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封印石? いいえ、漬物石です!

作者: 宇梶あきら
掲載日:2026/04/30

 チートも恋愛も世界レベルの危機も起きません。

 気楽に読めると思います。

「姉上、お願い!」


 ある日、いつもの仕事を終えた私のところへ、弟、アルカがやってきた。

 両手で拝むポーズにいやな予感がしていると、案の定。


「洞窟に一緒に行って!」

「……封印の洞窟のこと?」

「そう! 探検したいんだ!」


 えぇー……嫌すぎる……

 アルカの友だちが歴史の授業でそのくだりを聞き、現地へ行きたいと言いだしたらしい。

 弟が家庭教師に習ったのはずいぶん昔で、その時は怖さが先だった。

 今は興味のほうが強いみたい。


「僕たちだけじゃだめで、姉上と一緒ならいいって!」


 アルカはまだ十歳、友人たちも同じか下。

 その子たちだけで洞窟は、たしかに危なすぎる。

 でも、私だってまだ十六歳なのに、誰よそんな許可を出したのは。

 とはいえ、邸の中で時間の都合がつくのは私が一番なのも事実。

 使用人のみんなだと、アルカの行動を止めづらいだろうし。

 その点、姉の私なら、やらかしそうになったらゲンコツをお見舞いしても、問題ない。


「エルシお嬢様、わたしも同行しましょう」


 弟を連れてきた執事が声をかけてくれるけど、私は首をふった。

 人員の少ない我が家では、彼も忙しくしている。

 それなのに、弟たちの遊びにつきあわせるのはもうしわけなさすぎる。


「私が行くから大丈夫。ただし、勝手な行動をしたらすぐ帰るからね」

「はい、ありがとう姉上!」


 わーいと喜ぶ弟たちを見ていると、許せるから困ったものだ。

 かくして私はこどもを連れて、洞窟へとむかった。




 今の洞窟は本当に価値がないので、巡回の兵士が時間に合わせて見るくらい。

 一応、今の担当に声だけかけて、中へ入っていった。


「姉上様、奥は行けないの?」


 中へ入って少し進むと、大きめの空洞に出る。

 でも、その先へ行く道はない。

 封印の洞窟、なんて立派な名前がついているわりに、ショボい状態だ。

 弟の友だちがこの様子を見て問いかけてくる。


「封印が解けた時に、魔物が暴れたせいで、奥は崩れてしまったのよ」


 まあ、ずっと昔の話だから、本当かは知らない。

 でもここに大きな力を持つ凶悪な魔物が封じられていたのは事実だし、奥がふさがっているのもそう。


「そっかー」


 もっと探検できると思っていたらしいこどもたちは残念そう。

 ……いやいや、奥まで行ける状態だったら、おとなが許可を出すわけないから。

 薄暗いから転べば怪我の可能性はあるけど、それも勉強のうちってことだろう。

 こどもたちは広い場所で、早速遊びはじめた。

 混ざる気にはなれないので、どうやって時間を潰そう。


 ──にしても、さっきの発言じゃないけど、本当になにもない。

 もっとこう、それらしければ、セイチジュンレイの資産になるのに。

 ……聖地? 国教の聖地は別の場所だし、巡礼も道は決まってる。

 どうもここ最近、知っているけど意味が違うような言葉が頭に浮かぶ……

 ちょっと休んでおこうかと、あたりを見回して。


 なんとなく、呼ばれている気がして、足がむいた。


 そこにはいくつもの石が転がっていた。

 中にはかなり大きなものもあり、うっすら魔力の残滓も感じられた。

 封印の洞窟だから、おかしなことじゃない。

 石があるから気になったんだろう。


 ──そのうちのひとつに目が釘付けになった。

 こどもたちの声が、遠くに感じるくらいに。


 まるで切り抜いたように整った形。

 滑らかで、でも底の部分は平らだから、動きづらそう。

 ほどよい大きさだから、きっと重さもちょうどいい。


 あれは、あれこそ……!


「なんて理想の漬物石!!」


 他の石には目もくれず、私は見つけたその石に走り寄る。令嬢らしさなんて知ったことじゃない。

 周囲にあった余計な石をどけるのはちょっと大変だった。

 でも、姿を現した石を見たら、そんなのどこかいってしまった。


 全身を見ればさらに感じる素晴らしさ。

 私はうっとりと、その石に手を伸ばす。


 ひんやりした感触。

 しっかり感じる密度。


 その瞬間。


 野菜を洗って水をよく切り塩をまぶす。

 容器に野菜を敷き詰め蓋をして二倍の重さの重石を乗せる。

 水分が上がってきたら、────


 重石。そう、ここにある重石を。

 どうするんだっけ?


 そうだ、おばあちゃんが教えてくれた。

 水が出てきたらこっちの重石に変えるんだよって。


 ──~~ちゃんは白菜が好きだからいつもこれにしちゃうけど、他にも大根でも、キュウリでも──


 ぐるぐると頭の中に、急に出てくる、これは。


「……っ、私、」


 食べ切っちゃったらおうちで浅漬けの素でつくってるけど、やっぱりおばあちゃんのが一番おいしい。

 手間暇かけるって大事だね、大きくなったら、わたしも──


 これは。私、……わたしの。


 十数年分の過去が一度に出てきて、頭がかき回されてるみたい。

 気持ち悪い、目の前も揺れてる。

 倒れそう、っていうかこれ、間違いなく倒れる。


 でもだめだ。今倒れたら。


「二度と会えなくなるなんて嫌……!」


 この理想の漬物石との出会いだけは、逃すわけにいかない。

 私はぐちゃぐちゃの意識の中、必死に漬物石を抱えこむ。

 重たいだろうけど、っていうか重くないと駄目だからこれでいいんだけど、頑張って持っていかなきゃ。

 ぎゅっと抱きしめると、うまく持てたからか、ちょっと軽い気がした。

 これならなんとか持って行ける。

 私はよろよろと洞窟の入口へもどっていく。ちゃんと歩けてるかわからないけど、石だけは落とすものか。


「お嬢様、様子はどうですか、……お嬢様!?」


 心配したのだろう執事がやってきてなにか叫んでる。

 そういえば弟たちがいるんだった、放っておくのはまずいけど、でも、今はとにかくこの石を。


「ごめんなさい、あとは……おねがい」

「お嬢様、お顔の色が。坊ちゃま、みなを連れてきてください! ああ、お嬢様お待ち下さい──!」


 珍しく執事が叫んでる。いつもはとっても冷静なのに。

 それより石よ、石。

 カラフルな視界の中、いつのまにか邸についていた。

 なんだかみんなが血相変えてるけど、頭がガンガンしていてよく聞こえない。

 目の前も大分ぼやけてきた、勘で部屋までたどりついて、よろよろベッドに入る。


 卵を抱えるみたいに、ぎゅっと漬物石を包みこんだ、どこかに行かないように。


「起きたら、いっしょに、つくろうね……」


 ──おいしい白菜漬けを。



◇◇◇◇◇◇



 目を覚ますと、目を赤くした母上がいた。

 まだ少し頭はぐるぐるするけど、眠っている間に整理されたみたい。

 母上は私が起きたのを見て、ほっと息を吐く。


「真っ青な顔で帰ってきたと聞いてお医者様を呼んだら、眠っているだけ、と言われはしたけれど……」

「心配かけて、ごめんなさい。もう大丈夫そう」


 はっきりした声で言ったからか、そうみたいね、と微笑んだ。

 それから、とても気まずそうな顔になる。


「それでね……あなた、絶対にソレを離さなかったから、服も着替えさせてないのだけれど」


 ソレ。


 母上の視線は私のお腹あたりに注がれている。

 ……そうだった。

 とられないように守らなきゃって思って。


「これは理想の漬物石、だから目の届くところに置いておきたいの」

「理想の……なん…ですって?」


 母上が不思議そうにしている。

 気をつけながら起き上がると、漬物石を抱きあげた。

 うん、やっぱりいい重さだ。

 とりあえずいつでも見えるところ……ベッドサイドでいいわね。

 クマのぬいぐるみには移動してもらって、そこに鎮座してもらう。

 漬けるまではここにいてもらおう。


「エルシ……いったいどういうことなの……? それ、石、よね……?」


 母上がまた泣きそうな顔をしている。

 ただの石じゃなく漬物石なんだけど、この世界じゃ通じないのが悲しい。

 でも、それも今日までだ。


 ──ぐう。


 意気揚々と説明しようと思ったら、お腹が鳴った。

 母上はきょとんとしてから、しょうがないと笑う。


「もうすぐ朝食の時間だし、詳しい話はそのあとにしましょう」


 洞窟に行ったのは昼ごはんのあとだった。

 半日以上寝ていたことになる。

 母上がやつれているのも、心配かけたのも、当然だろう。

 ずっと見ていてくれた母上に改めてありがとうとごめんなさいを言った。


「エルシ、本当に大丈夫なのかい?」

「姉上、僕のわがままで、ごめんなさい」


 とりあえず朝食をすませると、父と弟が待ってましたと口々に言う。

 話したそうにしてたけど、母上がまずお腹になにか入れてからと決めたからだ。

 父上も眠っていないみたいで、いつもより目の隈がすごい。


「えっと……大丈夫だし、アルカのせいじゃないから、謝らないで」


 私が倒れたのは、急に前世の記憶を思いだして、頭がパンクしたせいだ。

 洞窟で漬物石を見つけたからだけど、弟のせいとは言いたくない。

 だって、おかげで私はとても大事なことを思いだせたんだから。


「一体何があったんだい?」


 食堂からリビングに移動する。

 家族みんなと、執事と、侍女頭と、あと数人。

 大事な話をする時は、いつもみんなと一緒だ。


「報告によると、洞窟の封印石を持ち帰ったという話だが」


 封印石。

 あ、そっか、漬物石のことね。

 でも、だとしたら、ちょっとわかったかも。


「……多分、石の影響だと思うんだけど、触った瞬間、違う記憶が流れこんできたの」


 魔力が定着してから、時々あった違和感。

 あれも、前世の記憶だったんだろう。

 それが、あの石によってひっぱりだされた。

 さすが封印石? でも私には漬物石なんだけど。


「それで、びっくりして調子が悪くなったみたい」

「……確かに、洞窟にも、封印石にも、未だに魔力の残滓がある。あり得ない話ではないが」

「でも、危険な程度ではないという話でしたよね?」


 父上の納得に母上が続く。

 ちゃんと王都から凄い魔術師がきて、調査したことがあるらしい。


「たまたま相性がよかったとかなのだろう。その……石と」

「……石と……?」


 両親だけじゃなく、みんなめちゃくちゃ微妙な顔をしている。


「姉上、いったいどんな記憶なんですか?」


 アルカだけはわくわくした顔で聞いてきた。

 よくぞ聞いてくれたわ。


「それはね……漬物の記憶よ!」



 部屋が静まりかえった。



◇◇◇◇◇◇



 その後「何かする場合、費用は自分のお小遣いから捻出すること」と「家庭教師の授業はサボらないこと」の二つを約束した。

 なので午前中の授業は真面目に受けて、その後はみんなとお昼。


 昼食後はまず私の仕事も終わらせて……やっと作業にとりかかれる。

 家族の理解も得たし、心置きなくできる。


 まずは、材料を集めなくちゃ。


「待っててね! いいものを用意してくるから」


 漬物石に声をかけて、私は袋を手にして邸を出た。



 必要なのは容器と、野菜と、できれば香辛料。

 おばあちゃんはポリ容器を使ってたけど、この世界にはない。

 思いつくものは小さいし……


 ということで、なかったらつくってもらうしかない。


 まず私がむかったのは、町の料理店。

 ここはちょっと特別な日に使えるお店で、値段が高いけど見た目も素敵な料理を出してくれる。

 仕込みで忙しいだろうけど、裏口からお邪魔した。


「お嬢様、こんにちは!」


 顔なじみの料理長が声をかけてくれる。


「こんにちは、忙しい時間にごめんなさい」

「いえ、まだ平気ですよ。今日は例の件ですか?」


 にこにこと出迎えてくれる料理長に、そう、とうなずくと、奥へ通される。

 前もきているから、このへんはスムーズだ。

 作業用の机の上に行くと、私は袋から例のものをとりだした。

 ごとん、と音がするそれは──岩塩だ。

 料理長は慣れた手つきで少し削り、味見をする。


「どうかしら」

「……うん。いい味ですね。これも色々使えそうだ」


 味見しておいしいと思ったけど、料理人じゃない私にはよくわからない。

 でも、料理長が言うなら間違いだろう。


「そうですね、では、この金額でどうでしょうか」


 料理長が提示してくれた金額は、普通の塩より高い。

 相場はわからなくても、相手は料理長だから商談成立だ。

 ついでに、質の落ちる岩塩もおまけにつけておく。

 こっちは味が薄いけど、代わりに使いやすい。


「お嬢様の魔法のおかげで色々な塩が手に入って助かります、またお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくね」


 上機嫌の料理長は、早速いろいろ指示を出しはじめた。

 これ以上いても邪魔になるので、私はレストランから出る。

 よし、これでお小遣いと合わせれば、材料費は出せるかな。


 ということで次は、道具工房だ。



「こんにちは!」


 まず店舗に入り、周囲を見渡す。

 ……うーん、欲しいのはやっぱり樽かな。

 ただ、幅より深さが欲しいのよね、でも、酒樽じゃ深すぎる。


「お嬢様、今日はどうされたんです?」

「ほしい入れ物があるの」


 道具屋さんが声をかけてきたので、説明をする……んだけど、難しい。

 なので、親方さんのいる工房に連れて行ってもらう。

 私のこれくらいの大きさで、こんな感じ……というあやふやな説明を聞いて、親方さんが絵を描いてくれた。

 おかげで、それを見ながら希望が言えた。

 材料の木はたくさんあるし、まずは小さめからなので、お金もそんなにかからない。

 試作するから一日二日見てくれと言われて、お願いする。


 試作品ができるまでに、やっておくことはもう一つ。

 私は最後の目的地、野菜畑へむかった。

 ここは領主──つまり我が家が所持している畑で、ひとを雇って野菜をつくってもらっている。

 これも立派な収入源なので、娘の私だからって、タダでもらうことはできない。

 倉庫の管理人に声をかけて、白菜に似た野菜を格安で購入する。


 よし。これでとりあえず準備できた。

 私は白菜を抱えて邸へもど…ろうとしたら、重くて大変でしょうって手伝ってもらえた。

 邸まで運んでもらったのでお礼を言い、そこから部屋までは自分で持っていく。

 どこで作業してもいいけど、折角なら見てもらおうと思って。

 台所から借りてきたまな板と包丁を、石から見えるところに机を置いて、その上に白菜。


「まずは、これを切っていくの」


 樽の予定の大きさから考えて、四つ切りくらいにしておく。

 これを、ベランダに置いてあるガーデンベンチに並べていった。

 天日干しをしておくことが、おいしさの秘訣なんだって、おばあちゃんが言ってたもの。

 縁側がないからここだけど、もっとうまく並べられないかなぁ。


 あとは、塩の用意もしておこうかな。

 私は袋の中味をざらざらと机の上に置く。

 おおむね誰にも魔力があるこの世界。

 基本的な魔法だけじゃなく、ひとによっては、固有魔法を所持していることがある。

 凄い魔法だと王都からお声がかかったりするんだけど──


「──塩になれ!」


 私の固有魔法は「岩を岩塩にする」魔法。

 でも魔力量は多くないから、巨大な岩は無理だし、数もつくれない。

 気合いを入れていい塩をつくると、しばらく休まなきゃ魔力切れを起こしてしまう。

 この魔法に気づいた時、微妙だなぁと正直思った。


 でも、今は違う。


「この塩魔法は、私に漬物をつくれって天啓よね!」

「……そういうものかしら……」

「違うような気がする」


 拳をにぎりしめて叫んだら、ツッコミが。

 いつのまにか両親が入口から私を見ていた。


「あなたのベランダに謎のものが並んでいるって報告を受けたのだけれど」


 巡回の警備が気になって報告したらしい。

 ちゃんと仕事をしているのはいいことだけど、そんな変かなぁ。

 隠すものでもないから、両親にベランダを見せる。


「……葉っぱを、どうするんだい」

「乾燥させてから漬けこむと、おいしくなるの!」


 自信満々の私に、両親は疑いのまなざしだ。


「あなた、少し前に似たようなことを言って、しょっぱすぎる白菜をつくったじゃない」


 母に痛いところを突かれてしまった。

 私の魔法が安定してくる前後から、前世の記憶はうっすらもどってきていた。

 でも、漬物石にさわるまではものすごくぼんやりしていて。

 塩を使うと野菜がおいしくなる、程度だった。

 それでもやってみたくて試したら……加減を間違えて、そのままじゃ食べられない白菜漬けに。

 水で洗ってスープに入れて、どうにか再利用できたけど、食材を無駄にするところだった。

 新しいものをつくる時に失敗はつきものだから、そのこと自体は怒られなかったけど、今後はちゃんと事前に考えなさい、と言われてしまった。


「でも今回は大丈夫よ!」

「しかし、野菜の漬物なんて、ほとんど聞いたことがないんだよ?」


 今度は父の指摘。

 魔法があるこの世界、レイゾウコもどきや入れたものの劣化を遅くする箱も存在する。

 安いものはお手頃価格だから、ここの領民ですら一家に一台備えている。

 そういう状況なので、保存食の需要が少ない。


「その封印石……に知識があったと言うが、廃れてしまったものなのではないかな?」


 両親としては、つくっても意味がないのでは、と心配なんだろう。

 ただ塩漬けにした野菜がおいしくなるなんて、想像もできないのはわかる。


「それでも、やってみたい」


 きっぱり告げると、母上が父上を見る。


「……まあ、エルシの小遣いの範囲でなら好きにしていいと約束したのは我々だしね」

「ありがとう!!」

「でもベンチにそのまま干すのはどうかと思うわ。なにか敷くものを用意してもらいましょう」


 優しい二人の言葉に、笑顔でお礼を言って飛びこむ。

 困ったなって表情でも抱きしめてくれて、今世もいい家族に恵まれてるよ、とおばあちゃんを思った。



◇◇◇◇◇◇



「よーし! やるわよー!」


 腕まくりをして、いよいよ作成開始だ。

 冷暗所がいいので、邸の倉庫の一角を借りることにする。

 はじめに詰めると私じゃ運べないかもだから、ここで作業。


 道具屋さんにつくってもらった樽もいい感じ。

 できあがったらお礼に食べてもらわなくちゃ。


 ということで、天日干ししておいた白菜に塩をすりこんでいく。

 茎の部分にはしっかりと、あとはまんべんなく。

 樽の底にもちょっと塩をふって、葉と茎が交互になるように並べていく。

 一段終わったらなんとか手に入った唐辛子も入れて、塩もふって……


 ……うん、こんな感じかな。

 そしたらいよいよだ。


「さあ、出番よ、漬物石! あなたの重さが大事なんだから」


 敷き詰めた白菜の二倍くらいの重さがベストなので、あらかじめ計ってある。

 このために綺麗に洗ってもおいたから、ぴかぴかでとっても綺麗。

 角を落としたりする必要もないくらいつるっとしてるのも最高よね。


 樽の上に漬物石をセット……うん、ぴったり!


「この状態で二、三日、お願いね。呼び水っていうのが上がってくるはずだから」


 これで、とりあえず水が上がるまで、やることはない。

 でも気になるから、毎日見にこようっと。

 明日またね! と声をかけて、念のため「触らないでください」とみんなにわかるよう張り紙をした。



 さて三日後。

 漬物石をどけると、上まで水があがってきていた。

 今のところ、成功してるみたい。


 ただ、ここで問題がひとつ。


「重石の重さを、半分くらいにしなきゃいけないのよね」


 私の部屋には、どこまでの大きさを一度に塩にできるかためすべく、集めた石がある。

 そこから、ちょうどよさそうな重さのは持ってきたけど、あんまりかたちはよくない。

 この漬物石みたいなので軽いのがあれば最高だったんだけど……


「……あれ?」


 なんだか、軽くなった、ような?

 今までちょっと大変だったのに、今は持っていても楽になっている。

 まさか、とダッシュで厨房へ行き、はかりを貸してもらう。


「軽くなってる!」

「石が!?」


 叫んだせいでまわりがびっくりしている。

 近づいてきて「本当だ……」と呟いているひとも。

 大きさは同じままなのに、こんなに軽くなるなんて。

 私は思わず石をなでた。


「凄いわ、偉いわ!」


 これなら色々なサイズで漬物がつくれる。

 やってみたい野菜はたくさんあるから、次の楽しみが増えたわ。

 重さが確認できたなら、急いで乗せにいかなくちゃ。

 私はお礼を言って、大はしゃぎで倉庫にもどる。

 様子を見ていたコック長が「お嬢様、いろいろ間違ってると思うっす……」と呟いていたらしいけど、全然聞こえてなかった。


 ということで半分の重さになった漬物石を、再び白菜の上に。

 ここから数日置けば、味がしみていい感じになるはず。

 頑張ってくれてる漬物石は、味ってわかるのかしら。

 成功したら、ねぎらいたいんだけど……うーん、なにかないかな。


 そんなことを悩みながら数日経ったので、味を確認することにした。


 この世界での漬物の漬かりかたとかがまだわからないから、まずはちょっとだけ。

 一切れをとりだし、水気をよく切って、食べやすいに大きさに。

 ……行儀が悪いけど、誰もいないし、いいわよね。


 端っこをつまんで、ひょいと口に入れた。


「……できてる!!」


 おばあちゃんの漬物とは味が違うけど、でも懐かしい味だ。

 まだ浅いかな? くらいだけど、食べやすいとも言える。

 前に失敗したせいで、しょっぱいのはみんな嫌がりそうだから、このほうがいいかも。


「すごい! すごいわ! 最高よ!!」


 毎日確認したけど、重さは半分のままだった。

 おかげで、かなり綺麗に漬かっていると思う。

 私は半分ほどをとりだして容器に移す。

 それから石を確認すると、中味が減ったからか、また少し軽くなった気がした。


「ありがたいけど……軽くなりすぎて大変なことになったりしない? 大丈夫?」


 ある日割れたりして、二度と会えないのは困る。

 軽い重石ならなんとかなるし……

 でも、このかたちがベストだから、軽くなってくれるなら任せたい。

 石が自分から軽くなってるなら、平気……かな?

 無理はしないでねと声をかけて、できたての漬物を持って邸へもどる。


 しばらくしてお茶の時間になったので、私は家族の前に漬物を堂々と出した。


「完成したわ!」

「……これが、漬物?」


 みんながしげしげと漬物を見つめている。

 見た目はしんなりした白菜だから、インパクトは少ない。

 でも食べればわかるはずよ。


「味見したから、大丈夫!」


 酸っぱそうな顔をしている父上に、さあ! とさしだす。

 父上は右を見て左を見て、……わかった、とうなずく。

 家族が見守る中、一切れを口に入れて──


「──おいしい、ね?」


 なぜ疑問系なの。


「いや、塩の固まりだった記憶が……でもこれは、たしかにおいしい」

「……本当だわ、塩気はあるけれど、気になるほどではないし」

「つぎつぎ食べたくなっちゃう」


 アルカは言葉どおり、ぱくぱくと食べ続けている。

 いくら塩分控えめでも、食べ過ぎはよくない。

 ……私もよく、おばあちゃんに止められたっけ。

 だから小さい容器に入れてきたのよね。なくなったらそれでおしまい。


「こんな加工のしかたがあるなんて……封印石の情報は凄いわね。……漬物、だけれど……」


 前世の記憶って言ってないから、なんか勘違いされてる。

 でも、教えないほうがいい気がするから、訂正しないでおこう。


「しかも料理長から聞いたが、重さも自由に変化できるんだろう? 流石だね。──使い道が、まあ、その……」


 なんだか両親ともども煮え切らない。

 漬物石として最強なんだから、喜ぶべきことなのに。


「姉上、またつくってください!」


 アルカは気にいってくれたらしい。

 うん、そういう顔が見たかったのよ。


「もちろんよ、まだまだつくりたいものも、試したいこともいっぱいだもの!」


 残りの白菜漬けも引き上げて、漬物石を綺麗にしよう。

 ありがとうって伝えて、重さももどしてもらって。

 樽の改良もしたいし、使う塩も変えてみたい、勿論、野菜だって。


 失敗もするだろう、でも、最強の漬物石と一緒なら、最後はきっとうまくいく。


 私はこれからの漬物づくりに思いをはせながら、最後のひときれを飲みこんだ。

「私たちの戦いはこれからよ!」的な。

 読んでくださりありがとうございました。

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何故漬物石?(笑) 私は食べるのは好きですが、自分ではうまく漬けられません。
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