王都観光?
ファマドはレウスを連れ、大きな建物の前に来ていた。
「さて、ここが宿だよ」
「これが宿、ですか?」
レウスは首をかしげた。その建物はエルドウ通商という看板が出ていて、宿と言う雰囲気ではない。
「まあ、君にとってだけの宿かな」
そう言いながらファマドは扉を開けて中に入っていく。レウスも続いて入ると、そこはそれなりに豪華な受付になっていた。
ファマドは受付に座っている女性に軽く手を上げると、そのまま奥の部屋のドアを開けた。
「だから、この間あんな目にあったのになんでまたすぐ遊び歩こうとするんですか!」
「いや、別にこの間も大したことはなかったし、問題ないって」
オフィとハインダが言い争いをしていた。ファマドはその近くまで歩いていくと、軽く手を叩いて注目を集める。
「ほら君達、喧嘩はやめて僕の話を聞いてくれるかな?」
ハインダは慌ててファマドのほうに向き、オフィはほっとしたようだった。
「ファ、ファマドさん、何か御用ですか?」
「そこのオフィ君に少し話があってね、いや、君もそのまま聞いてくれてかまわないよ」
そう言うと、ファマドは後ろのレウスを自分の隣に押し出した。
「予定が分からなかった客人が到着したんだ。ここで面倒を見てもらおうと思ってね」
オフィはすぐに笑顔を浮かべると、レウスの前に立って笑顔を浮かべた。
「オフィ・エルドウ、ここのどら息子だよ」
差し出された手をレウスは軽く握り返した。
「俺はレウス、レウス・ノーラックです」
その二人の様子を見たファマドは笑顔でうなずいた。
「レウス君は王都は初めてなんだ。だから色々案内してくれるといいね。それと、彼は修行の旅をしている剣士でね、変わった流派だけど、そっちのほうも面倒を見てもらえると助かるよ」
「へえ、俺も剣術にはちょっと自信があるんだ。道場もいくつか知ってるから、見に行ってみようじゃないか」
「そうですか、楽しみです」
「話はまとまったようだね。それじゃあ後はよろしく頼むよ、オフィ君」
そう言ってオフィの肩を叩くと、ファマドは帰っていってしまった。それを見送ったオフィはすぐに上着と剣を手に取った。
「さて、それじゃ早速出かけるか」
「ちょっと待ってください」
ハインダが止めるようとするが、オフィはそれを片手を上げることで遮る。
「ハインダ、大事なお客さんの寝室を用意しておいてくれ。重要な仕事だ」
「う、わかりました」
それからハインダはレウスの顔を見た。
「レウスさん、あまりこの人の話を素直に聞かなくてもいいですからね!」
そして一礼すると、部屋から出て行ってしまった。
「やれやれ、まあとりあえず外に出よう。レウスって呼んでいいかな」
「いいですよ」
「俺のことはオフィでいい、ああ、荷物は適当に置いていってくれれば預かっておくから」
「はい」
レウスは荷物を置いたが、杖は手放さなかった。それからオフィが先に立ち、二人は外に出て行った。しばらく歩くと、オフィは立ち止まって体ごと振り向く。
「さて、剣を教える道場にでも案内すればいいのかい」
「お願いします。ところで、王都では剣や武術は盛んなんですか?」
「そこそこにはあるな。王国軍やパイロフィストに入るための試験対策のためのところが多い。そういうところは、大体レベルは高くないな」
「それならレベルの高いところというのはどこなんですか?」
そう聞かれたオフィは前を向いて歩き出した。
「一つはこの王都で最大の武術道場、ベスティリン総合騎士道ってところだ。なにしろ規模が大きくて、武術大会なんかも色々主催してる。試験対策でも人気で武術だけじゃなく学問も教えてるな。それでもパイロフィストに入れるような人間は少ない」
「武術大会というのは?」
「けっこう前から人気のある興行でね。色々部門があって、飛び入り参加もできたりする。俺も前に剣術で優勝したことがあるんだぞ」
「そうなんですか、それで、もう一つはどこなんですか」
「まあ、もう一つは個人でやってるじいさんだ。俺の師匠でもある。ああ、あそこに見えてきた」
オフィが指差す先にあるのは、いかにも古く、ろくに補修もされてないが、大きさだけはある、平屋の道場らしき建物だった。
「古そうな建物ですね」
「中身も古いぞ」
そう言ってオフィは扉を叩くと、それを勢いよく開けた。
「じいさん、遊びに来てやったぞ」
道場内の六人ほどの防具をつけた少年少女は一斉にオフィの方に顔を向ける。その前で木剣を握る初老の男だけはため息をつくと、ゆっくりと顔を動かした。
「相変わらず落ち着きがない奴だ」
そう言ってから、オフィの後ろにいるレウスに視線を移し、目を細める。
「その青年はどうした?」
「ああ、レウスっていってうちの客なんだ。剣の修行のために旅をしてる」
「ほお、それは今時珍しい。感心なことだ」
それから初老の男は木剣を持ち替え、床についた。
「私はソールマン、この道場をやっている。見た通り流行っていない道場だがね」
「いえ、いい道場だと思います」
「ありがとう。それより君はその杖を使うのかな?」
「ああ、はい。まあ剣としても使えますから」
「確かにそうだ。どうだろう、少し君の剣を見せてくれるかな」
「…いいですよ」
そして、少年少女達とオフィは壁際に立ち、ソールマンとレウスは数歩の距離をとって互いに得物を構えていた。
ソールマンは右手で中段に木剣を構え、対するレウスは無造作に左手で杖をぶら下げている。一見したところレウスは隙だらけだが、ソールマンはそうは見なかった。
「ふむ、面白い構えだ」
つぶやいてからソールマンは動いた。正面から踏み込み、一気に間合いを詰める。だが、レウスは軽く横にステップして間合いを保った。
そこからレウスはやはり無造作に左手で杖をぶら下げたまま、ゆっくりと円を描くように歩く。ソールマンは中段の構えのまま、それを正面に捉え続ける。
それはレウスが床を蹴ったことによって終わりになった。勢いがあるはずなのに、軽い音だけでレウスの体は滑るように動き、ソールマンのすぐ前まで移動する。
「っ!」
ソールマンはそれに反応し、木剣を立てる。間髪入れずにそこにレウスの杖が打ち込まれるが、その勢いをいなしながら、レウスの側面に回るように動いた。
だが、レウスは瞬時に杖を右手に持ち替えると、体を回転させてそれを追うようにしてそれを横薙ぎに振るう。ソールマンはそれを身をかがめてかわすと、その低い体勢から突きを放った。
次の瞬間、レウスの体が宙に舞うと、その剣先を蹴ってそのまま後方に宙返りをしてみせた。
「なんという自由さだ」
そうつぶやいたソールマンの顔には自然と笑みが浮かぶ。一方、レウスも幾分凶暴さを感じさせる笑みを浮かべていた。
「本物だ」
その場の誰にも聞こえないほどの小声だったが、レウスはそう言ってから杖を上段に構えた。そこにソールマンが踏み込み、突きを繰り出そうとする。それに合わせ、レウスの杖が振り下ろされた。
そして鈍く重い音が響き、ソールマンの木剣が半ばから叩き折られていた。




