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ヴァンと二人で隣国の調査に行ったアリアはお土産を持って二週間ほどぶりにレインの元へと向かう。
アリアに従う風の眷属を使った調査では隣国の上層部にアリアたちの国へと戦争を仕掛けようと企んでいる者がおり、関係者に色々と働き掛けている事が判明した。
隣国とは過去に争った事もあるが今は和平が成立しており、そこまで良好な関係でもないが、かと言って不仲なわけでもない、言うなれば可もなく不可もなくと言った関係を現在は築いている。
だが、そう言った状況に不満を抱いている者も少なからず存在している様で、少数派だがアリアたちの国に過去の遺恨を晴らしたいと思っている者が今回の首謀者だと発覚した。
その首謀者とは過去に両国で起こった戦争を経験した老人たちだ。
自らの子供や孫たちに自らの恨みつらみやアリアたちの国に対する悪感情を幼少期から植え付けていき、同じ思想の仲間を集めて少しずつ力を付けてきた。
更にアリアたちの国にある鉱山や精霊の森の利権など隣国を手に入れる旨味を最近では説いて回っているらしい。
よほどの国でない限り他国を征服すれば利権を得られるのは当たり前だが、彼らは鉱山と精霊の森の関係について語っていた。
アリアたちの国にある鉱山で取れる鉱物は精霊たちとの親和性が高く、それによりその鉱物で作られた物には精霊を宿しやすくなる特性がある。
又、それを更に精霊の森の中に放置ないし埋めておくとただでさえ高い親和性が更に高まり、契約していない精霊でも、霊眼を持っていない者でもその鉱物を用いれば容易く捕まえて使役する事ができる、と。
眉唾物のその方法には多少の代償が付く、と言う事実が抜けている以外は紛れもない真実だった。
だが、真実だからこそ問題だった。
何故ならば、その情報は国の最高機密として秘匿されており、知っているのは王族と宮廷精霊術師それと一部の上層部だけだったからだ。
精霊を尊ぶこの国では精霊を傷付ける事を何よりも疎んでいる。
その為、精霊の自由を奪うこの鉱物は余程の理由が無い限り使用するのを禁じており、鉱山は全て王家所有の直轄地とされている。
採掘しているのは精霊による奴隷契約を施された者のみでその奴隷は鉱山の事を決して口外しないように制約がつけられている。
更に鉱山で採集された鉱物は全て王家によって管理され鉱物を扱う事ができるのは王家によって認められた者のみとされており、その者にも精霊による制約がかけられている。
情報は限界まで制限されているのだ。
それはつまり、上層部にこの情報を隣国へ流した者がいる事に他ならなかった。
このことを知ったヴァンは嘘だろと頭を抱えた。
上層部に隣国の間者あるいは協力者がいると言う事は、ヴァンが得た情報を報告したらその人物がこの情報を知ったヴァンを排除しようと動いても可笑しくない。
かと言って、隣国に狙われているのだから報告しない訳にもいかない。
今はまだ少数派だがいずれは戦争に繋がる可能性もあるのだ、情報を知っておけば事前に戦争を回避できる可能性も上がる。
戦争なんて起きない方がいい。
回避できるものなら回避してなんぼだ。
ヴァンからの情報と言う事を隠して報告しようにもこの国にいる宮廷精霊術師は5人。
今回は5人とも手が空いていないからとヴァンに要請が入ったのだ、秘匿するのは難しい。
アリアは現在第五王子の護衛任務についているのでずっとヴァンの傍にはいられない。
前の様に一定時間だけならばまだ良かったが現在は不安定な王子を見守るために魔力供給以外では四六時中王子の傍にいる。
アリアの眷属を使ってヴァンの身を護る事は可能だが、アリアはヴァンが第一優先なので眷属には任せずに自分でヴァンを守りたがった。
眷属はあくまでも命令された事しかこなさないので命令以外の事には臨機応変に動けないと主張するアリアにヴァンはこめかみを抑え、ため息を吐きながら言った。
「アホ、文官と霊眼持ちの王子を天秤にかけたら王子を優先する物だろ。眷属が小回り聞かないなら余計にお前は王子の傍にいるべきだ」
〔確かにレインは大事だけど、それよりもヴァンの方が大事だもの〕
「大体、お前が約束したんだろう? アグネーゼ妃と。 王子の傍にいるって」
〔そうだけど……〕
「約束したなら守らないとな。こっちは何とかするよ、うん。とりあえず防御用魔術具を用意して、精霊具も作って、食事はなるべく自炊して、部屋の防犯、防犯はあれがあるか。
報告書作って魔術具作って防犯対策して自炊して、何徹だ。
いや、でも逆に部屋に帰らない方が安全なのか?何とかなるよな?……なる、うん、する、頑張る」
〔ヴァ、ヴァン……?〕
虚ろな目でブツブツと遠くを見るヴァンになるべく早くレインを立ち直らせて元の生活に戻ろうとアリアは決意を固くした。
お土産に隣国の名産である焼菓子と木で作られている小さな兵隊人形を用意してアリアはしばらくぶりにレインの部屋にやってきた。
丸くなって眠っているレインの顔を除くと魘されながら涙を流している。
慌てていつもの様にレインの涙を拭う様に頬に風を送るとゆっくりとレインの瞼が開いた。
『はーい、レインただいま帰ったわよ』
「あ、ありあ」
草で作った文字を浮かべるアリアの姿を見つけたレインは起き上がると涙を零しながらアリアへと勢いよく突進する。
アリアは慌てて空気の塊を作り、レインを受け止めた。
ぎゅっと抱き着いたレインは感極まったかの様に泣き出した。
「ありあ、ありあ……!」
〔え、ええっ〕
そんなレインをアリアはただオロオロと手を彷徨わせ、助けを求める様に辺りを見渡すが部屋には生憎とアリアとレインしかいない。
しばらく所在無さげにしていたアリアが恐る恐る風でレインの頭を撫でると、レインは更に泣き出した。
〔ええ?! ど、どうすればいいのかしら? 小さい時のヴァンならこれで泣き止んでたのに! ええっと、他にはどうしてたかしら?〕
精霊であるアリアの声は契約者ではないレインには聞こえない。
いつもの手段を取ろうにもレインは泣いているのでアリアが浮かべる文字が見えない。
アリアは己の眷属を呼び出し、ヴァンに助けを求める事にした。
返事は直ぐに帰ってきた。
『そのまま泣かせてやれ、アリアの話を聞いた限りアグネーゼ側妃が亡くなってから一度も泣いていないんだろう? 一度全部出させた方がすっきりするだろうし感情の整理にも良いと思うぞ』
小鳥の形をした眷属はヴァンからの返答を告げると空気に溶けた。
幸い、精霊と同じく眷属の声は契約者にしか聞こえない。
アリアとヴァンのやりとりも何も知らず、会いたかったアリアとの再会を邪魔者に邪魔される事無く、レインは気絶まで泣き続けた。
泣き止んだかと思ったら気絶したレインに取り乱したアリアがヴァンに助けを求めたのは特筆するまでもない。




