魔剣ガランダルド
「そんな杖でどうするつもりかしら?」
レウスの雰囲気にひるまず、レギは笑う。だが、レウスはそれを意に介さない様子で、笑みを浮かべた。
「知りたいならかかってこいよ。何か壊したいんだろ」
「別にそういうわけではないのだけど、まあいいわ」
そう言ってレギは男の顔を見るが、特にやる気が感じられない様子にため息をつく。
「私がやるしかないのかしら」
そこにレウスが突進し、杖を突き出した。だが、レギは軽く手を振ると、その軌道から風が起こって杖をそらす。レウスはそれを予期していたように姿勢を立て直し、追撃をせずに素早く後ろに下がった。
「なるほどな」
レウスはそれだけつぶやくと、左手に握った杖を顔の前に立てた。次の瞬間、その杖と左腕のガントレットが一瞬鼓動をうったように見えた。
「目覚めろ」
言葉と同時にレウスのガントレットが弾け、その欠片がレウスの周囲に浮かぶ。そして杖が軽く放り投げられると、次の瞬間、刀身から柄までが一瞬でガントレットの欠片によって構成され、無骨で黒い両刃の剣が出来上がり、レウスの左手に収まっていた。
「魔剣、ガランダルド」
剣の名が呼ばれ、それから闇が広がりレウスを飲み込むと、そこから二本、闇が伸びていき、レギと男を捕らえて引きずり込む。
「レウスさん!」
キーツは叫ぶが、目の前にある半円状の闇からは、何もその声に答えるものはなかった。
「これは何かしら?」
レギは外見とかけ離れた広さと、ぼんやりとした明るさの周囲を見回しながら首をかしげる。レウスは闇を炎のようにまとわせた剣をぶらつかせながらそれに答えた。
「決闘結界。これで邪魔が入らずにやれるってことだ」
「ふうん。それで、その魔剣とかいうのを振り回すつもりなのね」
「そうだよっ!」
レウスが剣を振るうと、剣がまとった闇が刃となってレギに襲いかかった。レギは今度はそれを横に避ける。
間髪いれず、次はレウス自身が走りこんで剣を振り下ろした。レギはその一撃も後ろにステップしてかわした。
「ちょっと、少しは手伝ったらどうなの!?」
レギは男に声を荒げるが、男は首を横に振った。
「その男は危険だ。マグスがいない今は戦わないほうが、いい」
「ほう、そっちの男はわかってるな。まあそのまま見てろ」
そう言うと、レウスは剣をぶら下げるようにして無造作にレギに近づいていく。
「まったく、これだからできそこないは!」
レギは吐き捨てると、レウスから目を離さずに斜め後方にゆっくりと動いた。両者の距離は縮まり、大きく踏み込むだけの距離になると、互いに足を止めた。
レウスはゆらりと動くと、左手の剣をゆっくりと腰の高さまで水平に持ち上げ、にやりと笑う。
「さあ、こいつはお前の力でかわせるかな?」
剣が闇をまとうと同時に、鋭い突きが放たれた。レギはそれを大げさなくらいに身を反転させてかわし、その顔があったところは闇をまとった剣が切り裂いている。
レギはそのままうつぶせに地面に手をつくと、そこから衝撃波を放ち、自らの体を吹き飛ばすと、とにかくレウスとの距離をとった。レギは頭から地面に突っ込みそうな体勢だったが、両手をついて足から着地する。
次の瞬間、そこに闇の刃が飛来した。だが、それは間に入った男によって受け止められた。
「ほう」
レウスはそれに関心したような声を上げた。そして指を鳴らすと闇の刃は消え、傷一つない男の手を目を細めて見る。
「直接手を触れてないか。こいつはおもしろい」
そうつぶやき、レウスは闇をまとわせた剣を軽く中段に構えた。男はそれを見ると後ろのレギに目配せをする。
「力を合わせないと、まずいぞ」
「わかってるわよ」
レギが両手を打ち合わせると、男の周囲の空気が動いた。そして男が両手を広げると、その手のひらの空気が激しく渦巻いた。
「そんな力もあるか」
レウスが右足を引くと同時に、男の手のひらのものが放たれた。それは左右に分かれると、一気に人の二倍ほどのサイズの竜巻になった。
二つの竜巻はレウスを飲み込と一瞬で巨大化し、その中の暴風は確実に中にいるレウスの体を引き裂く勢いだった。
だが、数秒後、その竜巻が一気に黒く染まり凝縮を始める。
「悪くないなあ!」
レウスの声が響き、その手に掲げられた剣が完全に竜巻を自らのものとしてまとった。それが叩きつけるように振るわれると黒い竜巻はレギと男に襲いかかっていく。
だが、天井が破れて何かが飛び込んでくると、その前に巨大な壁が出現した。二つのものは激突し、同時に砕け散った。
「少し負荷が強かったか」
レウスはつぶやくと、三人目の敵、マグスのことを見た。
「こいつは何者なんだ?」
マグスが聞くとレギは首を横に振った。
「さあ、魔剣だとか言ってけど、知らないわよこんな奴」
「そういえばまだ名乗ってなかったなあ」
そこにレウスが剣を突きだし、にやりと笑った。
「俺はレウス、そしてこいつが魔剣ガランダルド。お前達を狩る人間と剣の名前だ、覚えておけよ」
言い終わるとレウスは剣を地面に突き立てた。同時に決闘結界が消え、四人は元の場所に戻っていた。
その状況を確認すると、レギがすぐに竜巻を起こし、三人はその場から姿を消す。
「レウスさん!」
キーツが慌てた様子で駆け寄ってくると、レウスは剣を放り投げた。すぐにそれは元の杖に戻り、破片はガントレットに戻りレウスの左腕に装着されていた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。あの連中を逃がしたのは残念でしたけど」
「途中で飛び込んだ新手がいたので心配してましたよ」
「まあ、あれくらいなら平気です。とりあえず、今夜はもう連中の心配をする必要はありませんから、帰ることにしましょう」
レウスが歩き出すと、キーツは何か聞きたそうだったが、とりあえず黙ってついていった。
それからしばらくして、その現場にはパイロフィストのヤルメルの姿があった。
「ここで本当にそんなことがあったんですか」
目撃者らしい男女に話を聞いていたヤルメルは考え込むようにうつむく。その様子に女のほうは身を乗り出した。
「本当ですよ! 若い男の前に突然変な男と女が現れたら、若い男のほうが襲いかかって、それからすぐに変な黒いものがその若い男を中心にできて、男と女を中に引っ張りこんだんですよ」
「そして、その黒いものに何かが飛び込むと、すぐにそれは消えて、中からその若い男と、他の三人が出てきたんですね」
「そうですそうです! なにがなんだかわからなかったんですけど、パイロフィストの方ならわかるんじゃないですか!?」
「それは調査しないとわかりませんが、ご協力ありがとうございました」
ヤルメルは二人に頭を下げてその場から立ち去ると、魔道具を起動させた。
「こちらヤルメル。アテリイ隊長、妙な話を聞きました」
それから今聞いた話をヤルメルが話すと、アテリイは魔道具の向こうでため息をついた。
「わかった、とりあえず戻ってきてくれ。詳しい話は本部で聞く」
「了解しました」




