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ヤンデレ王子と風の精霊  作者: 東稔 雨紗霧
3st脱出

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35/46

 〔おっと、そろそろ見張りが戻って来るみたいだから僕たちは帰るね!あ、そうそう今日僕らがここに来たのはレインには内緒ね?〕

 「ええ、それは勿論よ。けれど、どうして今更私に手を貸してくれる気になったのかしら?レインに愛想を尽かした……と言う訳ではなさそうだし」



 アリアの問いかけにリョクは肩を竦める。



〔まあ、特に深い意味があるわけではないよ。ただ、僕にも一応良心ってモノがあるんだよね。ただの人間だったら別に何とも思わないんだけど、同じ精霊だったら流石に何十体も犠牲になってきたら流石にくるものがあるし、それが知り合いだったら尚更だよね〕

 〔俺は……主を諫めきれなかった償いをしているだけだ〕



 ツッチーはそれだけを言うと姿を消した。

 まだお礼を言えていなかったのにと彼の居なくなった場所を見るアリアに〔庇う訳じゃないけどさ〕とリョクは言う。



 〔ツッチーはさ、僕達の中でも唯一レインにちゃんと苦言をしていたんだよ。ただ、それが毎回レインに言い包められちゃって良い様に使われちゃってるお人好しってだけ。かなり気にしてたし、今回もレインに内緒で君に会いに行くって言いだしたのはツッチーなんだよね〕

 「……そう、左手のこと、ありがとうと伝えておいて」

 〔うん、もちろんだよ。おっと、それじゃあ僕もそろそろ行くね!またね!!〕

 「ええ、また」



 リョクも姿を消し、少し経ってから侍女が朝食の乗ったワゴンを押して部屋へと入ってきた。

 だが、先程部屋から出て行った年老いた侍女とは別の人間だった。

 同じく年嵩はいっているようだがどう見ての別人でアリアは首を傾げる。



 「本日のお世話はわたしが務めさせていただきます。よろしくお願いします、奥様」

 「貴女も奥様と呼ぶのね、私の事はアリアと呼んでちょうだい」

 「いいえ、貴女様の事は奥様と呼ぶように厳命されておりますので」

 「……そう。じゃあ、貴女の名前を教えてちょうだい」

 「わたしの事は『召使い』と御呼び下さい、奥様」

 「それじゃあ、呼び難いわ」

 「どうかわたしの事はただ世話をするだけの空気とでもお考えいただければ」

 「そう言う訳にはいかないわよ。んー、そうねぇ、なら勝手にあだ名でも付けようかしら?」

 「おやめください!!!」



 アリアの提案を侍女は絶叫する様に拒否した。

 あまりの険相にアリアはぽかんと口を開いて呆気にとられる。

 部屋のドアがノックされ、その音に侍女は我に返りドアを開ける。



 「何かありましたか?」

 「いえ、何もありません。お騒がせしました」



 見張りの兵士に簡潔に返答しドアに鍵をかけた侍女はアリアに向き直ると頭を下げる。



 「取り乱してしまい、誠に申し訳ありません。ですが奥様、どうかわたくし共の事を思って下さるのであればどうか、どうか気に留めずにいただけないでしょうか?」

 「それはレインが関係している?」

 「………………」



 返答へは沈黙が返ってきたが、必死なその言葉と態度にアリアは察した。

 アリアがこの人達に関心を寄せればその分この人達がレインの怒りを買い、酷い目に合わされるのだろう、と。

 年老いた人間が世話係なのは、年若い者であればアリアと親しくなりやすいとでも考えたのか。

 そもそも、長命な精霊にとっては人間の年齢など誤差の範囲なのだが。

 まあ、この肉体の人間と年齢が近い者であれば境遇に同情してアリアに手を貸す可能性はある。

 その点、侍女として歳月を重ねた彼女達であれば仕事と割り切ってアリアの世話係に徹するだろうし、肉体的にアリアの脱出を手助けする事は出来ないとでも考えたのか。

 なんにせよ不愉快でしかない。

 思わず零れたアリアのため息に侍女は肩を揺らす。



 「なるほどね、分かったわ。貴女達はただ私の世話をするためだけの人間。それ以上でもそれ以下でもないのね」

 「ご理解頂けて幸いです」

 「お腹が空いたわ」

 「直ぐに支度をいたします」



 ホッとした顔で頭を上げた侍女はテキパキと食事の準備をする。

 昨日と同じく重湯を昨日と同じく食べさせられ、アリアの食事を終えた侍女はサイドチェストにベルを置き隣室へと引っ込む。

 食事を終え、ベッドから立ち上がろうとしたが相も変わらず腰から下は言う事を聞かず上手く立つ事ができない。

 早々に諦めたアリアはベッドに横になり、昨日と同じく奥底で眠っている魂へ呼びかける事にした。

 昨日よりもか細く、弱くなっている魂を傷付けない様に優しくゆっくりと呼び覚ます。

 そして、昨日と同じく魂が反応を返そうとした時、またもやレインの声に邪魔をされてしまう。

 瞼を開き、憎々し気に見つめてくるアリアにレインは心底嬉しそうに笑顔を返した。



 「ただいま、アリア」

 「……」

 「ふふ、なんだかご機嫌斜めですね」

 「……」

 「ああ、もしかして貴女のその体の元の持ち主との接触を邪魔してしまいましたか?無駄ですよ」

 「……」

 「何故?って顔をしていますね。簡単です、元の魂は僕の声が聞こえただけで委縮するように、そう躾けておいたんです」

 「……一体、彼女に何をしたの?何故そんなことを……」

 「先に存在している魂を摩耗させた方が後からくる魂の定着が早くなるんです。だから先に精神を痛めつけておくんですよ、そうしたら例え後から来た魂が声を掛けて浮上させても僕の声を聞くだけで殻に閉じこもってしまう」



 笑ってそう話すレインにアリアは怒りを抱く。

 人を傷付けておきながらなにを笑っているのか!



 「ああ、怒りましたか?ふふ、怒った顔を可愛いですね」

 「死ね!このっ!」



 罵倒しようとするアリアの口を口付けで塞ぎ、暴れる彼女を組み敷いて今日もレインはアリアを貪った。



✻✻✻



 「……っ、はぁ、アリア、気持ちいいですか? アリア?」



 額にかかる前髪を邪魔だとかき上げ、組み敷いているアリアを見るとぐったりとしていた。

 この二日間の様に最中に気絶したアリアにレインは笑みを零す。

 そのまま行為を終えたレインはメイドにお湯とタオルを用意させ、自らの手でアリアの体を綺麗に整える。

 シーツも替えて清潔になったベッドに意識を失ったままのアリアを抱き抱えて一緒に横になる。

 涙の跡の残る目尻にそっと指を這わせ、口付けを落とした。



 「ごめんなさい、アリア。僕だって本当はこれがいけない事だって知っているし、こんな事したくはないんです。でも、君が僕から逃げるから、僕の物になってくれないから、だからこうするしかないんだ。僕には、アリアしかいない。アリアだけが欲しいんだ」



 アリアを起こさない様にギュッと、縋りつくようにその体を抱き締め、その体温に彼女が傍に居る事を確かめながら、今日もレインは眠る。



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