夜に動くもの
「お客さんが来てたんですか?」
夕食の用意をしながら、キーツが尋ねる。
「ああ、前に言った精霊の研究をしているのとは別口だけどね。今回来たのは剣士だ。レウスって言うんだけど、こっちもだいぶ変わってるから、会ってみるかい」
「はい、会ってみたいです」
「オフィ君のところにあずけてあるから、明日行くとしようか。朝一番で行けば会えるだろうね」
「明日は学院も休みですからちょうどいいですね」
「じゃあ決まりだ」
ファマドは魚のフライを鍋から取り出した。それと同時にノックの音が響く。キーツが出て行くと、そこにはレウスが立っていた。
「レウスですが、ファマドさんは?」
「おや、どうしたのかな」
ファマドが奥から顔を出した。そしてレウスの顔を見ると、とりあえず手招きをした。
「ちょうどいい、夕食がまだなら食べていくかい? 話はそれからだ」
「はい」
レウスは返事をすると杖を玄関に立てかけて中に入った。
それからしばらくして、食卓には料理が並び、三人は椅子に座っていた。
「まずは紹介からだね。彼はレウス君だ、僕の古い知り合いの弟子で、剣の修行のために王都に来たんだ。で、こっちは」
「キーツです。今は王立学院に通ってます」
「よろしくお願いします」
立ち上がったキーツに対し、レウスも立ち上がると手を差し出し、キーツはそれを握り返した。
「さて、それじゃあ夕食にしようか」
ファマドの言葉で二人は椅子に座って食事を始めた。
「ところで、突然どうしたんだい? 宿に何か問題があったのかな」
「いえ、それは問題ないです。いい道場にも案内してもらいましたから」
「さすがオフィ君は行動が早いね。それで、その道場はどうだったのかな」
「道場主の人は強かったですね。久しぶりに楽しかったです」
「それは良かった。それで、これからやりたいことでもあるのかな?」
「例の謎の男を探したいと考えてます」
「ふむ」
ファマドはうなずくと、キーツに視線を送った。
「そういうとことなら、キーツ、一緒に行ってあげなさい」
「僕がですか?」
「あの男の顔も知ってるし、自分の身は守れるからね。どうかなレウス君」
「そういうことなら、是非お願いします」
「はい、わかりました」
キーツとレウスが同意すると、ファマドは一つ手を叩いた。
「よし、決まりだ。食べ終わったら出かけてくるといいよ。ただし、あまり長い外出はやめておくように」
それからしばらくして、キーツとレウスは夜の街を歩いていた。街灯が灯った道は明るく、まだ人通りもそれなりにある。
「平和なんですね」
「ええ、僕も田舎から出てきた時は驚きました」
「田舎から?」
「はい。実家は農家なんですけど、おじさんに誘われてここに来たんです」
「誘われて、ですか。家族と離れてつらいことはないんですか」
「手紙は送ってますし、僕はずっと王都に来たかったですから、それに勉強できるのは楽しいですよ。そういう機会を与えてくれたおじさんには感謝してます。ところで、レウスさんのお師匠さんはどんな人なんですか?」
その問いにレウスはしばらくの間黙っていたが、立ち止まって口を開く。
「あの人は恐ろしく強いですよ。それと、ひたすら剣を作ってそれを振り回してる人、ですかね」
レウスは自分の杖を軽く持ち上げてみせる。
「まあ、今はこんなのですけどね」
「それは、ただの木の杖じゃないですよね」
キーツの一言にレウスは振り向いて意外そうな表情を浮かべた。それから口を開こうとしたが、爆発音で遮られる。
「これは!?」
キーツは音の場所を探そうと周囲を見回す。レウスはすぐにその場所の見当がついたらしく、すぐに早足で歩き出した。キーツも慌ててその後を追う。
「場所がわかるんですか?」
「大体は」
そして歩いているうちに、煙が上がったのが見えてきた。
「まさか、これはまた。あの男が」
「例の謎の男ですか」
そう言うレウスの顔は薄く笑いを浮かべていた。
だが、その顔も煙の現場に到着した時には元に戻っていた。その現場には崩れた建物と
野次馬、そしてパイロフィストの一人が到着していた。
「全員下がって! 危険です!」
そのパイロフィストの一員である若い女が声を張り上げ、なんとかその場を治めていた。そうしている間に警備隊が駆けつけ、野次馬達は散っていった。
「すみませんが、何があったんですか?」
そこにレウスが近づき、声をかける。パイロフィストの一員はそれに振り返ると、首を横に振った。
「残念ですが、それにはお答えできません。ですが、ここは危険ですから、自宅に戻ってください」
「そうですか、わかりました」
レウスは素直にそう言ってうなずくと、すぐに背を向けて歩き出した。キーツはその横に並ぶ。
「いいんですか、何もしなくて」
「ここにはもう何もないみたいですから、もう用はないですよ。とりあえず帰りましょう」
二人はその場から立ち去っていった。
「こちらヤルメル、アテリイ隊長、聞こえますか?」
そして、パイロフィストの一員、ヤルメルは魔道具でアテリイに連絡をとっていた。
「アテリイだ。現場の状況は?」
「三階建ての建物が半壊しましたが、重傷者は出ていません。目撃者の証言では例の男が関わっているようですが、確証はないです」
「そうか、引き続き周囲の警戒を怠らないようにしてくれ。応援を向かわせる」
「わかりました。ここは警備隊に任せて警戒にあたります」
そこでヤルメルは通信を終了し、警備隊に顔を向けた。
「ここは頼みます。私は周囲の警戒に移りますので」
「はっ! お任せください!」
警備隊の者は勢いよく返事をして敬礼をすると、ヤルメルを見送った。一方、キーツとレウスは引き上げていたはずだったが、その歩みは止まっていた。
「どうしたんですか?」
キーツが聞くと、レウスはかすかに笑みを浮かべる。
「下がって下さい。それにしてもついてますね、こんなに早く会えることになるなんて」
その言葉が終わると同時に、レウスは地面の石を広い、空に向かって投げつけた。その石は空中で砕け、その場所から二つの人影が姿を現す。
「勘のいい奴がいるのね。一体何者かしら?」
レギがつぶやきながら、謎の男と共にレウスの前に降り立った。レウスはそれに杖を突き付ける。
「噂になってるのあなた達ですかね」
「どういうことかはわからないけど、そういう話もあるようね」
その返事にレウスは満面の、凶悪とも言える笑みを浮かべた。
「そういうことなら、ちょっと遊んでもらおうか!」
そこにいたのは丁寧な物腰をかなぐり捨てた、凶戦士とでも言うべき迫力を持った姿だった。




