第4章『収穫』
豚の獣人の将軍フォグレギビーは胸を躍らせていた
ようやく『収穫』の時期になったのだ
フォグレギビー「やっとだ…長かったぞ!」
フォグレギビーは要塞ポグレムを陥落させるためにいくつかの策を練っていた
1つ目に情報の収集
荷物の搬入などをの行う人間を捕まえ彼らの家族やつがいを人質にすればそれはいとも簡単に要塞の情報を得ることができた
特にこういった人間は人質さえいれば何度でも使えるのでそのまま使い続けた
…人質などすでに食ったというのに
2つ目に工作、
陥落した町から複数人の人間を逃がした
人間には恐怖を植え付けることで我々『獣人』の偉大さを大いに伝播してくれたことだろう
さらにその中に人間の顔に似た猿の獣人の者たちを紛れ込ませ避難先で少しずつ避難先の水や食料と言ったものを処分させて更に人間の長たちは我々に食料などを与えてはくれないのだと嘘の情報をまいた
そうすることで不安でいっぱいの人間たちは簡単に暴動を起こしそれらの対処で人間は多くの兵士の数を割かなくてはならなくなる
ただこれは人間が毛深くないため猿の彼らの毛を刈り取る必要があり彼らからは不平不満が出たが後で若い人間の雌をやると言ったら喜んで自ら毛を刈り取っていた
…単純な奴らめ
そして3つ目に兵糧攻めである
要塞周りの町を落とし周りからの供給を途絶させさらに王都への手紙といった物や王都からの物資などをを不自然にならない程度に少しずつ少しずつ丁寧に潰していった
今頃は要塞の兵士は偉大なる我々のことを歓迎する気力も尽きている頃だろう
フォグレギビー「くくくっ…これであの馬のダレルのような真面目腐った奴も
牛のニィヴギィルのような力だけしか取り柄のないの臆病者よりも
頭脳明晰で力もあるこの豚のフォグレギビーのほうが優秀であると証明できるというものよ!
さぁ!貴様ら我らの勝利は確定している!!
思う存分に食って遊んで帰ろうではないか!」
フォグレギビーがそう言うと彼ら『獣人』の軍は雄叫びを上げながら要塞ポグレムへと進行を始めた
その時、フォグレギビーの首筋に何か冷たくなるような感覚が走る
それは何かが手足を熱い鋼で切り落とし腹の中の内蔵のすべてを引きずり出されるような不気味で不安になるような感覚でこのまま進むと何か『取り返しのつかないこと』が起こるような気がした
フォグレギビー「………ふんっ」
しかし、ここで止まってはせっかく長きに渡りここまで丁寧に丁寧に行なってきた要塞ポグレムの陥落計画が水の泡になってしまう
それだけはフォグレギビーにとって許せることではなかったがゆえに彼はこの先の『怪物』のいる戦場へと止まらず前に足を出した
要塞ポグレムからは複数回、砲を撃ち込んで来たが『獣人』の動体視力ならば止まっているようなものなので余裕で避けたり受け流したりすることができる
そして要塞から兵が出てきた
ただこれもフォグレギビーの予想通り兵糧攻めの影響で彼らの身体は若干痩せておりまともに食事が取れなかったことが見て取れた
しかし、なぜか顔色は良かったことに何かしら『栄養のある物』でも食えたのだろうかということだけが気になったがどの道痩せた兵などフォグレギビーたちの前では敵ではない
そうして今まさに戦火の幕を切ろうとした時『それ』は突然現れた
要塞ポグレムの兵とフォグレギビー率いる軍の間に一人の少女が現れたのだ
その身体は小柄で一つにまとめた若草と枯れ草を混ぜたような色褪せた茶髪と緑髪の三つ編みと色褪せたような赤い瞳、そして整ってはいるがあまり目立たない顔で服装は華奢な肩からふわりと広がり、膝下で柔らかなシルエットを描く
純白のエプロンが黒いワンピースのコントラストを引き立て、カチューシャから垂れる鈴のついたレースが揺れ鈴の軽やかな音がなる
―そのメイド服の少女こそがアリシア・ヴァンシィであったがその顔や佇まいは先ほどの怯えきった少し猫背で涙ぐんだ震え続けていた彼女とは全く違うものだった
涙ぐんでいないその目はらんらんと輝きその背筋は伸び切り胸を張り自信に溢れている
そしてその顔は全く怯えも気負うものもない清々しいものだった
彼女は周りを見渡すそしてどこか不敵に笑う
その笑顔は少女というより野獣のようである
彼女は大きく息を吸うと大声を放った
アリシア「今からアタシが『食材』取んだからテメェら邪魔すんじゃねぇぞ!!わかったらとっとと要塞にでも引っ込んで飯でも待ってろ!まともに飯も食えねえヒョロ野郎どもが!!」
一体、その小さい体からどうやったらそんな大きな声が出るのか今 戦場になろうとしている場所全てにその声は響き渡った
要塞ポグレムの兵たちは唐突に現れて罵倒されたが怒る事も動くことも出来ずにいた
それはあまりにも唐突だったからである
しかし、そんな中動くものがいた
フォグレギビー「人間の小娘風情が随分となめた口を叩いたものだな…っ」
豚の『獣人』の将軍、フォグレギビーである
彼は巨大な身体を揺らしながら巨大過ぎる両手斧を肩に担いだその顔は若干怒りで赤くなっている
アリシアはフォグレギビーの声を聞くと小指で耳をほじりながら言う
アリシア「あ?なんか豚さんが鳴いてんなァ
悪いけどブヒブヒじゃわかんねェわ」
フォグレギビー「……っ貴様ァ!!」
彼が指揮すると一斉に『獣人』たちが一人の少女に向かって襲いかかる
ある者は持っている武器を
ある者はその爪を
またある者は生え揃った牙を彼女に突き刺そうと突進する
フォグレギビーたちにとって人間は『玩具』か『食い物』でしかない
それはありえないことだ
偉大なる我々を『食材』などという人間は何人たりとも許してはならないのだ
しかしアリシアはそんな彼らの思いなど知らないし関係なんてものはない
だから彼らの攻撃をぬるりとすり抜けていった
そして今襲いかかった『獣人』たちは皆最初からくっついていなかったかのように首がその身体から滑り落ちた
そしてその彼らの体は膝から崩れ落ちる前に皮が剥がれ骨と肉、内臓、それらがばらけていき
まるで花弁のように開いていく
その手際はあまりに自然で恐ろしく感じるよりも先に美しく感じるほどだ
そのことでフォグレギビーや要塞ポグレムの兵たちはそのことでアリシアの片手に彼女の身長と同じ大きさで『ポグレム兵舎食堂』とその刀身に印字された肉切り包丁を握っていたことにはじめて気づく
元々壁に固定する為に部分的に穴があり鈍く光るその年季の入ったその巨大な肉切り包丁は華奢な少女とは不釣り合いであったが今の動きを見ればそれが彼女にとって相応な代物だと理解できてしまうのだった
アリシアは包丁を肩に担ぐと地面で広がった『獣人』肉の一切れを口に入れ咀嚼した
アリシア「…うん、味も脂のノリも硬さもいいね…これなら十分、料理人として腕を振るいがいがあるよ」
そう言うとアリシアは肉を吐き捨て
一歩足を進める
近くにいた『獣人』は一歩下がる
その『獣人』の首が落ち体は『解ける』
目の前の『それ』は異常だった
アリシア「犬、猫、鳥、猿…ってきてさアタシ思うんよねェ」
さらに『獣人』の首がまた落ちた
その度重いものが落ちる音と瑞々しく
崩れた肉が落ちる音が鳴る
フォグレギビーは思う
「…これは何だ?」
強い殺意によって
動けれなくなった『獣人』も
ぼとりっ
その殺気から
必死で抵抗しようとした『獣人』も
ぼとりっ
命乞いをして
逃げようとした『獣人』も
ぼとりっ
アリシア「やっぱさァ!メインは『豚』だってねェ…!」
今、この若い人間の雌が自信に自然と近づく間に同胞が何人死んだ?
あまりにそれは自然過ぎてわからなかった
ただその結果は足元に広がっている
彼女の進んだ先には『肉の山』があった
フォグレギビー「うっ…うぉおぉおおおぉぉぉおぉぉおぉぉおおおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおぉぉおぉぉおおおおぉおおおぉおおおぉおおおぉおおおぉおおおぉおおおぉぉぉおぉおおおおぉぉおおおおおおおぁあっっ!!」
それは絶叫だった
今、目の前にいる『怪物』を振り払うための
フォグレギビーの必死の抵抗であった
「やめろ!やめてくれ!そんな目で俺を見るなっ!見るなぁっ!!」
手に持っていた両手斧を振り上げ振り下ろす
彼の膂力ならば当たればアリシアのような華奢な少女など粉々になってしまうだろうことは明白であった
しかし彼女の目には恐怖など無かった
その瞳はらんらんとした輝きが消えずに彼を見上げている
ただの『肉』として
アリシアはフォグレギビーの振り下ろした両手斧を肉切り包丁を頭上に掲げ少し斜めにしたことでその斧の軌道を糸も容易くずらしてしまい斧は彼女の横の地面を砕きフォグレギビーは体勢を崩す
…その姿はまるで自らの首を差し出しているかのようだ
アリシアはただ頭上に掲げた肉切り包丁をその首に振り下ろすだけで全ては終わった
ぼとりっ
その首はよほど怖かったのだろうことが伺えるほどに恐怖に歪んでいた
一瞬の静寂の後に残った『獣人』たちは静寂が張り裂けるように一斉に逃げ出した
その際、悲鳴を上げるものも大勢いる
お互いが押し合い踏みつけ
少しでも長生きしたかったゆえの行動をとる
後ろにいる『怪物』から逃げるために…
―この時、初めて彼らは『人間』に敗北し恐怖した




