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柔らかい手

作者: 藤堂壽太
掲載日:2026/06/10

「硬くなる=老化=劣化」ではなく、「老化=適応の蓄積」だなぁと。

で、柔らかい=可能性だなぁと。


まぁ、人間ってすごいんだなぁと思ったので。

「どうして歳を取るんだろうね。」


孫が聞いた。


老人は少し考えてから、自分の手を見せた。


皺だらけだった。


節くれ立っていた。


若い頃のような柔らかさは無い。


「硬くなるためさ。」


孫は首を傾げる。


老人は孫の手を握った。


柔らかい。


驚くほど柔らかい。


「この手はまだ何も知らない。」


「知らない?」


「鍬も握ってない。」


「包丁も握ってない。」


「誰かを支えたこともない。」


「誰かを看取ったこともない。」


老人は自分の掌を見た。


若い頃。


毎日鍬を握った。


仕事をした。


妻の手を握った。


生まれたばかりの娘を抱いた。


病室で父の手を握った。


棺の前で母の頬に触れた。


その全部が、


この手を少しずつ硬くした。


「人間は使われた分だけ形が変わるんだ。」


孫は自分の小さな手を見た。


「じゃあ、おじいちゃんの方がすごいの?」


老人は笑った。


「昔はそう思ってた。」


窓から夕日が差し込む。


老人は孫の手をもう一度握った。


柔らかかった。


未来の形をしていた。


「でもな。」


老人は静かに言った。


「柔らかいってのは、まだ何にでもなれるってことなんだ。」


皺だらけの手と、


柔らかい手が重なる。


老人は目を細めて微笑んだ。


孫は自分の手を見つめた。


まだ何にでもなれそうな気がした。

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