罠と骨
「隊長は派手にやってますね」
ジョシンはフォルブランの隣に立って空を見上げていた。
「それより準備は出来ましたか?」
「こいつの体が完全じゃないので、思ったより楽にできそうですよ」
ジョシンはタンクを固定しているクリストールとマルハスに視線を向ける。すでに準備はできたようで、マルハスが手を上げて合図をすると、ジョシンはフォルブランの張った結界によって動きを封じられたビジルデーモンにタブレットを向けた。
「罠にはまった自分の迂闊さを悔いるんだな。モードジェイル!」
ビジルデーモンの体を格子状の障壁包み、その上にジョシンの手から離れたタブレットが到達する。
「魔力変換開始!」
ビジルデーモンから発した緑色の光の柱がタブレットに伸び、それを確認したジョシンは右手を突き出し、力強く拳を作った。
「封印!」
光がタンクに向かって伸びていき、ビジルデーモンがそこに取り込まれていく。
「チッ! やっぱり悪魔まるごとは大仕事だ!」
ジョシンは顔をしかめながらも封印を不安定にさせることはなく、順調にビジルデーモンをタンクに封印していく。それは順調に進み、十秒も経つとビジルデーモンは全てタンクに収められていた。
「よし!」
ジョシンは踏み出してタブレットを手に取ると、それを太腿のホルダーに戻した。フォルブランはそれを見て深くうなずく。
「成功ですね」
それだけ言うと、結界を張るために設置していた四角錐を回収し、激しい戦いが繰り広げられている上空を見上げる。
「後はあれですが、手出しが出来る状況ではありませんね。ここはアテリイに任せて、タンクを地下に収めたらベネディック達と合流してください」
「了解」
ジョシンはすぐにマルハスとクリストールに駆け寄ると、二人と一緒にタンクを地下に下ろしていった。一人屋上に残ったフォルブランは背中の剣を抜くと、それを肩に担いで上空の戦いを見上げた。
いつの間にか戻ってきていたアエチディードとインゲルベガも同じようにそれを見上げる。
「クッ!」
アテリイはゼムスデーモンが無造作に振り回した腕を大剣で受けるが、衝撃を抑えきれずに後方に弾き飛ばされる。ゼムスデーモンはそれに追撃をかけず、自分の胸に手を当てた。
「馴染んできたようだな」
そうつぶやくと同時に、虚無としか言えなかった鎧が色を持っていく。それが全て深い青に染まるのは数秒だったが、その間にアテリイは体勢を立て直し、下を確認するとゼムスデーモンに大剣を突きつけるように向けた。
「その鎧、完成したらしいが、少し遅かったな、すでにお前の仲間は封印された!」
「なに?」
ゼムスデーモンは下に顔を向けると、すぐにアテリイの言った意味を理解したようだった。
「…気配が消えた。封印と言ったが、どういうことだ」
「牢獄のようなものだ。肉体を持たないお前達でも逃げられはしないぞ」
それを聞いたゼムスデーモンは無言でうなずいた。
「そうか、これは時間稼ぎということか」
「いいや、こちらも初めての実戦でやっとこの装備に慣れてきたところだからな、時間稼ぎだけで終わらせる気はない」
アテリイは大剣を構えなおすと、青い光をいっそう激しく全身に漲らせた。
一方、シガッド達超能力者と一緒のアライアルはジョシンから連絡を受けていた。
「封印には成功したわけか。で、そっちは大丈夫そうなのか?」
「アテリイ隊長が相手をしてるので、しばらくは大丈夫だと思いますよ。それより、そっちに異常はありませんか?」
「こっちは今のところ異常なしだ。いや、なんか嫌な予感がしてきた。切るぞ」
アライアルは一方的に通信を切ると、自分と同じように何かに気づいた様子を見せるシガッドに目を向ける。
「お前も何か気がついたのか?」
「不穏な気配がするな。上からだ」
「そうだな、たぶんつい最近遭遇したやつだ」
アライアルはため息をついて首を横に振ると、三人を見まわした。
「お前達は街への被害を抑えるだけにしておけ、相手は俺にご執心の奴だからな」
マグスはそれに何か言おうとしたが、レギに止められ、シガッドはアライアルに向かってうなずいた。
「元々そういう話だ。お前に任せよう」
「よし。とは言っても、ここじゃ戦うのには向かないから、近くの公園まで移動だな」
それからアライアルは頭上を見上げるが、すぐに顔をしかめる。
「あっちは待っちゃくれないか」
その視線の先では、空中の何もない場所から巨大な骨のようなものが突き出していた。さらにほんの数秒で、骨は数えきれないほどの量に増える。その全てが落ちてくるように見えたが、それは空中にとどまったまま集まりだし、何かの形を作り出していった。
「あの骨格は、ドラゴンか」
シガッドがつぶやくと、アライアルは両手のガントレットを打ち合わせてから軽く足の屈伸をした。
「そうだな、あれはボーンドラゴンだろう。珍しい強力な魔物だが、ああやって出てくるもんじゃない。つまり、あれが今回の悪魔の体なんだろうよ」
そう言っている間にも、骨はほぼドラゴンの形となり、今度はその骨に何かがまとわりつき始めた。その何かは黒光りするムカデの胴体のようで、あっという間にドラゴンの骨をまるで鎧のように覆っていくと、さらに骨を強固に繋ぎ、見るからに強靭な骨の竜を形作る。
最後に頭部も黒く染まると、口が開き、その中にムカデの頭部が舌のように収まっているのが見えた。アライアルは屈伸をやめてそれを見るとため息をつく。
「やっぱりイエイズデーモンか。気に入られてうんざりだぜ」
それからアライアルは右足を引いて腰を落とすと、地面が陥没するほどの勢いで飛び上がる。そのまま上昇していくとボーンドラゴンの顎に強烈な拳を叩き込んだ。
その一撃は確かな手ごたえだったが、ボーンドラゴンは衝撃のまま上昇すると口を開けてそこからムカデの頭部がアライアルに伸びる。
「そんなものがよ!」
アライアルは左足を振り上げて顎を広げていたムカデの頭部を蹴りあげると、その勢いのまま後方に宙返りをして落下していく。
ボーンドラゴンはそれを追うために急降下をしようとしたが、次の瞬間その背中で四発の爆発が起こり、振り返る。そこにはいつの間にかアライアルの分身が六体存在していた。
「まだまだいくぞ!」
アライアルの声が響き、分身達は一斉にボーンドラゴンの背中にとりついた。
「バースト!」
一斉に最初よりも大きな爆発が起こり、ボーンドラゴンの体勢が崩されて勢いを失う。その間に着地したアライアルは今度は後方に向かって飛び上がった。
「ほらよ!」
アライアルはそう言うと、体をひねりながら火球をボーンドラゴンに放つ。それは体勢を立て直したボーンドラゴンの首に命中するが、特に何のダメージを与えた様子もない。しかし、その注意だけは完全にアライアルに集中させた。
そして、ボーンドラゴンは口から黒い大気のブレスを光線のようにして吐くが、アライアルはそれを両腕をクロスさせて受けると、強引に情報に軌道を返させてから笑みを浮かべた。
「いいぞ! 俺と戦いたきゃついて来い!」
アライアルはブレスの衝撃も自らの速度に変え、夕方の王都の空を舞い、戦える場所への誘導を開始した。




