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異端の継承者  作者: bunz0u
第三章
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悪魔の攻勢と囚われの半身

 三日間は何も起こらなかった。その間アテリイは本部から動かず、アエチディードとインゲルベガも本部内をうろうろしていた。その二人は今、夕方の屋上に出て並んで立っている。


「このまま人間達に全て任せておくのか?」

「別にそれでいいんじゃないかしら。あの古い連中と比べたら私達の力はまだまだのようなのだから」

「だが、こうしているだけなのは退屈というものだろう」

「それはわからないわよ。悪魔はいつどこに現れるかわからないのだし」


 アエチディードはそこで言葉を切ると、突然空を見上げた。


「言ってるそばから来たようね」


 その言葉通り、パイロフィスト本部の上空にはゼムスデーモンが忽然と姿を現していた。


「ここに来たのか」


 インゲルベガもそれに気がついたが、動じている様子はない。


「人間を呼んで来い。ここはなんとかしておこう」

「物好きね。まあ、全部は取り込まれたりしないようにしておいて」


 それだけ言うと、アエチディードはすぐに姿を消した。残ったインゲルベガはゼムスデーモンが屋上の端に着地するまで微動だにしなかった。そして、両者は対峙する。


「逃げないようだな」

「お前に興味がある」


 インゲルベガの全身に雷が走り、一瞬でゼムスデーモンの目の前まで到達した。だが、ゼムスデーモンの体から衝撃が放たれ、インゲルベガは逆に吹き飛ばされる。


「その体、もらおう」


 いつの間にかその背後に移動していたゼムスデーモンがインゲルベガの首をつかんでいた。そのままゼムスデーモンの指が首に食い込むと、インゲルベガは体を強張らせ、次の瞬間には全身が脱力していた。


「この体はお前が使え」


 その言葉と同時に、ゼムスデーモンの手から何かがインゲルベガの体に流れ込んでいく。数秒後、ゼムスデーモンが手を放すと、自由になったその体はゆっくりと屋上に立ち、体の向きを変え、ゼムスデーモンに向かって頭を下げた。


「我が主よ、新しい体、ありがとうございます」

「これであと三体か」


 そうして二体の悪魔は下を見て動き出そうとしたが、それは頭上からの一声で止められた。


「何をしている? まだ生きているぞ」


 その声の主は、体を奪われたはずのインゲルベガのものだった。二体の悪魔が顔を上げると、さっきまでと全く変わらない様子のインゲルベガが空中から見下ろしていた。


「どういうことだ、お前の体は今奪ったはず」


 ビジルデーモンがそう言うと、インゲルベガは軽く肩をすくめる。


「半分はもっていかれたが、全部ではない。何の対策もしてないと思うな」


 インゲルベガの言葉に悪魔達は動こうとするが、それよりも早く、下から何かが飛び上がってきて、その前に重い音を響かせて着地した。


 飛び上がってきた何か、重厚な装甲をまとったアテリイが悪魔達の前に立ちふさがる。頭全体を覆う無骨な兜によって、その姿は異様な迫力を放っていた。


「そっちから来てくれるとは、手間が省けたな」


 アテリイがビジルデーモンに向けて大剣を構えると同時にマントが青い光をまとう。重厚な姿とは裏腹に、アテリイの体は矢のように放たれ、ビジルデーモンの前に到達していた。


「ファントムクラッシャー!」


 振り上げられた大剣が一瞬で白い光に包まれ、真っ向から振り下ろされる。だが、そこにゼムスデーモンが割り込み、右腕でその一撃を受け止めた。剣と腕がぶつかった衝撃は周囲の空気を建物ごと震わし、両者は弾かれたように距離をとる。


「この程度ではまだ通らないか。だが! 二倍!」


 アテリイの全身を覆う鎧の隙間から青い光が溢れ、さらにマントそのものが青く輝き出した。そして、アテリイは後方に軽く飛ぶと、空中で制止する。


「行くぞ!」


 気合いと同時にマントが大きくひるがえり、衝撃音が響くと、アテリイの体は最初の突進よりもさらに凄まじい速度を出した。


 その進路にビジルデーモンが飛び出すが、アテリイは大剣を斜めに打ち下ろしてそれを屋上に叩き付けると、返す刃でゼムスデーモンに逆袈裟に剣を振るった。


 だが、その一撃はゼムスデーモンが上空に逃れたことによって空振りに終わる。アテリイはそれを予想していたかのように、すぐに体勢を立て直すと、着地することなくさらに加速をして上空に進路を向けた。


 ビジルデーモンはそれを追おうとするが、その体は屋上に縫いつけられたように指一本動かすことができなかった。


「無駄ですよ、あなたの動きは封じさせてもらいました」


 いつの間に現れたのか、フォルブランがビジルデーモンの頭付近に立っていた。そのまま頭上の青い軌跡を見上げる。


 そして、視線の先の青い軌跡と、ゼムスデーモンが激突した。最初の一撃とは比べ物にならない衝撃と爆音が広がり、フォルブランは腕を顔の前にかざす。


 今度の一撃はゼムスデーモンの腕を弾き、肩口から胴体にわずかに大剣を食い込ませていた。しかし、ゼムスデーモンが体から炎を発すると、アテリイは大剣を引いて自ら距離をとった。


「前のようにいくと思うな!」


 大剣を右手に持ち替え左手を前に突き出す。


「ゲイル!」


 次の瞬間、ゼムスデーモンに向かって暴風が巻き起こった。それは広がろうとしていた炎を一瞬で散らし、さらに暴風はゼムスデーモンを中心として渦巻き、その動きを封じる。アテリイはそこで剣を頭上に振り上げると同時に、前方に加速した。


「メテオスマッシャー!」


 凄まじい圧力と速度で炎をまとった大剣が振り下ろされた。だが、その一撃はゼムスデーモンの両手で挟みこまれ、止められる。それでも衝撃を全て受け止めることは出来ずに、一気に本部の前の地面にまで叩きつけられていた。


 それでもゼムスデーモンはしっかりと足を地面につけ、アテリイの大剣をしっかりとつかんでいる。すでに地面は大きく陥没していたが、さらに力を込められ、ゼムスデーモンの体は徐々に沈んでいく。


「大した力だ」


 そう言うと、ゼムスデーモンは全身に力を漲らせてアテリイを大剣ごと振り回し、空中に放り投げた。アテリイはすぐに空中で体勢を立て直すが、ゼムスデーモンはいつの間にかその頭上まで到達していた。


「何!?」


 ゼムスデーモンの足がアテリイに振り下ろされる。アテリイはすぐに体を反転させると、大剣でそれを受けた。しかし、それでも勢いは殺せずにアテリイは地面に叩きつけられようとする。


「三倍!」


 アテリイの体からさらに激しく青い光が溢れると同時に、マントは光そのものとなり、大きく広がった。そして、アテリイとゼムスデーモンの力は反転し、両者は打ち上げられたように、一直線に空高く上昇した。


「はあっ!」


 アテリイの蹴りが放たれ、ゼムスデーモンが後方に弾き飛ばされる。


「さあ、ここからが本番だ」


 アテリイが大剣を中段に構えると、ゼムスデーモンはわずかに口元を歪ませ、微笑のようなものを浮かべた。


「これ以上は時間の無駄だ」


 そうつぶやくと、ゼムスデーモンの体が膨れ上がったように見えた。


「…なんだ?」


 異様な雰囲気にアテリイは大剣を握る手に力を込める。その視線の先のゼムスデーモンは、体の中心から虚無のようなものを広げていく。それは全身を包み、周囲に衝撃を走らせると同時に、まるでアテリイの鎧のような形を作った。


「こんなものか」


 ゼムスデーモンは両手の指を動かして具合を確かめると、アテリイに視線を向ける。それだけで強大な圧力がアテリイを襲った。


「来い!」


 それでもアテリイは全く怯むことはなかった。

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