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異端の継承者  作者: bunz0u
第三章
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代行者

 巨大化したアロタスは、高速で移動はしなかったが、ただ歩くだけでも大きな脅威だった。トーラとレウスはできるだけ広場から出さないように誘導するのに精一杯で、攻撃はほとんど出来ていない。


 一方、キーツと子どもは時計塔の近くに移動し、その状況を見ながらベネディックと通信をしていた。


「悪魔の融合体が巨大化しました。このままだと封印は無理そうです」

「そうですか。周囲への被害はどうです?」

「今のところはトーラさんとレウスさんがうまくやっています。でも、このままだと長くは持ちそうにありません」

「我々もすぐに到着します。それに、本部にいた三人もすぐに合流しますから、状況は良くなるはずです」

「わかりました。それまでなんとか頑張ります」


 通信はそこで終わり、キーツは子どもに目を向ける。


「まだ少しの間は僕達だけでなんとかしないといけないみたいだけど、何かいい考えはあるかな」


 そう聞かれた子どもはしばらく黙っていたが、アロタスを見上げるとおもむろに口を開く。


「もうすぐ、強い人が来る」

「強い人?」

「うん。待てばいい」


 その視線の先では、トーラとレウスがアロタスの足元を動き回っていた。


「この!」


 トーラは巨大な足をかわし、すぐさまそれを切りつけるが、当然サイズの違いもあって大したダメージはない。反対側ではレウスも同じようにしていたが、結果も同じようなものだった。


 それでも二人はアロタスをうまく誘導しながら攻撃は受けない。しかし、アロタスが巨大な体に慣れるにつれて、明らかに余裕がなくなってきていた。


「風の精霊!」


 その状況に焦れたトーラは風の精霊の力を使い、一気に上昇すると、アロタスの上をとった。


「でかけりゃ勝てると思うな!」


 そして聖剣を両手で振りかぶると、そこに炎が渦巻く。


「必殺! 精霊剣!」


 激しく渦巻く炎がアロタスの頭上に振り下ろされた。その炎はアロタスの頭部全体を巻き込み、さらに一瞬で胸まで侵食する。


 だが、音とも言えないような強烈な咆哮が放たれると、アロタスを包んでいた炎は一瞬で消し飛んだ。トーラはその衝撃波で吹き飛ばされ、時計塔に叩きつけられた。


 アロタスはそこに突進しようとしたが、突然その動きが止まった。そして、喉元をかきむしり始める。


「っつ、一体なに?」


 時計塔にめりんでいたが、盾を展開して衝撃を殺していたトーラはなんとか体を持ち上げると、突然動きを止めたアロタスを見上げた。そこにトーラのよく知っている声が響く。


「まったく、やっと完全に出てきたと思ったら、ずいぶん派手な歓迎が待ってるもんだねえ」


 見るからに上等な緑色のコートと帽子を風にたなびかせ、赤い丸眼鏡をかけた女が時計塔の頂点に立っていた。その右手にはクロスボウが握られ、左手では立てた指先で腕輪を回している。


「アクシャ!」

「アクシャさん!」


 トーラとレウスの言葉がほぼ同時に響き、アクシャはその両方に素早く目配せをしてから口を開いた。


「ま、見てなよ」


 そう言うと、アクシャはクロスボウを下に向けて構える。それだけで自動でクロスボウにはボルトが装填され、いつでも撃てる状態になった。


「痛いぞ」


 そして引金を引くと、小さなボルトがアロタスの足の甲に突き刺さった。それはまるで意味がないようにしか見えなかったが、アロタスは喉元と同時にそこもかきむしり始める。


「おお、いい感じに頭が下がった」


 アクシャがクロスボウを軽く振ると、瞬時に弓部分が折りたたまれ、背中の鞘に収まった。それからアクシャは左手で回していた腕輪を放り投げて右手の人差し指で受ける。


「じゃ、もう一発行っときますか」


 腕輪を右手にはめると、すぐにそれが液体状になって肘までを包む。次の瞬間には、それは銀色に輝く肘までのグローブになっていた。それを横目で確認すると、アクシャは帽子を放り投げてから宙に舞った。右手のグローブが黒いオーラをまとう。


 アクシャはアロタスの後頭部に着地すると右の拳を振り下ろした。その一撃はアロタスがその場に膝をついて前のめりに倒れるという、ありえない結果を生み出す。


「よっと」


 アクシャは横に飛び降りると、再びクロスボウを手に取り、いつでも撃てる状態にした。


「さあ、またこいつを撃ちこんでやろうか? この小さいボルトが深く刺さったら、そのでかい図体じゃ抜けないだろうから、痛いぞ」


 その言葉が終わる前に、アロタスの体は縮みだし、すぐに元のサイズになった。それから喉と足に刺さったボルトを抜くと、アクシャを睨みつけた。


 アクシャはそれを受けずに視線をそらすと、アロタスの背後に移動したレウスと、自分の隣に降りてきたトーラ、背後にいるキーツと子どもを見た。そのままクロスボウの狙いは外さずに口を開く。


「けっこう短い時間だったと思うけど、全員成長してるねえ。それに、その子はやっと目覚めたわけだ」

「アクシャ、今まで何してたの!?」


 トーラがそう言うと、アクシャは左手を軽く振る。


「ああ、ちょっと色々あってね。例えばこの新しいコートと眼鏡の調達とか」


 そこにアロタスが飛びかかったが、アクシャはよそ見をしながらもクロスボウの引金を引く。ボルトはアロタスの体の中心をとらえ、その体を弾き返した。


「この武器を貰ったりとかだよ」

「貰ったというのは、誰になんですか?」

「大昔は勇者って呼ばれてたらしい人だよ。あたしがすごーく小さい頃に一度だけ会ったことがあるけど、あの時とまるで変わってなかったな」

「勇者って、生きてたらとんでもない年じゃない」


 トーラの当然の疑問にアクシャは左の人差し指を立てて横に振って答える。


「そこは伝説の存在ならそれくらいありってことで」

「勇者だと?」


 ボルトを抜き、立ち上がったアロタスの声が響いた。


「ああ、そういえばあんたらにとっては勇者っていうのは大きい因縁のある相手なんだったっけ」


 アクシャは口を歪め、挑発的な笑みを浮かべる。アロタスはそれに反応して歯を食いしばると、全身の白い毛が赤く染まっていった。


「お前の勇者との関係はなんだ」

「関係?」


 アクシャは左手で顔をかき、首を傾げる。


「まあ、代わりじゃないの。格好良く言うと代行者ってところ」


 そして、クロスボウからボルトが放たれた。アロタスはそれを横にステップしてなんとか避けたが、次の瞬間にはアクシャが目の前に到達していた。その手にクロスボウはなく、右の掌底がアロタスの顎をとらえ、空中に打ち上げる。


 それからアクシャはレウスに向かって口を開く。


「青年、あいつを分割するのはあんたの仕事だ。あたしは斬るとかそういうのはできないからね」

「…わかりました。斬ればいいんですね、二つに」

「そういうこと。トーラは少年とその子を頼むよ」

「わかった! ちゃんとやんなさいよ!」


 トーラはキーツ達の前に走り、アクシャはそれを確認せずにゆっくりと地面に落ちたアロタスに向かって足を進めていった。

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