敵と味方
アテリイとゼムスデーモンの戦いは拮抗していたが、その余波でパイロフィスト本部はかなり損壊していた。上空で両者は大剣と拳を打ち合わせてから距離をとる。
「隊長、こちらは悪魔の無力化を完了しました」
そこにベネディックからの通信が入り、アテリイは軽く息をついた。
「そうか、こちらはまだだが!」
ゼムスデーモンが間合いを詰め、蹴りを放ち、アテリイはそれを大剣で防いだ。その反動を利用したゼムスデーモンは体を逆回転させると、さらに反対側からの蹴りを放つ。アテリイはそれも同じように受けようとするが、勢いを増した一撃はその大剣を弾いた。
ゼムスデーモンはその隙に大剣の間合いの内側に入り込むと、アテリイの腹に右の拳を突き出す。最初の一撃は振り下ろされた大剣で弾かれるが、それが戻されるよりも先にゼムスデーモンは続けて連撃を繰り出した。
アテリイはそれを防御できず、さらに上から打ち下ろすような一撃を受け、下に向かって叩き落とされた。アテリイはそのままパイロフィスト本部に突っ込み、それを突き抜けて地面に突き刺さった。
ゼムスデーモンはそれを追わずに、頭上に巨大な火の玉を作り出し、それをアテリイに向かって落とす。
だが、地面に落ちたアテリイは、すぐにその地点から飛び立つと再び本部を貫き、その勢いのまま火の玉を大剣で両断した。そのまま勢いを全く落とさずにゼムスデーモンに向かう。
「そうでなくてはな!」
ゼムスデーモンはそれを歓迎するかのような声を上げると、叩きつけられた大剣を両手を突き出して受け止めた。アテリイは力を込めて押し込むが、ゼムスデーモンはそれを上回る力で押し返していく。
「力が増しているのか!?」
「お前の力もこんなものではないだろう!」
戦闘の影響でハイになっているのか、まとう雰囲気を変えたゼムスデーモンはさらに力を込めてアテリイを押し込んでいく。
「仕方がない」
アテリイは蹴りを放って強引に一度距離をとって、大剣を正面に構える。そうすると、アテリイの全身から放たれる光が青から白に変わっていった。
「出力五倍だ!」
白い光がほとばしり、アテリイの体は二回りも大きくなったように見え、大剣の長さも見た目で五割は増した。
「それがお前の全力か」
アテリイは返答の代わりに急上昇すると、真上から大剣を上段に構えて急降下を開始する。
その勢いを乗せたアテリイの大剣が振り下ろされるが、ゼムスデーモンは避ける素振りも見せずに、両腕をクロスさせてその一撃を迎え撃った。
「はあ!」
白い光をまとった大剣が凄まじい勢いで振り下ろされ、ゼムスデーモンの両腕と激突し、激しい衝撃と光を周囲にまき散らす。ゼムスデーモンは衝撃でそのまま地面にまで押し込まれるが、地面を大きく抉りながらも持ちこたえた。
アテリイはそれ以上の深追いはせずに一度後方に退くと、あらためて大剣を中段に構えた。ゼムスデーモンもクロスしていた両腕を解くと、右腕を前方に突き出し、そこにアテリイの持つ大剣よりも一回り大きい黒い剣を生み出す。
それから両者はほぼ同時に地面を蹴ると、正面から白と黒の大剣をぶつけ合った。その瞬間に強烈な衝撃が発生するが、双方一度剣を引くと互いに止まることはなく、もう一度同じように大剣をぶつけ合う。
そして、二人は今度は離れずに力を込めて競り合いを始めた。両者の力は拮抗し、互いの持つ剣がまとう光が混ざりあいながら周囲に広がっていった。
「この程度の力では我を倒すことはできんぞ!」
「どうかな!? お前はもう一人だ、私をすぐに倒せなければ勝利はないぞ!」
「面白い!」
ゼムスデーモンの全身から黒い光が溢れ、白い光を一瞬で侵食した。
「そうはさせるか!」
気合いで白い光は勢いを取り戻し、それと同時にアテリイが力でゼムスデーモンを弾き飛ばした。さらに間髪入れずに地面を蹴ると、大剣を横殴りに振るう。
ゼムスデーモンはそれを剣で受けるが、勢いを殺すことはできなかった。その衝撃で地面を派手に転がり、跳び上がったアテリイはそこに上から大剣を振り下ろす。
しかし、ゼムスデーモンはその一撃をかわしながら飛び上がって上をとると、アテリイの頭に向かって大剣を右から袈裟切りに振り下ろしていた。
アテリイはその一撃を体をひねってかわそうとするが、避けきれずにゼムスデーモンの大剣が兜の上部側面を打った。衝撃でアテリイの体は横に弾き飛ばされ、ゼムスデーモンはさらに追撃をかけるべく地面を蹴る。
だが、それよりも早くアテリイは上空に飛び上がっていた。その兜は攻撃を受けた個所が砕け、左の額から目までが露出していた。
「ちっ」
一つ舌打ちをすると、アテリイは兜を外し、切れた額から流れる血を手でぬぐうが、それでも血は止まらずに左目を覆っていく。しかし、アテリイは口の端を持ち上げて笑みを浮かべた。
「やってくれる」
そう言って兜を後ろに放り投げると空を見上げる。
「だが、手こずりすぎたな」
次の瞬間、黒い収束した炎が落ちてきた。ゼムスデーモンはそれを大きく飛び退いてかわすと空を見上げる。その視界に映ったのは、全身が骨で出来た黒い竜だった。
「あれは、イエイズデーモンか」
ゼムスデーモンは驚きのようなものを顔に浮かべる。
「おい、お前らもっとしっかりこいつの体を維持しろよ!」
その上空ではアライアルが超能力者三人に声を張り上げていた。
「これでも精一杯だ!」
「そうよ! あんたは乗ってるだけだから楽だろうけど!」
マグスとレギは文句を言いながらもイエイズデーモンの体を維持するための集中は切らさない。シガッドだけは全員が見渡せる位置をとり、何も言おうとしなかった。
イエイズデーモンの背中に立つアライアルは、それをちらっと見てから右足で合図を送るようにイエイズデーモンの背中を叩く。
「行くぞ」
「わかった」
低い声が響き、イエイズデーモンは急降下を開始した。アライアルの足はその背中に張り付いたように固定され、少しも姿勢を乱さない。そうして、そのままゼムスデーモンに突進した。
だが、その突進は飛び上がりながら振るわれたゼムスデーモンの大剣によって打ち払われ、強引に方向を変えられてしまう。それでもイエイズデーモンは地面には突っ込まず、体勢を立て直すと、ゼムスデーモンよりも高度をとって制止した。
「人間と組んだか」
「敗れたからだ」
「そうか、それもいいだろう。だが、そうなるとお前は我が敵だ」
そう言うとゼムスデーモンは剣をイエイズデーモンに向けた。イエイズデーモンはその返事代わりに力強く羽ばたいてさらに高度をとる。そこに魔法で傷をふさいだアテリイも上昇し、両手のガントレットが砕けたアライアルを見て口を開いた。
「まだ行けるか?」
その問いにアライアルはにやりと笑う。
「当然だろ。まだとっておきがある」
「そうか、外すなよ。私もあまり長くはもたない」
それだけ言うとアテリイは大剣を構え、ゼムスデーモンにその切っ先を向けた。




