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ヤンデレ王子と風の精霊  作者: 東稔 雨紗霧
3st監禁

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25/46

 アリアがヴァンの亡骸と共に精霊界に帰還してから1年と少しが経過した。


 血で赤黒く汚れた衣服で血塗れの遺体と共に帰還したアリアを見てすぐ傍にいた精霊達は騒然となった。

 一目見ただけで緊急事態が生じた事は明白であり、何が起きたのだと聞かれてもアリアは半狂乱で泣きじゃくるだけで何も答えられず、漸く落ち着いたアリアから話を聞きだした精霊達はその境遇に甚く同情した。


 元々、精霊は契約者と深く結びつく存在だ。

 その何物にも代える事のできないかけがえのない存在と、互いに想い合っていたにも関わらず他者の手により引き離され、悲惨な目に合わされたアリア。

 そしてそんなアリアを守ろうと自らの命を賭したヴァン。

 二人の話は瞬く間に精霊界中に広まり、多くの精霊がその境遇に涙し、その噂は精霊王の耳にも入る事となり、二人の話に胸を痛めた精霊王の主導でヴァンの葬儀が執り行われる事となった。

 レインの仕掛けによりヴァンの身体の損傷は酷かったがそれらの全てが精霊達の手により綺麗に補修され、ヴァンの亡骸は手厚く葬られる。

 彼の墓標はアリアの住む家の程近く、景色の良く見える丘の上に建てられた。


 アリアは精霊界に帰還した事で、誤って人間界に足を滑らせて落ちた際に陥っていた記憶喪失が改善され失っていた全ての記憶を取り戻す事ができた。

 精霊との契約は契約者が精霊に対して名を授け、その名を精霊が受け入れる事で結ばれる。

 己の名前も覚えていなかったアリアにアリアと名前を付け、契約を結んだヴァン。

 己の真名がアリアデーレである事を思い出した時はその運命に涙した。

 ヴァンとの輝かしい日々を思い返せば思い返す程に彼に対する愛情が募っていく。

 今日もアリアはヴァンの墓へと向かい、花を手向ける。

 その手首にはヴァンの亡骸が握りしめていた精霊具がぶら下がっている。



 レイン達が大広間に駆けつけたあの時、アリアは気が動転してフーイの風の精霊術には全く反応できなかった。

 あのままでは確実にレインに捕まってしまっていたが、ヴァンの亡骸がこの精霊具を握り締めていたお陰でフーイの精霊術は阻止され、アリアが我を取り戻すまでの時間を稼いでくれた。

 中に嵌められていた精霊術の籠った石は砕け散りがらんどうになっていた為、代わりにヴァンの瞳の色と同じはしばみ色の石を嵌め込んでいる。

 その石には召喚拒否の術式が刻まれており、これを付けていると今でもヴァンに守られている様な気持ちになれた。


 そっと墓に寄り添い、今日あった事や関心を惹かれた事等をヴァンに語り掛ける。



 「最近、精霊の召喚が以前より活発に行われているらしいわよ。契約を結ばなかった精霊は自動的に帰ってくるのに、今の所、誰一人として帰ってきていないらしいからみんな向こうで契約を結んでいるのでしょうね。

 個人単体で賄える魔力量を遥かに超えるくらいの精霊が召喚されているらしいから、複数人の精霊術師に召喚されているのでしょうけれども、それにしても過去に類を見ない位に大勢が召喚されているみたい。霊眼持ちがいきなりそんなに増えたのか、はたまた向こうで戦争が始まるのかは分からないけれども、まあ、私達には関係のない話よね」



 またあの国に呼び出されたらと考えるとゾッとするが今のアリアは召喚拒否の精霊具を持っているので召喚される事は万に一つもない。

 嫌な想像を頭を振って振り払い、その場から腰を上げる。



「じゃあ、また明日ねヴァン。おやすみなさい」



 墓標に口付けを一つ落とし、帰路へと着く。

 シャワーを浴びて一日の汚れを落としたアリアは就寝の準備をし、ベッドへと腰掛ける。

 いつもならばベッドの縁へと手首から外した精霊具を置くのだが、今日は昼間に嫌な想像をしたせいかとてもそんな気持ちにはなれなかった為、付けたまま寝る事にした。



 「!!!」



 深夜3時、声にならない悲鳴を上げて飛び起きる。

 バクバクと強く脈打つ心臓と荒い呼吸音が暗い部屋に広がる。

 じっとりと汗ばむ額を拭い、手首で揺れる榛色にほっと大きく息を吐いた。

 それを手首から外し、両手で包み込むように持って額に当てる。



 「ふ、うう……」



 ボタボタとシーツに水滴が落ちる。

 あの世界から戻ってから何度も、何度も何度もヴァンが死ぬ時の事を夢に見る。

 自らの愚かさを忘れないよう、刻みつけるかのように何度も、何度も。


 アリアの傷はまだ、癒えていない。



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