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異端の継承者  作者: bunz0u
第三章
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平穏とこれから

 悪魔との決着がついて十日、街はすっかり平穏を取り戻していた。そんな中、旅の準備を整えたレウスとレモスルドの二人は街の外れにいた。


「君にしてはのんびりしていったと言えるかな」


 ファマドの言葉にレモスルドはレウスに視線を向ける。


「あいつの魔剣は大きく成長した。だが、まだ先がある」

「それ以外にも面倒を見るようだけど、一緒じゃないね」

「超能力者共か、あいつらの力は色々と可能性があるからな。まあせいぜい鍛えてやるさ。場所は教えてあるから現地で合流だろう」

「ずいぶん面倒見が良くなったものだね。フィエンヌとは大違いだ」


 少しからかうような響きの言葉を無視して、レモスルドは自分の荷物を持ち上げた。一方、レウスの前にはキーツの姿があり、何かが入っているらしいザックを背負っていた。


「本当にこのまま旅に出てしまうんですね」

「まあ、ここにはもう用はないですから」

「でも、パイロフィストからも誘われてましたよね」

「あそこに俺は必要ありませんよ。それに、まだ剣を磨かないといけません」


 そこでキーツは背負っていたザックをレウスに差し出した。


「持って行ってください。色々役に立つものが入っています」


 レウスはそれを素直に受け取り、左肩に担ぐ。そこにファマドとの話を終えたレモスルドが来た。


「準備は済んだな。出発するぞ」

「わかりました」


 レウスはうなずくと、キーツに向けて軽く左手を上げ、歩き出そうとした。だが、そこに空から声が響く。


「おいおい! ちょっと待てよ!」


 そして、アライアルがレウスの目の前に降り立った。


「お前がここから出ていくっていうんなら、俺も一緒に行くぜ。ここでの面倒事は済ませたし、俺は自分の部隊と合流しなきゃならないからな。何せ遊撃隊だからいつも田舎をうろついてるんでね」

「勝手にしろ」


 レモスルドはそれだけ言うと、先に歩き出した。レウスもそれに続き、最後のアライアルはキーツの頭を一つ叩く。


「またな」


 三人は去り、さらにその上空を黒い竜が通り過ぎていく。それを見送ったファマドとキーツは街の中に戻っていった。


「まったく、仕方がないですね、アライアルは」


 本部に戻ってきたキーツから話を聞いたフォルブランはため息をついていた。


「動けるなら心配はないんでしょう。遊撃も忙しくしているようですし、いいんじゃないでしょうか」


 アテリイがそう言うと、フォルブランはもう一度ため息をつく。


「それはそうですが、こちらもまだ片付いてはいませんからね。キーツ君はよくやってくれていますし、ファマドさんも協力してくれていますから、助かってはいますが」

「そういえば、そろそろアクシャさん達が調査から戻ってくる頃でしたね。余計に忙しくなるか、楽になるかはわかりませんけど」


 アテリイの言葉にフォルブランは首を横に振った。それから二人は廊下を黙って歩き、医務室のドアを開ける。そこでは団長のストッフェルが椅子に座って書類を整理していたが、二人が入ってきたのに気がつくと手を止めて振り返った。


「おや、二人ともどうしました?」

「アライアルがレウスさん達と一緒にこの街を出ました。イエイズデーモンも一緒だったようです」

「そうですか。まあ彼らしいですね」


 ストッフェルは特に動じることはなく、笑みを浮かべる。


「まあ、あの悪魔はアライアルに忠実なようですし、人的な被害はほとんど出していないので問題はないでしょう。レウスさんが出ていったのは残念ですが、仕方がありませんね」


 それからストッフェルは立ち上がった。フォルブランはそこで口を開く。


「団長、そろそろ調査に出ていたアクシャさん達が戻ってくる頃ですし、悪魔関連の患者はあらかた診察出来たのでしょう」

「…まあそうですね、最近は診察に集中できて良かったのですが、そうはいかなくなりましたか。そろそろ引退を考えた方が良さそうですね。フォルブラン、団長を変わってくれませんかね?」

「やめてください。団長にはまだ頑張って頂かないといけません」

「そうですか、そのほうがいいとは思うんですが、まあ、この話はまたにしましょう。ところで、さっき技術のほうから連絡がきましてね。悪魔の体が完成したということですから、見に行きましょうか」


 ストッフェルは足早に歩き出した。フォルブランとアテリイは顔を見合わせて後に続く。


 そうして技術部が現在使っている場所、訓練場に到着すると、そこにはアエチディードとインベルベガの魔族二人に、技術部の半分程度と技術部長のマーガレット。アテリイの小隊のマルハスとヤルメル以外のメンバー、そしてキーツと子どもに加えてトーラ、さらにゼムスデーモンがいた。


「団長、ちょうどいいところに。これからそこの悪魔を人形に移すところです」


 マーガレットがストッフェルに気がつき、タブレットを手に駆け寄る。


「これからそこのゼムスデーモン君をあの魔族の体から、そこの人形に移します」


 マーガレットが指さす先には、ちょうど成人男性程度の大きさの人形が自立していた。ストッフェルはそれに近づいて上から下までじっくり観察する。


「なるほど、これは良くできていますね。このサイズに大容量のマジックカートリッジが組み込まれていて、悪魔が宿ればそのまま生きたように動くことができるわけですか」

「そういうことです。それじゃキーツ君、よろしく」

「はい」


 短く返事をしたキーツはタブレットを手にゼムスデーモンに近づいた。


「準備はいいですか?」

「ああ、いつでもかまわんぞ」

「それでは、始めます」


 キーツはタブレットをゼムスデーモンに向けてかかげ、そこに意識を集中した。そこから光が伸びていってゼムスデーモンを包むと、さらにそれは人形にも伸びていって、両者を繋ぐ。


「…安定しました。このまま転送を維持します」


 そのまま数十秒、その状態が続いたが、じょじょに光の帯は小さくなっていき、数分後には完全に消えていた。そして、人形がぎこちなく動き出す。


「ふ、む、なる、ほ、ど。」


 まず口が動き、それから末端に始まり、徐々に体全体が動き始める。その動きは多少グロテスクとも言えるものだったが、時間の経過とともに自然な動きにおさまっていった。


 一方、ゼムスデーモンが抜けた体、アロールフだった者は元の意識を取り戻したようだった。だが、力は入らないようで、すぐにアエチディードとインゲルベガがそれを支える。


「意識は戻ったのかしら?」


 アエチディードが聞くと、アロールフは黙ってうなずいた。そして、視線だけを動かしてゼムスデーモンを見る。その頃にはすでにゼムスデーモンの動きは自然で滑らかになっていた。


「馴染んできたな。多少の違和感はあるが、これはいい」

「その体には安全装置が組み込まれています。わかっていますね」

「ああ、わかっている。今更お前達と再び敵対する気はない。この体を維持するためにお前達の協力が必要だろう」


 ゼムスデーモンはキーツにそう言うと、ストッフェルに近づいていく。


「我の責任において、お前達に協力することを約束しよう」


 ストッフェルはそれに深くうなずいた。


「我々も、あなた方の体と、その身分を保障しましょう。だが、犯した罪には相応の罰を受けて頂かねばなりません」

「それは理解した。我からよく説明しておこう」


 翌日、アクシャにマルハスとヤルメルの三人が悪魔の被害の調査を終えて王都に戻ってきていた。だが、アクシャはすぐにどこかに姿を消してしまい、マルハスとヤルメルの二人だけが本部に戻る。


 その報告では、アロンデーモンとサイタスデーモンは辺境で墓荒らしをしたということで、人的な被害は最初の悪魔崇拝者だけということがわかった。


 それから三日後の夜、姿を消していたアクシャがふらりとキーツの家を訪れていた。


「アクシャさん! 一体どこに行ってたんですか?」

「いやまあ、ちょっと野暮用でね。その子に必要なものを調達してたんだよ」


 アクシャはそう言うと、コートのポケットから一本のリボンを取り出した。そして、それを使って子どもの髪の毛を後頭部でまとめた。すると、リボンの箇所から髪の毛が黒く染まっていく。


「これは?」

「この子の力を抑えるものさ、いつか必要になる、その時まで」


 そう言うとアクシャは眼鏡の位置を直してからドアに近づき、手をかける。


「待ってください、おじさんもすぐに戻ってきますし、他の人達もアクシャさんを探してたんですよ」

「いいや、あたしはやることがあるんでね。こっちのことは少年達に任せるよ。それじゃ、またそのうち」


 そうしてアクシャは逃げるように外に出て行ってしまった。キーツはそれを追って外に出たが、アクシャの姿はどこにもなかった。キーツはしばらく周囲を見回していたが、アクシャの影も形も確認できずに、家の中に戻っていった。


「さて、これでしばらくは楽できるかね。できれば何も起こらないで欲しいもんだけども」


 時計塔の上に立っていたアクシャは、しばらくそこから街を見渡していたが、おもむろにそこを蹴り、夜空に姿を消した。

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