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他の精霊に話を聞かれると厄介だと言う事で用心の為にヴァンの用意した精霊を感知する術具を設置し作戦会議を開く。
「それでフォレスト。お前の策とは一体どういった物なんだ?」
「はい、実はカルロッタ姫の事件以来ああいった呪具をアリアに対して使用される事を想定して一応対策はしておいたんです」
「対策?」
「はい、まず囚われさえしなければ良いと考え、呪具に対する抵抗力を強める為に毎日の魔力供給の際に精霊術を用いて負の感情に対する耐性を少しずつ高めていきました……まあ、あっけなく捕まってしまった訳ですが。
ですが、抵抗力が上がっている為呪具に定着するのに時間はかかるはずです」
「定着? 定着したらどうなるんだい?」
「契約した精霊は主人と離れた距離に居ようと関係なく傍に召喚できるのですが、定着したらまず、正式な契約者による召喚が出来なくなってしまうそうです。それと、契約者との契約が切れてしまいます。
更には呪具から解放する際に呪具から剥がすのが難しくなり、最悪呪具が壊れるそうです」
「呪具が壊れるって壊れた方が解放できるんじゃないの?」
「いいえ、確かに開放はされるそうなのですがその際に精霊の魂に大きく傷が入ってしまい最悪存在が消えてしまうらしいです」
「存在が消えるって死ぬって事か?」
「はい、ですから何としてもアリアが呪具に定着する前に救出する必要があるんです。
多くの場合、呪具に定着しきる間に精霊に満足な魔力を供給する事ができず餓死させてしまいますが、あいつがそんなミスを犯すはずがない。であれば必ず定着を成功させるでしょう。
抵抗力の他にもアリアが囚われる直前に奥歯に偽装していた鉱石をアリアに摂取させる事ができました。あれには僕の魔力が限界まで込められており、そしてそれを増幅させる精霊術式を刻んであります。
通常の定着には三月、無理矢理鉱物に拘束した場合は半年はかかるらしいので抵抗力と鉱石を持たせている現状を踏まえると恐らく、完全に定着するまでに一年程の猶予はある筈です」
「その猶予は希望的観測ではなく、確かな物か?あの鉱物に関しては機密事項で規制が多く、未だ詳しい実態は解明されていない筈だが?」
「鉱物に対する実験の資料を入手しました。資料の信憑性は確かだと断言できます。
精霊が鉱物に定着する理論は未だ解明されてはいませんが、鉱物に込められた魔力を供給される事により鉱物を主人として定義されてしまうのではないかと入手した資料からアバ様が推定し、そこから鉱物から魔力の供給をできるだけ減らせばその分定着が遅くなるのではないかと仮説を立てました。
皮肉な事に、その仮説が正しかった事はアリアが捕まった事により実証されています」
ヴァンの仮説が正しかった事を胸の熱が教えてくれる。
熱く灯った胸の熱は絶えず何かを押しのけるような蠢動を繰り返し、それがアリアを包んでいるレインの魔力を押し返している事による動きだと理屈ではなく感覚で理解できる。
「資料?俺が読んだ捜査報告に入っていなかったと思うけれどもそんな物どこで入手したんだい?」
「アバ様です」
「え?!」
「は?!」
「実はレイン王子が契約している精霊の知識も借りて鉱物で色々と実験をしていると言う話を以前内密にアバ様が教えて下さり、その実験の資料を横流しして頂きました。ですので、資料の信憑性は確かですよ。
アリアに関係する事であれば彼は能力を遺憾なく発揮させますから」
「いや、いやいやいやいやいや!ちょっと待とうか!!ちょっと待って!ヴァン君!!何でアバ様からそんな事をして貰っているんだい?!アバ様ってこう言ったらあれだけどレイン王子派の人じゃないの?!言うなればヴァン君の敵じゃないの?!」
「敵と言えば敵ですし味方と言えば味方とも言えますね」
「要するに蝙蝠の様な物か」
なるほどなとクリスが頷いた。
「ええ、この国の者として以前に精霊と契約を結ぶ者としてレイン王子の行いは看過できないと。王に進言はされているそうなのですが聞き入れて下さらないと嘆いておいでです。あの方も俺達と同じく王ではなく国に仕えているとお考えですからね。
先程の書面であった通り業務を補助する以上の精霊を貸す等の表立って僕の味方は出来ないけれども、情報を流したり僕の行動を隠蔽する程度であれば協力を惜しまないと以前言って下さいました。
まあ、それ以外での協力を得るのは難しい様ですが……頂いた情報のお陰で現状何とか対抗できているのでありがたいですね」
「アリアちゃんはその事知っているのかい?」
「いいえ、アリアは素直ですし万一レイン王子に感づかれる訳にもいかないのでその事は伝えていません。鉱物の詳細についてもアリアは殆ど知らないと言っても過言ではないでしょう」
「何故だ?レイン王子も精霊から鉱物の事を聞いているのだろう?ならば我々が知らない事を知っていている筈では?」
「アリアは通常の精霊と違って精霊界から誤って落ちてきた精霊なんです。正規の方法でこの世界へ来た訳ではないので落ちた衝撃で記憶と知識に欠落が生じており、本来ならば知っている筈の知識を失ってしまっています。だから機会を設けて他の精霊達から知っておくべき事等を教わる様にしていたのですが、ここ数年はレイン王子の警護で忙しく中々その機会が取れませんでした……恐らく、時期が経てば僕との契約が切れてしまう事も知らないと思われます。
そして、その事をアリアにレイン王子からは絶対に伝える事はないでしょう」
それを知ってアリアが自棄になって行動を起こさないとも限らない。
少し我慢していれば渇望していたモノが手に入るのだ。
下手にその事を告げてアリアに逃げられる可能性が少しでも生じる事態は全力で避けるだろう。
「ふむ……先程、猶予は一年と言ったな。だが、フォレストは半年後には王宮ではなく地方へと移動する事が決定されている。精霊を奪われ、アバ様の支援もなく迅速な情報伝達手段が無い現状では遠方になると取れる手段が限られてくる。
この半年の期間が勝負だぞ」
「はい、心得ています」
ヴァンが重々しく頷いた。
アリアが居なければただの凡人である自分に取れる手段は限られている。
事前に打っていた策は打ち破られたがそれでも多少は効果があった。
凡人でも歴代最強と謳われるレイン相手に少しは報いる事ができたのだ。
焼け付きそうな程の熱が灯る胸を服の上から握った。
この熱がある限り自分はアリアと繋がっていられる。
それを意識するだけで息苦しかった呼吸が少しだけ楽になる。
今はこの熱に縋るしか己を保っていられる自信がないとヴァンは重い息を吐き、決意を固くする。
必ずアリアを取り戻してみせる。
例え、何を犠牲にしようとも。




