新しい発想
「いらっしゃい、よく来てくれたわね。さあ、こっちよ」
パイロフィスト本部内、マーガレットはキーツを笑顔で迎えていた。
「失礼します」
カバンを肩にかけたキーツはマーガレットの後について、研究室に入っていく。室内はそれなりに広く、綺麗に整理されていて、机も三つほどある。
「好きな机を使ってくれていいわよ。今助手は外に出てるから」
「はい」
キーツは手近な机にカバンを置いて、その中から封筒を取り出した。
「それが途中のものね」
マーガレットは封筒をキーツの手から受け取ると、自分の席に座り、中身を引っ張り出して読み始めた。うなずきながらそれを読み終わると、マーガレットは笑みを浮かべ、立っているキーツを見た。
「とりあえず、座ってくれるかしら」
「はい」
キーツが言われた通りに椅子に座ると、マーガレットは机に肘をついて手を組むと、その上にあごを乗せた。
「さて、あなたのこれはかなり興味深い内容ね。前に効率性と細かい制御と言っていたけど、これはそれ以上のものを生み出すのはわかってる?」
「はい、その理論が実現できれば、魔道具はもっと便利になります」
「そうね、これなら使用者の技量とは関係なく、魔道具にもっと複雑な機能を実装することができる。しかし、あなたがエレメントストーンと呼称しているものは、今までずっと不完全なものとして大して見向きもされなかったものよ」
「わかっています」
キーツはカバンから小さな箱を出し、緑色の石を取り出した。
「これは魔力を伝導したり、そうしなかったりするものなわけですが、その性質を制御できれば可能性は無限大です」
「でも、単独ではできないのよね」
「そうです、その方法を探しているんですが」
「なかなかうまくいかないのね。何か考えはあるのかしら?」
「いくつかはありますけど、実験に必要な設備が確保できないのと、それ以外にも、まだ何かが足りません」
それにマーガレットは深くうなずく。
「そういうことなら、うちの施設を使うのはどうかしら?」
「いいんですか!?」
立ち上がったキーツにマーガレットは笑みを浮かべる。
「もちろんよ、これが実用化できれば正に革命が起こる。パイロフィストにふさわしい仕事だと思わない?」
「ぜひお願いします!」
勢いのよい返事に、マーガレットは立ち上がる。
「それなら、すぐに実験室に向かいましょうか」
「はい」
二人は研究室から出て、実験室に向かった。実験室では数人が働いていたが、軽く挨拶をするだけで、特に二人を気にかけることはなく自分の仕事をしていた。
「あれは確かここに…」
マーガレットは棚を漁ると、小さな箱を手にとってそれを開けた。それには緑色で様々なサイズの石が詰まっていた。
「一応、ここでも研究はしてるから、それなりに確保してるのよ」
「そのデータはあるんですか?」
「ちょっと待っててね」
マーガレットは今度はファイルが並んでいる別の棚に行くと、その中から一冊を手に取り、キーツに渡す。キーツはすぐにそれを開くと、中身が少ないせいもあって、すぐに目を通し終わった。
「やっぱり、少ないんですね」
「そうなのよ、それにいい結果も出てないでしょ」
「でも、貴重な資料です。これは役に立ちます」
「それはよかったわ、じゃあこっちに」
キーツの言葉にうなずくと、マーガレットは奥に向かって歩き出した。そして、ドアを開けると、そこは小規模だが、実験台や各種の実験器具が揃っている部屋だった。
「ここは試験室よ。試作や新しいものは全てここからね」
「さすが、学院よりもいい設備ですね」
「そうでしょう、ここを自由に使っていいのよ」
「え?」
キーツは驚きの表情を浮かべた。マーガレットはそれに満面の笑顔を浮かべる。
「私、パイロフィスト技術部長が依頼するわ。キーツ君、是非エレメントストーンを使ったその理論を完成させてくれないかしら?」
「…そんなこと、いいんですか?」
「ええ、学院が終わった後、ここに来てくれればいいわ。実はもうファマドさんには話は通してあるのよ」
「おじさんにですか。わかりました、是非使わせてください」
「話は決まりね」
マーガレットは白衣のポケットからストラップ付のカードを取り出した。
「通行許可証よ。このエリアなら自由に出入りできるから」
「ありがとうございます」
キーツはカードを受け取ると、すぐに首からかけた。
「ああ、それと」
何かを思い出したようで、マーガレットは実験台の下からベルトを取り出した。バックルは大きめで、ちょうど背中にくる部分に、薄い何かが埋め込まれているようだった。
「それは、マジックカートッリッジ付のベルトですか?」
「そう、これは緊急用とか、実働部隊がファントムアーマーを装備してないときに使うものなのよ。魔力容量は少ないけど、軽いし目立たないのが特長ね。だから、これは君に」
マーガレットがそのベルトを差し出すと、キーツは少し戸惑ってからそれを受け取った。
「…いいんですか、僕にこんなものを?」
「キーツ君は例の謎の男とも接触したんでしょう? それなら、自衛のためにも持っていてくれると助かるわ」
「はい、そういうことならありがたく使わせてもらいます」
「バックルを反転させれば使えるようになるから、それだけ覚えておいてね。カートリッジからの魔法の使い方はどう?」
「大丈夫です」
キーツは早速、今のベルトとそれを交換した。それを確認したマーガレットは一つ手を叩く。
「それじゃあ、始めましょう。何から始めるかはあなたが決めてくれるかしら」
「そうですね、それならまずはここの機材でエレメントストーンの試験を一通り行ってみてもいいですか?」
「もちろん、これはあなたのプロジェクトよ」
キーツはマーガレットに色々聞きながら準備を進めていった。そして、しばらくすると実験台には試験の準備が整っていた。
一方、ニッケルは財務部の部屋で報告を受けていた。
「ふむ、あの少年はマーガレットのところですか。予算は柔軟に対応しておいてください、重要な発見につながるかもしれませんから」
「わかりました」
財務部員はすぐに仕事に戻っていった。ニッケルはそれから、机の上の通信用魔道具を手に取る。
「ファマドさん、ニッケルですが」
「おや、君か。キーツ君のほうはどうかな?」
「うちの技術部長が気に入ったようですし、予算もしっかり対応しますから、ご心配なく」
「それなら大丈夫かな。まあ、しばらくは頼むよ、お互い損はしない」
「ずいぶんあの少年を買っているのですね」
「それはそうだよ、あの子は僕が今まで見た中でも最高と言えるからね」
「私も楽しみにしています」
そこでニッケルは通信を終了させた。




