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母上が亡くなってから僕はずっと夢を見ている様な気分で毎日を過ごして居ました。
霞が掛かった様な日々、いつものように勉強と剣術の鍛錬をして淡々と作業をするように他人事のように自分を眺めている中、たまにふと霧が晴れる時があります。
そんな時、傍には必ずアリアがいました。
不意に世界に自分だけが取り残された様なとても心細い気持ちになった時も、悪夢に魘されて飛び起きた時も、彼女は彼女の契約者が王城で働いている時にしか僕の警護をしていないハズなのにいつも必ずアリアは僕の傍にいてくれました。
そんなある日、朝起きるといつも傍にいるはずのアリアの姿は無く、僕の勉強机の上に彼女からの伝言が残されていました。
『しばらく仕事でいなくなるの、ごめんなさい。帰ってくるから安心して』
ぼんやりとした頭ではそうなのかと思うだけで特に何の感情も湧いてきません。
それから、アリアの居ない毎日が始まりました。
いつも通り勉強して、剣術の鍛錬をして淡々と過ごしていたのですが、ある時、ふと我に返るとそこは自分以外誰もいない部屋で、振りかえるといつもは必ず傍にいるはずのアリアの姿がありません。
不意に息苦しさを感じ、胸を手で掴みます。
『しばらく仕事でいなくなるの、ごめんなさい。帰ってくるから安心して』
そうでした。
彼女は今仕事に行っていて僕の傍にはいないのでした。
アリアはいません。
母上、母上もいないです。
脳裏に浮かぶのは葬儀で棺の中に横たわる母上の顔です。
母上の好きな薄い黄色の花で満たされた棺は蓋を閉められ、王宮敷地内の特別な場合以外王族しか立ち入れない場所にある墓地に埋められます。
母上の寝ている白い棺に次々と土がかけられていき、どんどん見えなくなっていきます。
それと同時に足元にぽっかりと穴が開いていく様な感覚に、まるで棺にかけられている土が僕の足元から掘られている様な奇妙な錯覚を覚えふら付きそうになった体を、ふわりと空気の塊が支えてくれました。
ふと、隣を見るとアリアが僕を見下ろしてにっこりと笑いかけてくれます。
あくまでもアリアの護衛は秘密だから人前なので言葉を交わす事は出来ませんが、その目は優しく、泣きたくなるくらいでした。
何故でしょう、不意に僕の頭を撫でる母上の笑顔を思いだします。
「大丈夫、精霊様はレインを守ってくれますよ。必ず」
「いつだって貴方の傍にいて母の代わりに貴女を見守って下さいます」
「母も風となっていつでも貴方の傍にいますよ」
それは亡くなる前に母上が僕に言った言葉でした。
でもね、母上。
今僕の傍にアリアはいないです。
母上がいつも僕の傍にいるなんて嘘です。
だって僕は、こんなにも寂しい。
不意に母上はもういないのだと理解しました。
辺りを探してもいつもいるはずのアリアの姿がありません。
僕は、僕は、本当に独りなのです。
僕が霊眼持ちだと判明してから父上とよく話すようにはなりました。
ですが、僕にとっては家族は母上だけで父上はただ父と言う記号を持った他人でしかないのです。
心細さに視界が歪んでいき、熱い空気の塊が喉からせり上げ食いしばった歯の隙間から洩れていきます。
鼻の奥がツンとして、あっと思った時、我慢していたのに目からボロボロと涙がこぼれてきました。
慌てて涙を拭いますが拭いても、拭いても涙は溢れて来ます。
周りを見回しますが、やっぱりアリアはいません。
どうしてアリアはいないんですか。
僕にはアリアしかいないのに。
まさかアリアも僕を置いてどこかにいってしまうのですか?
そう考えた途端、嗚咽がもれました。
他の人に聞かれない様に布団に潜り込み、丸くなります。
『しばらく仕事でいなくなるの、ごめんなさい。帰ってくるから安心して』
いやです、いやだ、アリアもいなくなってしまうなんていやだ。
帰ってくると言いながらそのままいなくなってしまうアリアの後ろ姿が閉じた視界の暗闇に浮かびます。
どんなに名前を呼んで手を伸ばしてもどんどんアリアの背中は遠ざかっていき、気が付いた時には僕は暗闇の中で一人ぼっちでした。
ふと気が付いた時、頬を優しい風が撫でていくのを感じて目を開くと優しい顔をしたアリアがベッドに腰かけて僕を見下ろしていました。
アリアの姿を見た僕は彼女がいなくならなかった安堵から思わず泣いてしまいました。




