8
それからアリアは日々、閉じ込められた部屋で食事を摂りレインに抱かれる生活を繰り返す。
話し掛けてくるレインを無視し、行為中も声を押し殺し反応を返さないように努める。
そんなアリアでもレインは満足そうだった。
時折公務でどうしても傍を離れる事があるが、その際は前日に丹念にアリアを抱き潰した。
今日はアリアに月のモノが来ており行為が叶わないため、ただベッドの上でアリアを抱き締めて寝転がる。
「あぁ、離れなければいけない用事があっても、魔力不足で弱る心配がないのは本当に良いですね。あの頃は日に日に弱っていくアリアを見る事しかないのがどれ程辛かったか」
頬擦りしてくるレインを押しのけるようと腕に力を込めるが、そんなアリアを意に介さずレインはアリアをひたすら抱き締める。
「ああ、でもあの頃と違っていつも傍にアリアを置いておけないのがとても残念です。アリアを他の人間の目に触れさせるのを想像しただけでその人間を殺したくなる。侍女はアリアのために必要だから我慢していますが、それ以外の人間は絶対に許せない。アリア、絶対にこの部屋から出ちゃ駄目ですよ?酷い目に合う人間を見たくないのなら、ね」
「……」
「ああ、それにしても片時でも貴女の傍を離れたくないのにこんな仕事を振って来るなんて兄上も人が悪いですよね。まあ、僕が優秀で頼りになるのは分かるんですが」
「……」
「アリアが居なくなってから、いつアリアと再会しても不自由をさせないためにたくさん努力したんですよ。苦手だった剣術や馬術も必死で稽古しましたし、アリアが褒めてくれた勉強も他の兄妹達を抜く位勉強したんです。邪魔してくる者は排除してきました」
「……」
「僕がこうやって好き勝手できているのも、僕の努力が実を結んだからなんです。アリアのため、そう考えるだけで僕は何だってできる」
「……」
どうでもいい、アリアにとってどれだけ語ろうともレインの話にはそれだけの感想しか湧かない。
そんな事よりもさっさとどこぞなりへと消えて欲しい。
そんなアリアに「そう言えば」と軽い口調でレインが言った。
「先日、この部屋にリョクが来ていたでしょう?許可を出していないのに勝手に来ていたので罰を与えたんです。あ、ちょっと反応しましたね」
リョクの名前に肩を揺らしたアリアに楽しそうにレインが笑う。
「どうして分かったのかって顔をしていますね。そこの床にリョクが精霊術を使った痕跡が残っていましたから直ぐに気付きましたよ。まあ、リョクは前回もアリアの話し相手でしたし、彼だけが来たようですから今回は軽い罰で済ませましたが次はないです。アリアが望むのでしたら偶に世間話をする程度でしたら許しますが、どうして欲しいですか?」
「……この部屋は息が詰まるわ」
「ふふ、それで?」
「話し相手が欲しい」
「そうですね」
楽しそうな顔をしているレインにイラつき、奥歯を噛み締める。
(落ち着くのよ、ここで怒ってはこいつの思う壺だわ)
深く息を吐いて気持ちを落ち着かせる。
「話し相手にリョクをここに送ってちょうだい」
「……」
「……お願いよ」
「ええ、アリアのお願いなら仕方がありません。けれど、おねだりするならもう一手足りませんね」
「……」
唇に指を当てるレインに虫唾が走る。
吐きそうになる気持ちを抑え、アリアはレインの唇に口付けをした。
ちょんっと一瞬しか触れなかった事に不満げな表情を浮かべたレインだったが「まあ、追々で良いか」と呟く。
追々も何もない、金輪際こんな事はしたくない。
「明日の公務で僕がいない間にリョクを送りますね。ああ、彼が脱出を手助けする事なんてないから話し相手以外では期待しないで下さいね?」
「……」
「まあ、賢いアリアなら分かっていると思いますが」
苛立たしいと言う感想しか湧いてこない。
こんな時はさっさと寝るに限る。
「あれ、もう寝てしまうんですか?」
残念そうなレインを無視して意識は夢の中へと落ちていく。
✻✻✻
すうすうと寝息を立てるアリアをこの上なく幸福な気持ちで見つめる。
(本当に、頑張って良かった)
アリアがレインの傍から消えてしまった日々は地獄だった。
生きる気力を失い、ただ無為に生を消化する日々。
狙って一個体の精霊を召喚する方法はない。
故にアリアにはもう会う事ができない、そう考えていたある日天啓がレインに降りる。
アリアと出会えるまで召喚すれば良いのでは?
そうすればあんな呪具を使わずとも、正真正銘自身がアリアの契約者となる事ができる。
されど、契約は双方の同意があって初めて成立するもの。
今のレインがただ召喚しただけではアリアに契約を拒否されて折角召喚できても再び精霊界へと帰られてしまう。
(どうにか一方的にアリアと契約を結べないでしょうか……)
そう考え、その手段を調べている時に『受肉』と言う禁術の存在を知った。
(なるほど、これならば召喚さえしてしまえばこちらのものですね)
方針が決まれば後は早かった。
それまで以上に勉強し剣術や馬術、政治に関しても他の姉弟達を抜きんでる実力を身に付け、学業の傍ら積極的に宮廷精霊術師としての任務をこなして知名度と実績を積んで行く。
レイン自身あくまでもアリアを手に入れるためにやっている事で、王位には全く興味はないのだが周囲がそれを知る由もない。
着実に実力を付けて行くレインに他の兄弟たちは恐れを抱く。
このままこいつが次期王として選ばれてしまえば今まで虐げてきた自分達がどのような扱いをされるか分かったものではない。
そうして再び命を狙われるようになったのだが、余計な事に気を割いている暇はないレインは権謀術数し邪魔な兄妹達をサクッと暗殺や幽閉、他国へ追いやる。
その結果、気付けば継承権は第四位から第二位になっていた。
残るは長兄のスティーブンのみとなったが、第一位ともなれば今以上に忙しくなり研究に割く時間が取れなくなってしまう。
そこで、レインは国王と密約を結ぶことにした。
内容は精霊に対する実験の許可とその支援を行う代わりに決して継承権一位であるスティーブンには手を出さない事。
そして自身が成人し、目的を達成した暁にはスティーブンを全力で補佐する事、国外へは絶対に移住しない事。
国王が一番スティーブンを気に入っており出来れば王位を継がせたいと考えている事を知っての提案だった。
レインがスティーブンに従う事で得るものと払う犠牲を秤にかけた国王は苦悶しながらもその提案を受け入れる。
否、受け入れる他無かった。
他の廃除した兄妹達とレイン排除を画策していたスティーブンは次は自分の番だと怯えていたが国王からその提案を聞き一も二も無く飛びついた。
自分は王位を狙ってもいないし欲しくもない、宮廷精霊術師として国と国王、次期国王であるスティーブンに尽くすと宣言し、兄弟仲が友好であることを度々周囲に見せつけ自身を担ぎ上げようと企んでいる者達を黙らせる。
面倒な事この上ないがそれもこれもアリアを自分の物にするため。
その為にならばどんな労力を払おうとも惜しくはない。
そうして15の時にアリアを失ってから約6年。
21になる頃にアリアを召喚する為の全ての手筈は整った。
準備して召喚して殺して捨てて、準備して召喚して殺して捨てて、合間に当てられる宮廷精霊術師としての任務をこなし、また準備して召喚して殺して捨てて。
その日々を繰り返して4年目のあの日、遂にレインは目的を達成した。




