融合体
少し時間は戻り、レウス達三人と一匹は予定の場所、街の中の広場に到着していた。人の避難はすでに終わり、さらに広場中央の時計塔には封印用のタンクも隠されている。
「でもさあ、本当に悪魔があたし達を狙ってくるの?」
トーラがそう言うと、キーツは自分のタブレットを手に取る。
「本部の方にはすでに二体現れたようですし、悪魔が強い肉体を求めているのは間違いありませんよ」
「体目当てなんて勘違い連中さっさと叩きのめしたいんだけど」
そこにアライアルの戦闘の音と振動が響いてきた。
「これは、アライアルさん達の方ですね」
そこで狼がキーツの頭を抑えるように飛びかかる。トーラとレウスの二人もそれに反応して姿勢を低くすると、その上を何かの影が凄まじい勢いで通り過ぎていった。
「こっちにも来たみたいね」
トーラはそうつぶやき、立ち上がって上空の影を見上げた。それは肉の塊としか言えない、奇妙にグロテスクなものだった。
「…あれってまさか」
「人間の体を集めたものですかね。百人以上は集めてるように見えます」
トーラとレウスは剣を手に握り肉塊を見上げる。
「ちっ! 胸糞悪い」
「全部死体のようなので、遠慮はいらないですね。ただ」
「わかってる、悪魔は二体分でしょ」
「大量の人間の体に、二体分の悪魔。今までにない敵ですね」
レウスはそう言いながらキーツと狼が後ろに下がったのを確認すると、通信を始めた。それを横目でみたトーラは数歩前に出る。
「さっさと終わらせないとね」
そうして剣を右手で構えるが、そこで肉塊が内部から動き出し、手足が一気に突き出した。そのサイズは普通の人間の三倍はあり、グロテスクさとそれ以上の脅威を持っているように見えた。さらに、胴体にあたる肉塊から顔のようなものが浮かび上がり、その印象はいっそう強まる。
「ヴォオオオオ!」
重いが虚ろな咆哮が響き、長い両腕が振り下ろされた。トーラは盾を展開してそれを受けるが、衝撃の重さに押し潰されそうになった。
「こいつ!」
だが、それでも膝をつかずに持ちこたえると、聖剣が輝きを発すると同時に徐々に押し返していく。そして腕を弾くと同時に右手の聖剣を横に薙いだ。
その一撃は肉塊の腕を切り裂くが、落とすまでには至らない。それでもトーラがその下から逃れるだけの余裕はできた。トーラはそこで後ろに下がるのではなく、肉塊の横を駆け抜けて後ろに回り込んだ。
その間にレウスが正面に立ち、二人で肉塊を挟み込む形を作り出した。肉塊は様子を見ることはせずに、体を回転させて腕を振り回す。
トーラはそれを後ろに跳んでかわしたが、レウスは腕に向かって剣を振り上げた。次の瞬間、肉塊の左腕が宙に舞っていたが、同時に衝撃でレウスも弾き飛ばされていた。しかし、ダメージはほとんどない様子で着地する。
その間に切り落とされた腕は塵となり、瞬時に左腕が再生されていた。
「…まだ足りないな」
レウスはつぶやくと、剣を構えなおす。
「ちょっと! 遊んでないで真面目にやんなさいって!」
「少し時間をください」
「ああそう! 何もなかったら倍にして返してもらうから!」
そう叫ぶと、トーラが肉塊にしかけた。振り回される両腕をかいくぐると、肉塊の右足を切りつける。手応えは重く、まるで太い柱を切っているような感覚だった。
すぐにそこに腕が振り下ろされてきて、トーラはそれをかわすめたに距離をとることを余儀なくされる。肉塊は標的をトーラに絞ったらしく、レウスやキーツ達は無視して動き出した。
「ちょうどいいじゃん」
トーラは唇をなめると、剣を中段に構え、後ろに下がりながらステップだけで肉塊からの攻撃をかわし始めた。トーラは円を描くように動いていたが、肉塊は徐々に速度を上げ、トーラの回避は余裕がなくなっていく。
そして、先端が鋭利になった両腕が、回避できないタイミングで貫くような一撃を放つ。しかし、トーラの周囲の空気が動くと、一瞬で剣が動き、それによって両腕の軌道をそらした。腕が地面にめり込み、トーラはそこで攻勢に転じる。
伸びた右腕に飛び乗って一気に駆け上がり、半分のところで力強くそこを蹴った。肉塊のよりも高く宙を舞うと、その勢いのまま、強い輝きを発する剣を真っ直ぐ振り下ろす。
「まずっ!」
トーラは強引に剣を引くと同時に、左腕を構えて盾を多重展開させた。直後、そこに肉塊の目から伸びた光線が激突していた。
盾が破られることはなかったが、トーラは衝撃で地面に叩き落とされる。それでもトーラは倒れずに体勢を立て直し、真っ向から叩きつけられた右腕を剣で受けた。
「おもっ!」
トーラの足が地面に埋まる。さらにそこに目からの光線が降り注ぐと、盾で防いでも地面を削りながら後方に押されていく。
そこで地面を蹴ったレウスが肉塊の背後に現れ、青い刃を横に一閃した。一拍遅れてどす黒い血のようなものが噴き出すと、肉塊の胴体の上部が横にずれる。
「駄目か」
着地したレウスは小さくつぶやくと、素早く後方に下がった。トーラも埋まった足を持ち上げて剣を構えなおしている。
その二人の目の前で、肉塊の胴体の上部がずれて地面に落ちた。だが、胴体の半分を失った肉塊は全く力を失わずに立っている。
「あれでも効いてないの」
「駄目ですね」
二人が言葉を交わした短い間に、肉塊の切断面から何かが盛り上がってきていた。それは一気に人間の形になると、空中に飛び出す。
それは空中にとどまると背中から鳥の翼のようなものを背中から開き、全身のどす黒い血のようなものを振り払った。そして、その下からは白い毛に覆われた体と翼が姿を現す。
「あれが本体!?」
「悪魔二体分ですよ。あいつらを二つにしたかったんですが」
「無理だったわけね」
そこでトーラは剣を上空の悪魔に向ける。
「で、あんたは何者なわけ!」
「…なんと言えばいいのかわからんな。元はアロンデーモンとサイタスデーモンだった。だが、こうなってみると全く別のものになった気分だ」
冗舌なその存在にトーラとレウスはなぜか気圧される。
「集めた人間の体に二体の悪魔。これだけのものが揃えばこうした存在になれるのだな。すでに悪魔などと呼ばれるだけのものではない、全く新しい存在と言えるだろう」
「わけのわからないことを!」
トーラの聖剣に炎が集中し、それが振るわれると炎が空中の存在に向かう。しかし、それはそこに届くことなく空中で止まった。そして、何事もなかったかのように口を動かす。
「新しい名が必要だな。アロタス、単純だがこれでどうだ?」
アロタスと名乗ったそれが右手を軽く動かすと、止まっていた炎がトーラ
に向かって飛んだ。
「避けて!」
トーラはそれを受けようとしていたが、レウスの言葉で横に跳んでそれをかわした。次の瞬間、着弾点からは凄まじい爆発が起こり、トーラの体を吹き飛ばす。
「ちっ!」
トーラはそれでもダメージを最小化する形で地面を転がり、レウスがすぐにそのカバーに入った。
「大丈夫ですか」
「まあね、でもあいつはやばすぎじゃないの」
「すぐに応援が来るはずですよ」
「それで間に合えばいいけどね」




