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第十二章『赤い流星と悪魔』

マルピォ「くそっ!くそっお!!振り切れねぇ!!なんでなんだよぉ!?」


鳥の『獣人』マルピォは酷く焦っていた。


事の始まりは昼前のことである。


ここ最近、人間が我らの砦を攻略すべく拠点を作り始めたのでマルピォ達は以前人間側の作った道具『爆陣薬』を投下して食料庫のテントを爆破した。

このことで数が多くても貧弱な人間ならばあっという間に弱体化するということをマルピォは知っていた。


実際、『爆陣薬』を鹵獲(ろかく)した時もそれを運んでいた人間をその場で殺さず、牢に入れてどのくらいで飢え死にするかを賭けて遊んだぐらいである。


そんなこんなで何回か人間の拠点とその間で運んでいた物資を爆破してきたわけだが今日はいつもと違っていた。


砦にて休憩時に突如、空気を裂く音とともに『何か小さなもの』が人間の拠点から複数、砦に向かって飛来してきたのだ。


『それ』らは全てが同胞達に的確に着弾し、その場でその体を弾けさせる。


それこそ当たった本人ですら自身が死んだことすら気づけなかったであろう。


この時、マルピォも同僚と話していたらその同僚も砦にある監視用に使われていた小窓の窓辺を通る瞬間、突如その体を弾けさせ『それ』は減衰せずに土煙を上げて壁を破壊した。


その時の衝撃も相当であり同僚の血肉を全身に浴びたマルピォは腰を抜かし、かなり恐怖したものだ。


だが、マルピォ達は逃げない

以前の上官である将軍フォグレギビー様は死んでしまったと聞いたが自身らに新しく赴任したのはあのギャバー様なのだ。


ここで無様など晒すわけにはいかない

例え未完成の砦であろうと、たかが人間ごときに背中を見せるわけにはいかないのだ。


そうしてマルピォ達は『爆陣薬』を抱えて空に飛び立った。

『爆陣薬』は背の小さい毛深い人間が作る武器の一つだ。

大きさは卵ほどのもので丸みをおびた白磁の表面に真鍮のような鈍い金色のような金属線が十字に広がりその中心にダイヤルがついている卵の形をしている。


それを回して押し込めば金属線が赤くなるのでそれで衝撃を与えれば起爆するという仕組みだ。


マルピォ達はいつものようにダイヤルを回しそれを押し込んで起爆スイッチが入ったことを確認して地面に投げようとした時だった。


『それ』はいきなり現れた。

『それ』は赤いものだった。

『それ』はひどく巨大だった。

そして、『それ』は回転しながら弧を描いてこちらへ飛んできた。


マルピォは『それ』を知っている。

遠目で見たことがあったから知っている


マルピォ「フォグレギビー様の戦斧!?」


飛んできたのはあの豚の『獣人』将軍フォグレギビーの赤鋼の両刃斧だった。

マルピォよりも手前の鳥の『獣人』の『彼』は気がついた時にはもう遅く、その戦斧がその胴にぶつかりその体を分断し、その羽と血を撒き散らした。

―そしてその衝撃で『彼』の持っていた『爆陣薬』が起爆した。


その爆風と衝撃でその近くにいた他の奴の『爆陣薬』も起爆しその羽と血肉を撒き散らす

幸いマルピォはその衝撃で『爆陣薬』を取り落としたことでその『爆陣薬』は彼から離れた所で起爆した。


しかし、悪夢はここで終わらない。

あろうことかその赤い戦斧は方向をマルピォに変えて飛んできたのだ。


マルピォ「……っ!!?」


とっさに避ける動作をとるがその戦斧はその避ける方向へ緩慢に見えるようにして高速に向きを変えてゆく。

その時点でマルピォは思う

これを投げた奴は間違いなく先程の奇襲をかけた奴だと

しかし、それが分かった所でどうにもならない今はこの猟犬のように飛んでくる赤い戦斧から逃げなくてはならない

そう思考し、彼は戦斧から全力で逃走を図った。


マルピォ「くそっ!くそっお!!振り切れねぇ!!なんでなんだよぉ!?」


―そして現在に至る

何回避けてもこの斧はまるで目や鼻があるかのようについてくる

マルピォは思う

自分が何をした?

人間は空も飛べない愚かな生き物だ。


頭だけ大きくてその頭だけ重い生き物だ。


手足も細くて、ちょっと引っ張れば簡単にちぎれてしまうような脆い生き物だ。


自分たちはたかがその程度の生き物を空から落として殺したり、飢え死にさせて遊んでいただけだ。


それなのに―


マルピォ「…なんでなんだよおっ!!?ちくしょぉおおおっ!!!!」


そう叫んだ時、マルピォの体力は尽きて速度は落ち、その頭を後ろから回転する戦斧は容赦なく卵を割るようにしてぱきゅっという音を立てて叩き割った。



アリシア「おっしゃ!!鳥肉手に入れたあァ!」


アリシアはそう言うと頭を失い落ちてきた鳥の『獣人』の体を受け止める

そしてそれを目にも留まらぬ速さで解体する

アリシアとしては他のものも手に入れたかったがこの『鳥肉』以外は爆散してしまったので諦めたのだった。

そして狩りを終えた猟犬のように帰ってきた回転する戦斧を受け止める


アリシア「よい子だ、後でしっかりと油で拭いてやるからなァ、さぁ!もう一回行ってこい!!」


そう言うと頭上に向かってまたその戦斧を投げそれは先程のように回転しながら弧を描いて消えてゆく


それを見ているアチャフは大量の汗をかきながら彼女について来ていた。


彼の背中には大きい背負い籠がありその籠にはいくつかに分けられた『肉』が入っている。

そこにアリシアは解体し終えた『鳥肉』を放り込みその度アチャフは苦しそうな顔をしたが気にせずアリシアはそんなアチャフの手を取るととんでもない速さで走り出す


アチャフ「…ぐぇっ」


一瞬何か潰れたヒキガエルみたいな声が聞こえたがアリシアは気にせずそのまま走り、その進行方向にいた馬の『獣人』に目を付け走り、

その『獣人』の頭は持っている巨大肉切り包丁で切り落とされた。


本来はその足が自慢だった『獣人』の『彼女』はその足を使う暇すら襲撃者は与えてくれない、

首が地面に落ち最期、意識を失う瞬間に自身の肉体は瞬く間に解体され

その『悪魔』は恐ろしい笑顔で『彼女』の解体された足を持って

「いい脚してんなァ!肉が引き締まってて料理しがいがあるよ!」

という声が聞こえた時に『彼女』はその意識を失った。



―そのままアリシアは止まらず砦周りの町の建物の間やその壁を走る

途中アチャフが吐いたが気にせず走る

ただ、アチャフが意識を失った時だけ気付けとして途中で手に入れた犬の『獣人』の心臓の切り口をアチャフの口に突っ込んでその生き血で覚醒させた。


そして途中、アリシアの元へ誘導された鳥の『獣人』の身体を叩き割って落として帰ってくる戦斧を受け止め労い、

また投げ、戦斧の持ってきた成果を回収し解体する、息も切れず血の一滴の汚れもついていないアリシアの横でその僅かな間、

汗と泥に汚れたアチャフはただ、立ちつくし息をするので精一杯で喋ることすらできず

それはまるで水の上にあげられた魚のような姿である。


何とか呼吸が整いかけるとアチャフの背負い籠にまた出来上がった『肉』が乗り重くなる、そうして考える間もなく、また手を掴まれ彼は強い力で引っ張られその姿は「ぐぇっ」という声と共にかき消えた。


――――――――――――――――――――――――――


一方その頃、騎士団長達と将軍達は口をぽかんっと開けて見ることしかできなかった。


北方要塞ベイディアの将軍、モス・ハゥスキーの葉巻がぽとりっと地面に落ちる音が聞こえた気がするほど皆、ひと言も喋らず静かに事態の推移を見ている


―事の始まりは急に要塞ポグレムの『英雄』アチャフが作戦会議のテントを飛び出してからのこと、間もなくして何かが破裂するような音が鳴り響き、

後に二度、作戦会議場の机の上の物が激しく揺れるほどの地鳴りがした。

そしてその後、慌ただしくなった外から何人かの兵が慌てた顔で報告をする


―「緊急です!『獣の砦』より再び複数の鳥の『獣人』による奇襲!!被害は軽微!ですがいくつかのテントが炎上中とのことです!」


それを聞いて一目散にその報告した兵士の横を通り過ぎて外に飛び出したのは第8騎士団長のリリー・アンブルーだった。


その理由も己の保身、ではなくただ一人の少女、

アリシア・ヴァンシィのことが脳裏に浮かんだからである。


そんなリリーの眼前には複数箇所でテントが燃えていた。

冬の冷たく乾いた風はそのテントについた赤々とした炎を撫でている。

それを鎮火しようと動く騎士や兵士たち

怒号と雨風を防ぐためのテントに塗られた油の燃える臭い

…その光景は戦場のものだった。


リリー「君!ちょっといいかいっ!?」


リリーは横を走り抜けようとした兵士に話しかける。

その制服には西方要塞ポグレムの印が刺繍されており、その手には木桶が握られている

恐らく鎮火の為に水を汲んでいたのだろう。


リリー「メイド服を着た緑髪の女の子を見なかったかい?名前をアリシアっていうんだけどっ!!」


『少し煤と油の匂いのする』兵士にリリーは質問する

彼は一瞬目を丸くしてから背筋を伸ばし


―「…アリシア…さん、ですか………?」


彼は深刻そうに答える

その表情からリリーは最悪な事態を想定してしまう


リリー「…まさか、死んだなんて言わないだろうね……?」


―「えっ…それは、ちょっと… 」


―「連れ去られました!」


兵士は困惑し口を開こうとした時、

二人の間にまたもう一人、会話に入ってきた

彼も西方要塞ポグレムの印が刺繍された制服を着ている

彼の手にはテントなどの杭打ち用の木槌が握られていた。

…恐らく火が広がらないよう隣のテントなどを破壊していたのだろう

彼は酷く汗をかいていてその声には抑揚がない

…きっと、それほど恐ろしいものを見たのだろう


リリー「……それは、本当なのかい?」


―「はっ!連れ去られました!

なんかすごい奴に連れ去られました!」


この言葉でリリーは考え込み

そして一つの答えにたどり着く


リリー「まさか、…『獣人』将軍ギャバー……っ!?

…いったいなぜ彼女を……?」


その考えに行き着いた瞬間に先程の『英雄』アチャフの行動に行き着く

『英雄』アチャフは先程までの会議でもアリシアを過保護に思えるくらいには心配していた。

…ギャバーは何かしらの方法で『英雄』アチャフの弱点や関心事であるアリシアを知り、今の奇襲で誘拐することでアチャフを特定の場所(罠)へ誘い出そうとしているのではないか?


―そうならば、


リリー「…おのれ!

『獣人』将軍ギャバー……っ!!

人質とはなんと卑劣な……っ!!!!」


リリーの地を這うような低い声に、二人の兵士は顔を見合わせるとそそくさとリリーから離れ、周りの兵士と騎士達と同じ消火作業に入ろうとした時である


突如、陥落町ブルートニクの町中から街路の石畳や建物の破片を混ぜた煙柱が、まるで杭を打つように次々と突き立つ、

…それは意思を持って進み、その進路方向に沿って町を破壊しているようであり、

その進路方向には『獣の砦』がある。


そして、それと同時に『何か巨大で赤いもの』がその土煙の中から飛び出し飛んでゆき、遠くから見る限りではなにかは解らないが『それ』は高速で走るように移動し、空中を飛ぶ鳥の『獣人』を意思を持つ生き物のように追い立て次々に鳥の『獣人』達を落としていた。


リリー「…まさか、これ程とは……っ!」


その光景を見たリリーは震え驚愕した。

最初、アチャフを見た時は鍛えてこそいるがほどほどであり強そうには見えなかった。


そう、リリーもまたロイド程ではなかったがアチャフに対して疑問を持ち、その強さに偽り……どちらかといえばここでは誇張と言うべきものに見えていた。


討伐された『獣人』将軍フォグレギビーの証拠として持ち込まれた頭蓋骨も、その巨大すぎる敵将の扱っていた赤鋼の両刃斧の武器を見せられた時も彼の腰には長剣が一振りのみであり、余りにそこに現実味がなく、まるでそこに『英雄はいない』と、言っているように思えたほどである

…ただ、それでも希望は必要であり彼には悪いと思いながらもその『英雄』を旗頭として前線に立たせることを決めたのだった。


しかし、現実は物語よりも奇妙なものでその目の前では石畳を砕き、建物を破壊しながら『獣の砦』に向かって真っ直ぐ進みながら『赤い流星』を操り、あれほど多くの人々を苦しめてきた『獣人』たちをただ蹂躙する『力』だけがあった。


そうして気がつけば他の騎士団長も将軍たちも彼女の横におり、彼らもまたその口を塞ぐこともできずにその光景をただ、ただ、眺めるのであった。

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