柔らかい手
「硬くなる=老化=劣化」ではなく、「老化=適応の蓄積」だなぁと。
で、柔らかい=可能性だなぁと。
まぁ、人間ってすごいんだなぁと思ったので。
「どうして歳を取るんだろうね。」
孫が聞いた。
老人は少し考えてから、自分の手を見せた。
皺だらけだった。
節くれ立っていた。
若い頃のような柔らかさは無い。
「硬くなるためさ。」
孫は首を傾げる。
老人は孫の手を握った。
柔らかい。
驚くほど柔らかい。
「この手はまだ何も知らない。」
「知らない?」
「鍬も握ってない。」
「包丁も握ってない。」
「誰かを支えたこともない。」
「誰かを看取ったこともない。」
老人は自分の掌を見た。
若い頃。
毎日鍬を握った。
仕事をした。
妻の手を握った。
生まれたばかりの娘を抱いた。
病室で父の手を握った。
棺の前で母の頬に触れた。
その全部が、
この手を少しずつ硬くした。
「人間は使われた分だけ形が変わるんだ。」
孫は自分の小さな手を見た。
「じゃあ、おじいちゃんの方がすごいの?」
老人は笑った。
「昔はそう思ってた。」
窓から夕日が差し込む。
老人は孫の手をもう一度握った。
柔らかかった。
未来の形をしていた。
「でもな。」
老人は静かに言った。
「柔らかいってのは、まだ何にでもなれるってことなんだ。」
皺だらけの手と、
柔らかい手が重なる。
老人は目を細めて微笑んだ。
孫は自分の手を見つめた。
まだ何にでもなれそうな気がした。




