「それで、魔物を倒した青年というのは」
「応接室にオフィさんと一緒にいます」
「そうか、すぐに会ってみよう」
アテリイはマルハスを伴って応接室に足を踏み入れた。そこにはオフィとレウスがおとなしく座っている。アテリイとマルハスはその向かい側のソファーに腰かけた。
「オフィ君は久しぶりだな。そっちはレウス君だったか、私はアテリイ、この王都に配置されている小隊を率いている」
「隊長さんなんですか。お会いできて嬉しいです」
「ふむ、君は少々変わっているようだな。戦いの中ではもっと不敵で荒々しいと聞いたぞ」
そのアテリイの言葉に、レウスは微苦笑を浮かべた。
「戦いになったらそうしろと教えられてたので、今はもう癖になってしまってるだけなんです」
「敵に気圧されないようにするにはいい方法だな。まあ、それはともかくとして、君のその杖はなんだ? 報告では、そのガントレットが刃となって杖が剣になったそうだが」
「これは魔剣といいます」
「魔剣か、魔道具ではないのかな?」
「違います、というか俺もよくわかってはいません。これを作った師匠が秘密主義な人なので」
「そうか…」
アテリイは腕を組んでうなずく。
「だが、それがどう使えるのかはわかっているのだろう?」
「それはもちろんです」
「よし、なら見せてもらうことにしよう」
アテリイは勢いよく立ち上がった。そして、マルハスとオフィが反応する前にレウスが立ち上がる。
「いいですよ。場所はあるんですか?」
「もちろんだ。ついてきてくれ」
アテリイはすぐ外に出て、レウスもそれに続く。マルハスとオフィは顔を見合わせてからその後を追った。
そして、二人がパイロフィストの訓練場に入ると、すでにレウスがその中心に立っていた。アテリイはその数歩先に立ち、腕を組んでいる。
「さて、その杖がどう魔剣になるのかな」
「わかりました、少し下がっていてください」
そう言ってからレウスは杖を左手から右手に持ち替えるべく投げた。次の瞬間、ガントレットが鼓動をうったように見え、それが弾ける。その欠片は空中の杖に集まると一瞬で剣を形作り、レウスの左手に収まっていた。
「なるほど、それが魔剣か。名はあるのか?」
「魔剣ガランダルド、それがこの剣の名です」
「ガランダルド、重厚な名だな。それにしてもこう真っ黒なものだとは」
アテリイはレウスに近づいて、魔剣ガランダルドをしげしげと見る。
「それで、これにはどんな力があるのかな?」
「いくつかあります。少し離れてください」
「そうか、わかった」
アテリイは十歩ほどの離れ、レウスの正面に立った。
「いつでもいいぞ」
「では、行きます」
レウスが剣を立てると、そこから闇が半円状に広がりその姿を包む。さらにそこから闇が伸びていき、アテリイをとらえると引きずり込んだ。
「おお、これはすごい」
アテリイは広く薄暗い闇の中に立っても特に動じることはなかった。
「これは決闘結界です。狙った相手をこの剣が作った結界の中に引き込むので、外に影響は与えません。強い力で破られることもありますけど」
「なるほど、周囲に影響を与えずに戦えるわけか。それに、この中なら周囲から見られることもない。他の能力は?」
「これです」
言葉と同時に剣が黒い闇を炎のようにまとった。そしてそれを振ると、その闇が刃となり飛ぶ。
「なるほど、飛び道具にもなるのか」
アテリイが感心すると、レウスは剣をぶら下げて力を抜いた。
「次は俺に向けて魔法を使ってみてください」
「魔法だな」
アテリイが右手を前に出すと、そこから小さな雷の矢が放たれた。レウスが剣を振り上げてそれを切ると、剣は雷をまとい、それは黒く染まった。
「魔法をとらえた?」
「そうです。魔法に限らず、ある程度の力を取り込めます」
「それはまたすごい力だ。それ以外には体の強化もありそうだな」
アテリイの言葉にレウスは魔剣を元のガントレットと杖に戻し、口を開く。
「はい、それもあります」
そこでレウスが杖で床を叩くと結界が解除され、レウスとアテリイは元いた場所に戻っていた。アテリイはマルハスとオフィに顔を向けると、笑顔を浮かべた。
「魔剣というのはすごいものだな、あれほどの力があるとは驚きだ」
楽しそうな様子のアテリイに、マルハスは軽くため息をついた。アテリイはそれには何も言わず、レウスに向き直った。
「さてレウス君、話がある。戻ろうか」
「はい」
レウスはうなずき、歩き出したアテリイの後に続いた。マルハスとオフィも顔を見合わせてからその後に続く。
元の応接室に戻ると、アテリイは三人を座らせ、自分は立ったまま口を開いた。
「魔剣の力はかなりのものだった。正直、あれだけのものを持っているレウス君を自由にしておくのはあまり賢明なことではないが、今は状況が違う」
「それは、謎の男というのも関係しているんですか?」
レウスの言葉にアテリイは軽く首をかしげる。
「知っていたのか」
「はい。ここに来てから一回戦いましたよ」
「何だって!?」
オフィは思わず立ち上がった。
「戦ったか。その時はあの結界を使ったのだな」
アテリイの言葉にレウスはうなずく。
「そうです。最初は二人でしたが途中でもう一人来て邪魔をされました」
「ヤルメルが言っていたのはそれか。魔剣の力は魔法ではないから、あの男にも効果があったんだな」
そこでアテリイは言葉を切ると、口の端に笑みを浮かべる。
「それならなおさら好都合だ。レウス君、君にパイロフィストに協力してもらいたい」
「俺がですか?」
「そうすれば魔剣のことは大目に見るし、君の修行にパイロフィストも協力しよう」
「そういうことなら、お願いします」
レウスはすぐに同意した。
「話は決まりだ。私は部長達に話を通してこよう」
アテリイは応接室から足早に出て行った。
「隊長は話が早いな。それに、うちの部長達なら間違いなく話は通る。でも、楽はできないぞ」
マルハスがそう言うと、レウスはうなずいた。
「パイロフィストに修行に協力してもらえるなら、俺としても文句はありません。それに、実戦ができるなら大歓迎です」
「まあ、良かったなレウス」
オフィはレウスの肩を軽く叩いた。それからしばらくしてアテリイが部屋に戻ってくる。
「許可はとれた。とりあえずレウス君は臨時でパイロフィスト預かりということになる。マルハス、お前が面倒を見てやってくれ」
「わかりました」
立ち上がったマルハスはレウスに手を差し出した。
「よろしくなレウス」
「こちらこそ」
レウスも立ち上がり、その手を握り返した。




