強襲部隊
「なるほど、さすが王国諜報部ですね」
「そいつはどうも、天下のパイロフィストで副隊長をやってる方に褒められるとは、ああ嬉しい」
ノーデルシア王国諜報部本部、資料をめくり関心しているベネディックにイステルは軽くおどけてみせていた。
「皮肉ではありませんよ、情報収集能力では最も優秀でしょう。強襲部隊はどうするつもりですか?」
「軍だって手柄のチャンスだ。張り切って精鋭を出してくれることになったよ」
「そうですか」
「そっちは例の謎の男とその仲間達だろ? 大変だな」
ベネディックは深くうなずいた。
「ええ、未知数な相手ですから、こちらは私だけですよ。できるだけのサポートはしますが」
「パイロフィストなら一人でも十分すぎる戦力だ。何かあったときは頼む」
「では、強襲部隊の方達を紹介してもらえますか?」
「ああ、そうだな」
二人は兵舎に向かい、イステルが部隊を集めるように手配をしてからブリーフィングルームに向かった。そこにはすでに十名の部隊員が集まっていた。
その前に立っていた指揮官らしき男がイステルとベネディックに敬礼をする。
「全員揃っています」
「ご苦労さん」
イステルはそう言うと、その男の横に立ち、ベネディックに顔を向けた。
「今回の強襲部隊の隊長のリロルトだ」
それから部隊員を見回し、リロルトに体を向けた。
「こっちはパイロフィストのベネディックだ。今回はサポートに回ってもらうから、あくまでも主役はこの強襲部隊になる。それじゃよろしく」
そしてイステルはリロルトの背中を軽く叩いた。リロルトはうなずいて、細長い棒を手に持った。
「では、これより違法な魔道具の製造拠点への強襲計画のブリーフィングを始める」
背後のホワイトボードに近づき、そこに張られている地図を棒で軽く叩く。
「情報では製造拠点は街の中心地から少し外れた場所の四階建て、高級住宅街の屋敷の一つだ。名義は企業だが、実態はないらしい。原料や商品の搬出入の方法は不明だが、魔道具はそう大きなものではないのでその方法ならいくらでもある」
そこで一度言葉を切ると、すぐに先を続ける。
「問題は敵戦力だが、詳細なことは不明だ。だが、屋敷の規模から考えると、地下があるとして最大限多く見積もってもせいぜい三十人といったところだろう。十分に制圧は可能だ」
リロルトは棒を持つ手を背中に回し、座っている兵士達を見回した。
「何か質問は」
数秒沈黙が続いたが、特に質問はなかった。
「よし、作戦の実行は明朝だ。各自それまで屋敷の見取り図を頭に叩き込んでおけ、解散!」
号令で部隊員は一斉に立ち上がり、退出していった。
そして、作戦開始の時間。周囲が封鎖され、静かに避難も行われた標的の屋敷の近くに、武器と鎧を装備した強襲部隊とイステル、ベネディックが到着していた。
「各自装備の確認をしろ。それが終わったら作戦開始だ」
隊員達は無言でうなずいて装備の確認をすると三班に別れる。二班は屋敷の裏手にまわり、リロルトが率いる四人は正面から屋敷に近づいていく。
数分後、正面の扉の前、左右に別れたリロルトの班は時計を確認しながら、突入のタイミングを計っていた。
そして、時間になるとリロルトと一人の隊員が扉に手を当てた。二人がうなずくとその手から爆発が起こり扉が吹き飛ばされる。残った三人はすぐに内部に突入し、リロルトと後の一人もそれに続く。
入口付近に人影はなく、五人は慎重さは失わずに進んでいった。すぐに爆音が響き、別の班も突入を開始したのがわかった。
特に抵抗なく階段に到達すると、それぞれ壁に張り付いて上をうかがう。リロルトが手でサインを出すと、二人の隊員が先行して階段に向かった。二人は踊り場まで到達して状況を確認すると、手でサインを出し、リロルト達を誘導する。
それからリロルトは壁に張り付いて二階の廊下の様子をうかがった。そこには机や椅子で築かれた急造のバリケードがあり、四人の武装した人間がいるのが確認できた。
「敵は四人、合図をしたら二人はすぐに防御、その隙に残る二人は私の援護、それから攻撃をかける」
小声かつ早口で告げると、すぐに隊員達は動く。二人が廊下に出ると、すぐにそこに火の玉と雷の矢が襲いかかった。だが、それは二人の張った障壁によって防がれ、一瞬廊下の視界が失われる。
リロルトを含む残りの三人は飛び出すと、一気にバリケードとの距離を詰めるが、そこにもう一度魔道具の攻撃が加えられた。
だが、それも距離を詰めていた二人によって防がれると、リロルトはさらに加速してバリケードに突っ込んでいく。そしてリロルトは右のガントレットを突き出した。
「バースト!」
それがバリケードに触れると同時に爆発が起こり、積み上げられていたものと隠れていた者達を吹き飛ばした。
リロルトはすぐにその奥の状況を確認しようとしたが、少し先のドアが開き、そこから二人の男が出てきて武器を構えた。
だが、リロルトの横を最初に出た二人が追い抜き、その攻撃に対応して再び障壁を展開する。二発の火の玉が激突して爆発が起こり、障壁が砕けた。
リロルトはその爆発の中に飛び込んでいくと、まず近くの男に蹴りをくらわし、その勢いのまま後ろの男にも拳を叩きつけた。そしてドアの中を素早く確認したが、それ以上の敵は確認できなかった。
「次だ」
リロルトの静かな言葉に隊員達はうなずき、再び慎重に進み始める。だが、それは上階と下からの尋常でない音で止められた。
「隊長!」
「上だ」
部隊は階段まで引き返し、勢いよく階段を上る。しかし、四階まで到達したところにあったのは、空だった。
「これは」
屋根がまるごと吹き飛んでいる光景にリロルトは思わず絶句したが、すぐに気を取り直
し、隊員に顔を向ける。
「すぐに下に向かうぞ、別働隊が心配だ」
そして部隊が一階に到達すると、その廊下には大穴が開き、三名の隊員が倒れていた。
「どうした!?」
「隊長、妙な男が現れてこのざまです」
「男だと?」
「はい。地下に向かった部隊を追っていきましたが、おそらくは」
そこで地下から爆音が響き、廊下の穴から一人の男が飛び出してきた。
「なんだあ、物足りないなあ!」
そのひげ面の男は廊下に着地すると、すぐにリロルト達に目をつけた。
「お前らはどうかな?」
そう言うと、男は手に持っていた斧を軽く振る。そこからは雷が走り、リロルト達に向かう。
「防御!」
リロルトが叫び、なんとか障壁が展開されるが、雷はそれを貫き空気を爆発させると、リロルト達を屋敷の外まで弾き飛ばした。
「王国軍なんてのはこんなもんか」
斧を持った男がつぶやきながらそれを追って外に出たが、行動を起こす前に、その斧で攻撃を防ぐことになった。
その攻撃を加えたベネディックは男を軽く蹴り、すぐに距離を取ってその前に剣を持って立ちはだかった。男はそれを見ると、顔をしかめる。
「パイロフィストか。面倒な連中が出てきたな」
「そうですか、それは幸いでした」
男はそれを聞くと鼻を鳴らす。
「まあ、名を上げるチャンスだな。このヴァグル様の名をな!」




