第九章『獣の砦と英雄』
軍用の馬車というものが高速車ということもあり、アリシアとアチャフは10日には陥落町の麓にあるアストリア王国軍の拠点に辿り着いた。
しかし、旅人が乗る馬車や荷物を運ぶ運搬用の馬車と違い、その乗り心地はとても悪く降りた瞬間アリシアはその道端へよろよろと移動するとその場で吐いた。
アチャフはそんな彼女の背中をさする
そんな二人の後ろに、二人の人物が近づいてきた。
リリー「いやはや、急な召集、申し訳ないねぇ!『英雄』殿!!
始めましてかな?あたしは第8騎士団、団長の名前はリリー、リリー・アンブルーだ!よろしく頼む!!」
そう言うと、第8騎士団長リリーはアチャフに手を差し伸べアチャフはそんな彼女の手を取り強く握手した。
アチャフ「はじめまして、リリー・アンブルー 騎士団長、あなたに会えて光栄です。
私の名前はアチャフ、
アチャフ・バントンです。
要塞ポグレムにて補給将校をしております。
まだまだ若輩者ですが、精一杯努力いたしますので以後、よろしくお願いします。」
リリー「はっはっはっ!!謙虚であるな!『英雄殿は!』」
2人が挨拶するその後ろで先程までリリーの後ろにいた、第8騎士団の服を着て顔をフードで隠した副騎士団長のブルドがうずくまるアリシアを介抱した。
アリシアの顔は蒼白になっており、その目は白目を向いている。
リリー「……ん?そちらの娘は『英雄』殿の付添人かい?」
それに気づいたリリーはブルドが介抱しているメイド服の上に旅用の外套を身に纏った少女、アリシアに気づいた。
アチャフ「…はい、そうですね
彼女、軍用馬車に慣れていなかったみたいなので、少し休ませてやってくださ…」
アチャフがそう言いかけた時、リリーの反応が妙なのに気づいた。
リリー「ん…?ん~~っ?どこかで…」
そう言うと、突然リリーは思い出したように介抱しているブルドを引き剥がし、小柄で華奢な体躯のアリシアの肩を掴み揺すった。
揺する度、カチューシャから垂れる鈴のついたレースが揺れ、鈴が鳴り、一つにまとめた若草と枯れ草を混ぜたような色褪せた茶髪と緑髪の三つ編みが揺れる。
リリー「ああ!あんたっ!2ヶ月前にあたしの『店』に来た娘じゃないか!!転勤とか聞いてたけどまさか要塞ポグレムだったのかい!?随分とまぁ!まぁ!!」
そう揺さぶってから彼女は白目を剥いていた事に気付き、アリシアに自らの腰のベルトに付けた気付けのお酒を彼女の口に突っ込んだ。
途端にアリシアは目を白黒させながら盛大にむせ意識を覚醒させる
そしてリリーを見ると驚いた。
アリシア「…えっなんで…『食堂のおばちゃん』が…ここに…?」
それはアリシアが王宮から追放されて9日目に出会った『食堂のおばちゃん』だった。
ただし、その格好は以前アリシアが見た
木綿と麻でできた黄色いブラウスと緑のエプロンドレス、髪の毛を後頭部にひっつめ、その頭に赤いバンダナではなく、今は白銀の全身甲冑を纏っている
その中で同じものといえば、その明るい金色の髪と、豪快な笑みぐらいのものだった。
そして、第8騎士団長リリーはアリシアに全く以前会った食堂の女店主の時のように気さくに話し続ける。
リリー「いやはや、あんたがここにいるって分かってたならもっと色々用意してたのにねぇ!
ほら、ブルド!この子がこの間、あんたに言ってた王宮料理人を追放されて転勤の道中であたしの店に来たっていう可愛い娘だよ!」
リリーがブルドの肩を叩きながら話を振ると彼は呆れているのかそのフードの中でため息をついた。
ブルド「リリー、今はその話ではなくて奪還作戦の話を『英雄』と話すのでしょう?」
脱線しかけた話題を戻そうと、ブルドはリリーに注意した。
リリーは「ああ!」と、手をポンッと打ってからアリシアとアチャフに振り向いた。
リリー「そうだね!作戦の話をしよう!!
ここじゃあれだし取り敢えず本部に案内するよ!」
そう言ってアリシアの手を引いて歩き出す
アリシアは混乱の極致でありリリーに手を引かれている今の状況が呑み込めず目をぐるぐるとさせ理解できておらずアチャフは凄く心配そうな顔をしていた。
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―「ふむ、あれが例の『英雄』か、」
その時、リリーがなにかしら会話してから、その小柄なメイド服の少女の手を引いて歩き出し
その状況を心配そうに見守りながらついて行くアチャフの姿を遠くから見ている者がいた。
全身は土埃にまみれて薄汚れており、その身体には内側にインナー、その上から革製の鎧、だらりと妙に長く見える腕に真鍮の篭手と、右肩には真鍮の肩当て、頭にはやけに大きく目立つ青い羽のついた真鍮の西洋兜を被って、常に面頬を下ろしているのでその素顔を隠した全体的に古い装備で使い古されており、大変みすぼらしい姿の男、
『鉄級冒険者』のカルヴァルである。
今回の『ブルートニク奪還計画』の緊急クエストとしての依頼に参加した冒険者の一人として、アストリア王国軍の拠点の一つにいたのだ。
彼は拠点のテントの支柱を共にいる他の冒険者と共に運びながら、横目で見て目の前の『先輩』にそのしゃがれの一つもないとても綺麗な男性の声で話しかける
カルヴァル「ヴァルトス先輩、あの方々が今回の作戦の要ってのは本当なのかな?」
ヴァルトス「…ん?あぁ、らしいな。噂じゃ獣人将軍の首を単騎で討ち取ったって話らしいぜ
…お!まさかカルヴァル、お前『英雄様』に御目通りでもしたいってか?」
カルヴァルの話しかけた冒険者先輩である黒金級の先輩こと『戦斧使いのヴァルトス』は、珍しく顔も見せないこのよくわからない彼が興味を持っているものがあることを知って、彼をいじるつもりで話しかける
しかし、彼は支柱を支えながら肩を竦めた
カルヴァル「ふふ、まさかそんなのじゃないよ
ただ、ちょっと思ったより普通の兵士さんだねって思っただけさ」
ヴァルトス「ははっ!確かにな!
だけど本当に強い奴ってのは案外見た目じゃ判断できねぇ!」
そう言いヴァルトスはカルヴァルの支える支柱に、楔を持っている槌で打ち込みながら話す
ヴァルトス「昔、俺も酒場で絡み酒をするうっとうしい奴がいて追い払ったら後でそいつがあの銀級冒険者のリーズ・オズヴォンだったなんて時にゃマジで驚いたしなァ!」
カルヴァル「それは面白いね、
その後、ヴァルトス先輩はどうしたんだい?」
ヴァルトス「ん、まぁその次の日に酔いの覚めたそいつが俺に謝ってきたな…その後はたまに酒場で話したりするかねぇ
まぁ、ちょっとした酒の飲み仲間ってとこだ
―だからカルヴァル、お前ぇもたまには酒場来いよ冒険者は横のつながりが大事だからな!」
カルヴァル「ふふふっ…うん、今度お邪魔させてもらうよ」
カルヴァルはそう言うとヴァルトスと共に次の支柱を立てるためにその場を離れるのだった。




