プロローグ
覗いてくださりありがとうございます。
『トーチ』という魔法がある。
この世界なら誰もが使える一番簡単な魔法。
もし、この魔法という『概念』をまっさらな状態から作り上げることが出来たならば、この『トーチ』がいずれ『核融合』と呼ばれる日が来るのかもしれない。
雲を掴むような話だが私は信じてる。人類はいつの日でも、進化の階段を登り続けてきた存在なのだから……。
今日は――その、記念すべき一歩目になる。
ドッッッッガアアアアアアアァァァン!
と、いった具合に爆風と閃光が産声を上げると、木っ端微塵にボロ屋を吹き飛ばした。
板切れを貼っただけの壁は一部を残して地面に散らばっている。元から壊れていたテーブルと椅子は存在した形跡を探すのも難しい。
手はなんとかついてるな……。体は無事なようだ。被害は感覚器官だけか。これなら、なんの問題もない。
床から立ち上がると舞ったホコリが喉に張り付いた。
とにかく、実験は『成功』だ。
ここまでの被害になってしまったのは想定外だが……。試作品ではそもそも発現すらしなかった。つまり、一応は動いたというポジティブな解釈でいいだろう。
しかし、何が駄目だったんだ? 起動前テストの段階でしっかりと確認をしたはず。ロジックボードが間違いないなら――おっと。
腰に何かがぶつかった。
抱きしめられる感覚に下を見てみれば、お腹辺りに腕が巻き付いてる。今にも泣き出しそうな顔と視線が合うと、妹のミュウだった。
(すまない、今は何も聞こえないんだ)
身振り手振りで状況を説明する。
ミュウの口元が動いても声が聞こえない。未だ耳が機能しない事実にトンッ、とこめかみを叩いたが、何も変わらなかった。
「――ゃ……ちゃん! 聞こえる! 何か言ってよ~」
とうとう涙を溢したミュウの頬をそっと拭う。
「ああ。やっと聞こえるようになったよ。すまない、心配をかけてしまった」
「う、うわあああん。良かった~、良かったよ~! ぐすっ、死んじゃったかと思ったじゃない!」
「ははっ、まだ死ぬ時ではなかったようだ。それよりミュウ……遂に成功したんだ。私達の作った『スクロール』が」
「え、ホント? ってなるわけないじゃない! ずぴっ」
ぐずるミュウの背をやさしく撫でる。
胸の中で嗚咽が上がるたびに温かい息と涙が服を湿らした。
しばらくの間、二人で抱き合っていると「もう……だいじょう」と言うミュウと、風通しの良くなった小屋の中で笑いあった。
「落ち着いたかい?」
コクリと頷くとミュウは目を擦り上げた。
寝っ転がる私の足を枕代わりにミュウが頭を乗せている。泣き疲れたのか静かになったが、目は真っ赤に充血してシパシパと瞬きを繰り返している。
「それにしても……なんでなんだろ」
「ん?」
「ちゃんと何度も見直したのに……」
ミュウの言葉に今日の実験を振り返る。
描いた回路に問題があったとは考えにくい。何度も点検したし魔力の通りも確かめた。魔力回路の清書によって、腱鞘炎になるくらい書き連ねた作業だ。ちゃんと機能するはずだった。
「もしかすれば、魔力吸収の数値が間違っていたのかもしれないね。あの最後に付け足した外部取り込み用のコード……覚えているかい?」
「うん。ちゃんと覚えているよ。お姉ちゃんの仕様書通りに1000で設定したよ?」
「うん? 1000? おやおや……原因はそれだな」
「どういうこと?」
「いや、私は確かに100と書いたはずだけどね? もしかしたら、書き損じたのかもしれない」
え!? と声を上げて飛び起きたミュウは申し訳なさそうに私を見た。垂れ下がる頭をゴシゴシと撫で回して体を引き起こす。
「気にしなくていい。誰にだってミスはあるし、それも実験の醍醐味の一つさ。……まぁ、次は勘弁願いたいけどね?」
「ごめん……」
成功する可能性があった――それだけでも十分な成果だ。
それに……今更あの紙吹雪の中から答えを探す気にもなれない。バラバラに飛び散った破片の山に口から息が漏れた。
ボロ小屋どころか、資材置き場の掘っ立て小屋に姿を変えた我が家ーーいやいや、落胆している暇はない。さっさと片付けて目隠しくらい作らなければ。
「わ、私頑張って働くよ! たくさん薬草集めるから、また頑張ろ?」
「ああ、そうだね。こんな事で、くよくよなんかしてられない。さぁ、そろそろ片付けに入ろう」
腕を上げ、空に突き出す。
さっさと片付けてギルドに向かおう。
頭を切り替えて、近くに落ちている木片を拾うと私は適当に放り投げる。すると、空に浮かぶ砕けた月と重なった。
読んでくださりありがとうございます。




