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アリアが遂に僕の思いに答えてくれた。
その事実だけでもう自分に不可能な事は無いと思えるくらいに自身が溢れ、世界が輝いて見える。
ずっとずっと欲しくて堪らなくて、諦められなくて手を伸ばし続けていた。
彼女の一番愛する人間になれないのであれば、一番憎い人間になろう。
どんな感情であれ、彼女の一番が欲しかった。
そして心が手に入らないのであれば身体からだと、ただひたすら頑張ってきた。
いつ実るのかも分からないその努力が遂に実を結んだのだ。
嬉しくない訳がない。
アリアが思いに答えてくれて早半年、昨日のアリアも可愛かったなとレインは思いを馳せる。
可愛らしく色気のある声で反応をし、自分から腰を振り、足を絡めてくれる。
思い出すだけで興奮から鼻血が出そうだ。
最近では食欲も旺盛で、この間は僕よりも食べていた。
女性は食事で体形が崩れるのを気にすると聞くけれども、流石僕のアリアはどれだけ食べても体形が変わる事はない。
それどころか日々身体が引き締まっているかのように感じる。
きっと僕が居ない間に部屋で何か運動を頑張っているんだろうな、とは思うけれど普段の態度からは努力を感じさせない。
そんなところも素敵だ。
最初は僕を安心させて不意を突いて逃げる気なのだと思っていたけれども、試しに侍女に部屋の鍵をかけ忘れたフリをさせてみたが鍵が開いている事に気が付いても扉に近付く素振りも見せなかった。
部屋から逃げ出す様子も、出たがる様な事も言わない。
これなら、そろそろ部屋の中でなら足枷を外して自由にさせてあげても良いかもしれない。
度々鎖が擦れて肌が赤くなっているのは気になっていた。
うん、そう外してあげよう。
これでまた脱走を謀れば次は両足につければ良いし。
いや、いっその事首輪にしても良いかもしれない。
アリアならきっと首輪も似合うだろう。
僕の瞳と同じ色の紫色の首輪でも用意しておこうかな。
鼻歌でも歌い出しそうなくらいに上機嫌なレインの元に医者がアリアの部屋へと呼ばれたと報告が入る。
朝から気怠そうにしていたが昼食を摂っていたところ、急に吐き気を覚えそのまま戻してしまったそうだ。
アリアを見た医者がレインを呼んでいると聞き、仕事を放り出して大急ぎでアリアの部屋へと向かう。
(何かの病気だろうか? 重大な病だったらどうしよう!?)
不安で焦燥感を抱き、アリアの部屋のドアを開く。
「アリア!!大丈夫かい?!」
「騒々しいわね」
「ああ、ごめんねっ!」
ソファに座っていたアリアが大きな音と共に入って来たレインに眉を顰める。
アリアを抱き締めて額に口付けを落とし、そのまま隣へと腰掛ける。
「それで、アリアの身体のことで大事な話があると聞いて来たんだが?」
「はい、まずは単刀直入におめでとうございますレイン様、奥様。ご懐妊です」
「…………本当かっ?!嘘ではないよな?!」
驚き、信じられなかったが医者はアリアの体調は確かに懐妊の兆しだと太鼓判を押す。
アリアと目を合わせ、ようやく彼の話が本当だと理解できたレインはアリアを持ち上げ、立ち上がった。
喜びのままにアリアを上に持ち上げてくるくると回る。
「やったっ!!やったよアリア!!これで僕たちは本当に家族だ!!ああ、本当に信じられない!!ありがとう!ありがとう!」
「レイン、ちょっと気持ち悪いから下ろしてちょうだい」
「レイン様、お喜びは尤もですが奥様は大事なお体なのですから安静にしなくては」
「おっと、そうか、そうだった……嬉しくて、つい」
アリアをそっとソファに戻し、レインは深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
ああ、まさかアリアとの間に子供ができるなんて!!
夢にも思っていなかった!
本当に、嬉しくて嬉しくてどうにかなってしまいそうだ!!!
意思に反して顔が勝手にだらしなく緩んでしまう。
受肉の存在を知った時、一通り調べた結果受肉した精霊との間に子を作れる事をレインは把握していた。
子を作れると言ってもあくまでも受肉した肉体との血縁関係のある子供ができるだけで、精霊本体との血縁ではないのだが、そんな事はレインにとっては些末であった。
受肉し、その元の魂を磨り潰して新たな魂が定着したのであればそれはもうその魂の身体だ。
そう考えてはいたが、それでもアリアはいつかその受肉した身体を捨て、レインの元から去ってしまうのではないか。
そんな漠然とした不安をずっと抱えていた。
そんな不安を抱えるレインにとって懐妊はアリアは精霊ではなく人間になったと言う一番の証明のように思えた。
だから毎日毎日、祈りながら子種をアリアの中に注ぎ続け、それが遂に実りを遂げた。
身重の身体ではここから脱出する事は不可能だし、例え産んだ後だとしても優しいアリアだから、産まれた赤子を置いていく事などできないだろう。
これでもうアリアは自分から逃げる事はできない。
これでもうアリアは精霊に戻る事は無い。
ずっと不幸だった、孤独だったレインに訪れた幸福。
まさにこの世の春だった。




