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第一章『料理人、追放される』

王太子「君のような凶暴な料理人は我が王宮には要らない。

よってアリシア・ヴァンシィ、君をポグレム要塞に追放する」


聖獣神暦3066年狼眼月の夜

アストリア王国王城の食堂に美しく力強い声を持ち、青みがかった白銀の髪と白い肌、切れ長の目には深い蒼の瞳を持つ整った顔の成人になって間もない一人の男、

レイン・アストリア・ゼッカーノが一人の少女に言い渡したその言葉で周りの者たちは固まった。

…その当人であるアリシア・ヴァンシィは華奢で小柄な身体、一つにまとめた若草と枯れ草を混ぜたような色褪せた茶髪と緑髪の三つ編みと涙で潤んだ色褪せたような赤い瞳、そして整ってはいるがあまり目立たない大人しそうでかつ気弱な顔を震わせながら青ざめた。


周りの料理人たちは焦り、

それ以外の使用人達は嘲笑った


―「やっとせいせいするわね」


―「あいつ、いつもオドオドしてるくせして料理してる時は薄汚く命令してきたから嫌いだったんだよな」


―「だよな、シュミエラの言う通り料理の時にこっそり殿下を呼んで正解だったね」


使用人たちの密かにしている会話を料理人たちは怒りの形相で睨みつけて黙らせた


しかし、今のアリシアの状況をどうにかしてひっくり返すようなものは一つもない


アリシア「…あっ、…あの…えっと…」


アリシアは勇気を出して声を出すが

王太子は彼女を無表情に睨みつけたことで、気弱な彼女はそれ以上喋れなくなった


王太子「…使用人たちに対する執拗な暴言、王宮料理人としてあるまじき言動、

時に君は王家に対しても暴言を吐いたそうだね

使用人のシュミエラが全部言ってくれたよ」


王太子の横には鮮やかで美しい赤髪の使用人服の女性が静かに佇んで彼に紅茶を注いでいた

見た目は清楚なものだがそんな彼女は暇があれば『料理人の時以外』のアリシアのことをよく罵倒していたものだ

しかしそのことを語れるのは当人であるアリシアだけであり、そんな当人にしかわからない程度の微笑みで、シュミエラはアリシアを見下した


王太子「今夜中に荷物をまとめて即刻出て行くように、以上だ。」


そう言うと王太子は護衛騎士に目配せをしてアリシアのことを食堂から追い出した

廊下に出されてすぐ彼女はすでに適当なものを詰め込まれたスーツケースを使用人に投げつけられるようにして渡され、少しふらついたが彼女はなんとか踏ん張る

その姿を見て使用人達は、転倒しなかったのを少し不満げな顔をする

その後、乱暴に首根っこを掴むように引きずって王城の門に着くと彼女を投げるようにして追い出し門を容赦なく閉めた

…この時、アリシアは世話になった料理長や仲のいい料理人仲間たちとの最後の会話も挨拶も一切合切許されなかった


アリシア「…今まで…ぁ…ありがとうござい…ました…っ」


たとえ誰とも話すことができなかったとしてもそれでも彼女は頭を下げその思いを口にしてから王城を後にし西の辺境にある要塞ポグレムへと歩を進める為に夜の王都を歩いて行くのであった。


…そしてまさかこの辺境、要塞ポグレムへの追放が『最前線送り』であり実は死刑宣告に近いものだとは誰も知る由もなかった

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