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第1話

覗いてくださりありがとうございます。

 冒険者ギルドは今日も賑わっていた。

 依頼書が張り出された掲示板の前では冒険者達が我先にと、依頼書を引っ掴んでは剥がしていく。そのすぐ後ろでパーティーらしき一団がヒソヒソと話し合いをしていた。


 私とミュウはその隣をすり抜けるように避けて、ギルドカウンターに一直線で向かって行く。


「むぅ。……あ、レイナさんお疲れ様です! 今日も薬草の買取ですか?」

 

 難しい表情をしていた少女の顔がこちらに向いた。

 ギルドの看板娘――モリーはカウンターの奥から手をヒラヒラさせる。

 冒険者からの支持を得ている彼女のカウンターには、素材が積み上がっている。その光景はギルドの恒例となっていた。


 モリーのカウンターにわざわざ並ぶ者も多い。

 積み上がっていく買取素材を高効率で捌いていく彼女は、小動物のように手を動かして跡形もなく処理していく。文句の付けようが無い働きぶりにギルド職員からの信頼も厚い。

 

 モリーは両腕で抱えた買取素材を仕舞うと、さっとこちらに向き直った。

 眉間に皺を作っていた彼女の雰囲気は一転して、元気ハツラツといった快活な様相に変わった。

 

「お疲れ様。モリーはいつも人気だね。さすが、このギルドの看板娘は違う」

「やっほー、モリーちゃんお疲れ様~」

「ミュちゃん、レイナさんお疲れ様です! 看板娘なんてそんなそんな……ただ若いだけですよ~」

 

 まんざらでもない表情のモリーは何故か頬を赤くしていた。

 私は気にすることなくカゴ一杯に集めた薬草をカウンターに並べていく。きっちり泥を落とし、小分けの束にしてある薬草――全て取り出すと独特な匂いが鼻を刺した。


「いつも丁寧な仕事ですね。めちゃくちゃ助かります」

「そうかい? どうしても乱雑に詰めるのが嫌でね。お陰でミュウには時間がかかると怒られてるよ」

「だって工程が増えるだけだもん。貰えるお金は変わらないし」

  

 ミュウが反論するがモリーは顔を横に振る。


「そんなことないですよ。形が綺麗で良質な薬草は買取価格が少しだけ上がります。特にレイナさんとミュウちゃんの薬草はこのギルドで一番買取額が高いんですから」

「えぇ~、うっそだぁ~」

「ホントですよ! ……ただ、薬草ですからね。そこまで高くはなりません」

「それじゃ意味ないじゃん!」


 ミュウがそう言いうとモリーが歯を見せた。

 買取価格が上がるのは知っている。

 だが、単純に汚したくないのと、綺麗な束にすれば沢山詰めれる、それだけだった。しかし、口を挟むのも面倒だから適当に流して笑みを作るだけに留める。

 

「それでは鑑定していきますから少し時間をもらいますね」

「ああ、よろしく頼むよ」


 モリーの表情が真剣なものに変わる。次には素早い手つきで鑑定し始めた。

 持ち込んだ量が量なので時間が掛かりそうだ。私は暇潰しのためにミュウとこの後の買い物についてを話すことにした。


 買うものは大体決まっている。

 まとまった食料に魔道具用インク。吹き飛んでしまったロジックボード代わりの紙に、少しばかりの釘と板だ。

 幸いにも寝具の類は無事だったので、高価な布を買う必要がない。日々の生活費と研究費を差っ引いたら、瞬く間にお金が飛んでいく財布事情の改善はまだまだ先になりそうだ。


 実用的な範囲まで形にしないと、厳しいな……


 いつまでも薬草採取で最低限の生活をミュウに強いるわけには行かない。

 ミュウが私を捨てて一人で何処かに行ってしまうんじゃないかと焦りが募る。

 最愛の妹が消えてしまったら――気が狂ってしまうだろう。


 それにミュウは実験の成功に欠かせない人物だ。

 私の脳味噌と彼女の類まれなる計算能力が、この研究を成り立たせているのだから。私は頭の片隅でこれから行うべき行動について考える。


 だが、不意に汚い声が私の名前を呼んだ。

 その声の主に視線を向けると、男性冒険者の一団が囲むように壁を作っていた。

 

「ようよう! ボロ魔導具屋の姉ちゃん達、まだ雑草なんか集めてんのか?」

「そんなもんを集めないと金も稼げないなら、どうだ……? 俺の下でも世話するかってな。金貨一枚なら出してやってもいいぜ? ガハハハハッ!」

「それか酒の酌でもやるか? 銀貨3枚でどうだ」


 清潔さの欠片も無い男達が勝手なことを言って騒ぎ始めた。

 以前から何かと理由を付けては私達姉妹に絡んでくるこの一団に、私はうんざりした気持ちになる。

 私はミュウの腕を引き寄せて背の後ろに隠した。あの汚い手で私のミュウを触られるなんて耐えられないからだ。


「すまないが、君達の世話になる気も世話をする気もない」

「そんな硬いこと言うなって」


 一団のリーダーと思しき男が私の肩を抱こうとしたが、触れる手を払い除けて男を睨んだ。


「お~怖えぇな。だがそんな気が強いところも俺は気に入ってんだぜ?」

「妹もスゲェべっぴんだな! どれ、俺が味見してやるよ」

「イヤッ! 触らないで……!」


 ミュウに伸びる腕を寸前のところで止めた。

 ああ、気持ち悪い……こんな汚い腕を掴まないといけないなんて、なんて散々な一日だ。

 頭の中で吐き捨てて、男の手に指を絡めて握ると微笑みかけた。


「おいおい。私を差し置いて妹を味見するなんて……いいだろう。相手をして欲しいならしてあげよう。ただし、金貨100枚とその汚い体をどうにか出来たらだけどね」


 ニコリと作り笑顔を貼り付けて男の目を見据えた。

 男は一瞬固まったかと思えば、大きく喉を動かす。男に「で、どうするんだい?」と問いかける。 「チッ、お前はお呼びじゃねえんだよ」と 、男は吐き捨て、逃げるように私の手を払い除けた。


 私は触った手を服の裾で拭きながら、はっきり宣言した。


「そうかい? なら何処かへ行ってくれないかい? 私達も買取が終わればすぐに消えるからさ?」

「……ククッ、お前面白えな。俺の女になれよ……贅沢させてやるぜ? なんたって俺等はこのギルド唯一のBランク冒険者だ!」

「へ、へへっ、そうだ。俺達はBランク冒険者様御一行だ! もっと頭を低くした方が身のためだぜ?」


 男達は各自の武器に手を当てて威圧してくる。

 さっきまで騒がしかったギルド内がピタリと静かになった。床を踏み鳴らす足音は止まり、喋り声が反響していたギルドロビーが静寂を帯びる。冒険者達が事の行方を注視する視線を、カウンター目掛けて一斉に飛ばしたのが分かった。

 

 Bランク冒険者と宣った男達はギルドでも強い部類に入る。他の格下冒険者が束になっても敵わない戦力だ。その一団がカウンター前で女と揉めているんだ、興味を引かない理由がない。

 

 面倒だな……。


 武器も魔法も持ってない私達に成すすべはない。

 手詰まりの状況になったと思った瞬間――高い声がカウンター越しから飛んできた。


「コラアアアアアアア! 寄って集って皆さんなにしてるんですか! ギルド内での揉め事はご法度ですよ! 即ギルドカード没収ですよ分かってますか!」


 看板娘の咆哮がギルド内で跳ね返る。

 モリーの正論に、壁を作っていた男達はバツの悪い顔になる。すると、威圧感も無くなり、あっという間にいつものギルドの様子に戻った。

 周りの冒険者からの視線も消えていつもの騒がしい雰囲気を取り戻すロビー。

 その中でリーダー格の男は、鼻を鳴らして吐き捨てるように言った。


「今日は引いてやるが次は……。まっ、モリーに感謝するこったぁ。おい、お前ら――行くぞ」


 リーダーの男の掛け声でゾロゾロとその場を後にしていくBランクの一団。その背中を見送りカウンターに向き直ると、胸を膨らませているモリーを見て告げる。


「モリー。君が優秀であることを今日、改めて理解させられたよ」

 

 私の評価を聞いたモリーが「えへへ」と口から笑みを溢した。それから私達は薬草の代金を貰うと、ギルドを後にしたのだった。

 


最後まで読んでくださりありがとうございます。

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