【物語】ふたご座流星群のドラゴン(改)
日本のとある片田舎、木村一家の目の前に現れたのはドラゴンだった。
ドラゴンとご飯が好きな作者が書く、おとぼけ物語です。
☆2022年の自作を書き直し、2026年10月に開催される『文芸フリマ福岡』での出展作品となります。
(出展作品には挿絵が加わります)
【物語】ふたご座流星群のドラゴン
2026年12月14日の夜、日本にて。
どきゅきゅーーーん!
ふたご座流星群の火球がふたつ、田舎の一軒家を直撃した。
どっかーん、がらがら!
「わー!なんだなんだ!?地震か!?」
居間でごろ寝していた、ステテコ姿のハルオは飛び上がった。
家中が大きく振動し、柱がミシミシ音を立てる。ハルオは枕にしていた座布団を被り、傍にいた猫のタマを抱く。台所にいた妻・ナナミが鍋を被り
「お父さん、大丈夫!?タカシは!?」と居間へ転がり込む。
そうだ、息子のタカシはどこだ!?
晩御飯の前に『ふたご座流星群観測をする』と二階の子供部屋へ行ったはず。
「タカシ~!」
ハルオとナナミが居間を出ると、ちょうど階段を駆け降りてきた息子と鉢合った。
息子は無事だが、大興奮している。
「僕がベランダで流星を探していたら、大きな光がこっちに飛んできたんだ…。そうしたら大きな音がして…」と玄関を指さす。
「お父さん、外に何かいるよ…」
揺れは収まり、地震アラートも鳴らない。一体、何が起きているのか分からないが、怖がる息子の為だ。外にいる『何か』を確認するしかない。恐怖から猫を抱くハルオ。意を決し、玄関のドアを開けると、巨大なドラゴンが2頭いた。
外灯に照らされたそれらは、ドラゴンと言うしかなかった。
白と、黒の2頭のドラゴン。そいつらの頭には大きな角、ギラギラ光る赤い目玉、人間も丸飲みできそうな大きな口に牙。体長3メートルはあるだろうか。ゲームや伝説世界の化け物が現実にいるのだ。
あまりの恐怖から妻のナナミが失神し、ハルオが抱きとめた。
ハルオだって逃げ出したい。パニック寸前だ。しかし、愛する妻と息子を、木村家は俺が守る!
それだけを支えに中年男性は踏みとどまった。
2頭のドラゴンが木村一家を見つめ「クルルルル」と鳩みたいに鳴く。
人間たちが固まる中、猫のタマが「にゃ」と鳴き返し、ドラゴンへ近づく。
タマとドラゴン達は鼻を寄せ合い「にゃー」「クルルクルル」「にゃお~」「クルルルル」「にゃにゃ」と鳴き声を交わす。会話の様だ。
人間たちが固唾を飲んで見守る中、白いドラゴンが「理解しました」と流暢に話し出した。
「地球のみなさん、こんばんは。ぼく達は、ふたご座流星群のドラゴンです。白いぼくはシロップ、となりの黒いのはクロップです」
タマは「にゃにゃ」と合いの手。ハルオも意を決し、
「私は…人間の、木村ハルオと申します。」挨拶した。
この頃になると、爆音を聞きつけ集まった近隣の野次馬が、ドラゴンや木村一家を取り巻き、悲鳴や歓声を上げ、遠慮なくスマホカメラで撮影し、SNSにアップしている。
大変な騒ぎになってしまった。
ハルオはステテコに半纏姿、座布団を頭に被り、気絶している妻・ナナミは鍋を被ったまま。こんな姿が世間にさらされるなんて…。ハルオは顔を真っ赤にした。
「皆さん、こんばんは」
ドラゴンのシロップとクロップは野次馬へも挨拶した。その姿は落ち着き払っている。
「ぼく達は宇宙を旅する中、このお宅が楽しそうなので遊びに来ました。邪魔するなら地球破壊光線で皆さんや、この街や地球も滅亡させちゃおうかな」
どよめく地球人達。対するドラゴンは飄々と話を続ける。
「木村さん。お願いです。お宅のカレーライスと回転焼きを食べてみたいんです」
誰か知らせたのだろう。テレビ局中継車やパトカーが木村家前に駆けつけてきた。
ドラゴンはそれらを見ると大きな翼を広げ、咆哮した。
『ギャオオオオオー!我らは偉大なる宇宙の神であるぞ!
ひれ伏せ!人間どもよ!』
大気を震わせるドラゴンの声!
ドラゴン達は間髪入れず、空へ赤黒い炎を吐く。夜空の闇が失われる程の火柱だ。炎は直撃せずとも熱気が人々を襲う。
これには腰を抜かす者や逃げ出す者が続出する、阿鼻叫喚の片田舎!
「ってな感じで、いいでしょうか?」
野次馬が四散した木村家前、地面にへたり込むテレビカメラマンへ、クロップがウインクする。地獄の様な光景が日本中いや全世界へ放送されたであろう。
シロップは次に、立ち尽くす警察官等へ言った。
「すみません。ぼくらが本気出したら皆さんを簡単に消せます。が、木村さんご一家に悪いので、しません。かといって、ぼくらは地球の兵器では滅ぼせないし、傷ひとつつけることは不可能です。国や政府機関とも関わりません。ここで遊ぶ以外、他意はありません。」
シロップとクロップは人間達をまじまじと見渡す。誰一人身じろぎできない中、ドラゴンの眼が異様な輝きを放つ。
「ですから。ほっといてくれませんか、ねぇ」
おそらくドラゴンに何かしらの超能力があるのだろう。
人々はドラゴンの言うことに『納得』した。その場にいた人間だけでなく、木村家以外のあらゆる人々の認識からドラゴンの記憶が失われ、無かったことにされた。
ドラゴンにマインドコントロールされた民衆は「そうだ。家でゆっくりしよう」と、それぞれの家路へついた。
こうして木村家の玄関には、一家とドラゴン達だけになった。
目が覚めたナナミは改めてドラゴンに驚いた。が、
「ドラゴンが遊びに来たよ」と歓喜する息子に安堵した。
ハルオの話に耳を傾け、ナナミはタマを撫でる。
猫には、人をホッとさせる不思議な力があるのだ。
作者も猫と暮らしたいなぁ。
閑話休題。
ナナミは呆れつつもドラゴン達へ手招きした。
「うちのカレーが食べたいなんて、おかしな事を言うものねえ。上がってもいいけど、家へ入る前に、手と足を洗ってくださいね。タカシとお父さんもよ。」
木村家の居間には大きなドラゴン2頭と木村一家がぎゅうぎゅうになりコタツを囲んでいる。夕食の支度がされ、それぞれの前にカレーライスとポテトサラダ、そして回転焼きが並べられた。
ドラゴン達のカレーライスは超大盛で、目玉焼きと唐揚げのトッピングも倍増である。
「いただきます」
シロップとクロップも手を合わせ、スプーンの代わりに『おたま』でカレーを食べる。
「わ。このカレー!おいしい!」
「お母さん、カレーの隠し味に何をを使うんですか?」
ドラゴンは興味津々。
「水の代わりにトマト缶とニンジンの擦りおろしで煮込むんです」とナナミ。
「おー、ナイスアイデア!」喜ぶドラゴンたち。
「ドラゴンもカレーを作るの?」ナナミが驚く。
「はい。クロップが特に料理が好きで。地球各地の名物を食べに行っては、調理方法を習い、作ります。この前はタイのココナッツカレーが美味しかったなあ」
「タイカレーか!いいなあ。どんなカレーでしたか?」カレーに目がないハルオがドラゴンの話を面白がった。シロップとクロップは目を合わせ「この家でよかったね」と笑顔。
「もちろん、カレー好きとお会いできて嬉しい。レシピを教えますよ。コツはハーブの使い方で…」と、クロップは器用にペンを使い、メモ帳にレシピを書く。
ドラゴン達は回転焼きにも喜ぶ。
「甘くて美味しい。この白い中身は?ぼくが知っているのは黒かった」
「白餡です。黒餡も豆から作るんですが、白と黒は違う豆が材料です」
「ほー、白餡。地球には美味しいものがたくさんあるなあ。白と黒、私たちみたいだね」
先ほどの騒ぎが嘘の様な団欒だ。
ドラゴンの横にいたタカシは
「ねぇ、触っていい?」と尋ねた。
「もちろん!握手もしよう」
シロップとクロップは快諾。
タカシはドラゴン達のほっぺや腕を撫でる。
ドラゴンの体はスベスベで温かいし、触れると優しい気持ちになる。
「ぼく、ふたご座流星群を探していたんだよ」
「知ってる」タカシへ微笑むシロップ。
「タカシを見てたら、ここの回転焼きにも気がついちゃったんだよね」
「鍋のカレーも美味しそうでさあ。食べたくて」にんまりするクロップ。
タカシは大喜びでドラゴン達に抱きついた。
「さ、お茶のおかわりを淹れましょうね」
ナナミはみんなのカップへお茶を注いだ。
「なんだか長居しちゃってすみません」
玄関口でシロップとクロップは木村一家へ礼を述べる。
「ぼく達が伺ったことで今後もご迷惑がかからない様に『お守り』を置きます。皆様どうぞ、ご安心ください」
シロップとクロップがぼんやり輝き、その光が木村家全部を包んだ後、ふんわり消えた。結界の様だ。
「シロップ、クロップ、また遊びにきてよ!」
「うふふ、ありがとうございます」
息子の発言にぎょっとする両親を尻目に、素直に喜ぶドラゴン達。
「やっぱり木村家でよかった」
ハルオは頭をかきつつドラゴンへ言う。
「あの…できれば、次はもっと…静かにおいでいただけると、ありがたい…」
「はい。今度はちゃんと準備して伺います」
シロップとクロップは翼を広げ、音もなく浮かぶ。
「また星と旅します」
「今夜は本当に楽しかった。ありがとう。またね~」
ぴかりん♪
一瞬でドラゴンたちは消えた。
とても不思議な数時間だった。
ドラゴンの力により、ご近所や日本国内、世界は日常生活に戻った。
今夜はふたご座流星群を観測しようとベランダから夜空を見上げるご近所さんもいる。
木村一家もお別れの余韻から、しばらく夜空を眺める。
夜空に慣れると、ちら、ちら、と流れ星が見えた。
あのどれかがドラゴンなのだろうか。
「明日のお味噌汁の準備でもしておこうかしら」
ナナミは家事へ戻り、ハルオも風呂に入るため家へ入った。
タカシも自室へ戻り、今夜のことを思い返してはベッドの上で転げ回った。
でも、心配だ。ドラゴンの力で、今夜の思い出が消えちゃったら…。
窓を開け、夜空を見る。
ドラゴン達はきっと自分を見てくれる。
「僕は忘れない!またシロップとクロップに会う!」
タカシは決意し、拳を天空へ突き上げた。
「あ、流れ星!」
頭上にはっきりと、二筋の流星が現れた。ふと、手に新たな感触が。
タカシが拳を解くと、白と黒の宝石がタカシの掌で美しく輝いていた。
(おしまい)
(あとがき)
今回は奇遇にも拙作をお手に取っていただきありがとうございます。
私は、竜とご飯と、お話を考えるのが大好きです。
『ふたご座流星群のドラゴン』は2022年の、ふたご座流星群観測時期に書いた過去作を、文学フリマ用に書き直したものです。挿絵は改めて描いた新作です。今回、この本を作ってみて、子どもの頃に読んだ『ぽっぺ先生シリーズ』や『ドリトル先生シリーズ』の様な世界観の『本』を作りたいのだ、と改めて感じました。
この本には、私の好きなものがたくさん詰まっています。お読みいただいた皆様にも、シロップやクロップ達の『おとぼけ』でニッコリ頂けましたら幸いです。
では、明日もよい日であります様に。
2026年9月、まだ銀杏の葉が少し黄色くなってきた月曜日。
作者




