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ヤンデレ王子と風の精霊  作者: 東稔 雨紗霧
2st監禁

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16/21

4


 レインが初めて精霊と契約を結んでから二年の歳月が過ぎた。

 あれから更に火、土、水の五大精霊の他に氷の精霊と契約を結ぶことができた。

 いずれも上位精霊達であり、六体もの上位精霊と契約を結ぶと言う史上初の偉業を成し遂げたレインは歴代最強の精霊術師と呼ばれるまでになった。

 その間にアリアとレインの仲の良さに嫉妬したフーイがアリアを激しく詰る事件が発生したが、何故か翌日考えを改めたらしいフーイにより涙目で謝罪とこれからもレインと仲良くして欲しいと頼まれた以外は特に問題が起きる事もなく平穏な日々を過ごしている。

 あの事件で気位の高いフーイがアリアに頭まで下げたのにはアリアは心底驚いた。

 一体、彼女に何があったのかは未だに明かそうとはしないがそれ以来威高だった彼女の物腰が柔らかくなり、結果的に彼女に対して他の側妃や兄弟の様な印象を抱いて壁を作っていたレインとそれまでよりも親密になった様だったのでアリアとしては一安心だった。


 そんなある日、レインに呼び出されたヴァンはアリアと共に後宮へとやって来た。

 アリアと違い自由に後宮に出入りできる訳ではないヴァンは手続きが完了するまでの間大広間で待機し、アリアは一足先にレイン王子の元へと向かう様にと告げられる。



 「だそうだ。どうする?」

 〔何だか行って欲しくなさそうな言い方ね。ハッ、分かったわ!

 私の心がレインへ向かうかもと思っているのね!心配しなくても私はヴァン一筋よ?〕

 「阿呆、誰がそんな事心配するか。お前は俺の物だろうが。良いからさっさと行け」



 顔を背けシッシッと手を振るヴァンの耳は赤い。

 そんなヴァンをいつまでも眺めていたかったが、ふざけるのはそこまでにしてアリアは表情を引き締めた。



 〔嫌よ、今ヴァンから離れる訳にはいかないわ。取り敢えず私が傍を離れたフリをして頂戴〕

  「分かった」



 事情が分からないながらもただ事ではないアリアの様子にヴァンも表情を引き締める。



 「じゃあアリア、先に行ってな」



 不自然にならない程度に少しだけ張り上げた声が大広間に響く。

 その間に話声が漏れない様にヴァンの周囲に風を張り巡らせる。

 ヴァンは口を動かさずにアリアと会話を続ける。



 「それで、どうしたんだ?」

 〔ヴァンは私の大切な人、死なせたくないから〕

 「死なせたくないってここは王宮だぞ? 別の危険はあっても命の危険性は薄いと思うけが……」

 〔いいえ、物陰に矢を構えた人たちが私達を囲む様に展開している。私が今ヴァンの傍を離れたらヴァンは殺される〕

 「殺されるって、なんで俺が殺されなきゃならないんだ? いや……まさか」



 思い当たる節があったのかヴァンが出口へと身体を向けたその時。



 「あーあ、この作戦なら上手く行くと思ったのですがね」



 大広間に声が響いた。

 舌打ちをしながらヴァンが後宮へと続く通路へと身体を向けるとそこには不機嫌そうな表情を浮かべたレインがいた。



 「これはこれはレイン殿下、態々ご足労頂きありがとうございます。 申し訳ありませんが後宮内に入る為の申請に時間がかかっておりまして、もう少し待っていただければ私からそちらへ向かいましたのに」

 「いえいえ、待ちきれなくてこちらへ来たのは僕の方ですからお気になさらないで下さい」

 「ご足労頂いた上に誠に申し訳ないのですが先ほど上司から早急に仕事に戻れと連絡がありまして、後ほど出直して参ります。では失礼」



 慇懃に対応し、出口へと向かったヴァンだったがその出口は突然現れた氷塊によって瞬時に塞がれてしまう。



 「……申し訳ありません、突然の離席に殿下のお怒りは最もですが私も仕事ですのでこちらの氷を排除して頂けないでしょうか?」

 「良いでしょう。ただし、僕の用事が済んだらですが」

 「!?」



 レインの言葉と同時にヴァンの身体が不意に宙へと浮いた。

 空中でレインと向き直る様に方向転換させられたヴァンは突然の事に目を白黒させる。



 〔レイン!!貴方一体どういうつもり!? いきなりヴァンを拘束しようとするだなんて!!〕



 アリアの言葉に先ほどまで立っていた場所へと視線を向けるとそこでは蔓がのた打ち回っていた。

 アリアの言葉からヴァンを拘束しようとした蔓からアリアがヴァンを空中へ浮かばせる事によって守ったのだろうと推測する。


 文字を作ってはいないがアリアの言葉はヴァンの傍に居るリョクが通訳して伝える。



 「どういうつもりも何も僕の目的は昔から一つしかありませんよ」

 「アリアか」



 にっこりと笑みを浮かべたレインにやはりまだ諦めてはいなかったかとヴァンは内心で盛大に舌打ちをした。



 「前回は僕の無知が原因で失敗してしまいましたが、あれから今日と言う日の為にアバ様に師事し知識を磨き、準備を進めて来ました。

 漸く準備が整ったのでこうして実行に移した訳ですよ。

 まあ、初手からこうも躓くとは予想だにしていませんでしたが……」



 溜息を吐きながらレインは首元から首飾りを出した。

 大きく、深い紫色のアメジストが飾られているその首飾りを空中にいる二人へと見える様に持ち上げる。



 「これが何だか分かりますか?」

 「精霊封じの呪具……!」



 それが何かを認識したヴァンは苦り切った表情で吐き捨てる様に言った。



 「やはりご存じでしたか。まあ、カルロッタ姉様の事件は貴方がたが担当したのでしたしご存じだとは思いましたが。

 これは精霊の森に二年間埋めておいた鉱物で作りました。

 本来ならもう少し時間をかけるつもりだったのですが、それでも2年かけただけあって強い拘束力を持たせる事ができましたよ」

 「そこまでして手に入れたいか」

 「ええ、ヴァン。貴方には分からないでしょうね。人望にも環境にも恵まれて愛する人から愛して貰えている貴方には、この渇望が」

 「殿下は随分と俺の事を買っていただけている様ですが、生憎とそんなに恵まれている訳ではありませんよ」

 「恵まれていますよ。例え、口減らしに森の中に捨てられたとしてもそこでアリアと出会い、救われ、無条件で彼女に想われているのですから。それは全てを補って余りあります」

 「俺の過去なんぞをよくご存じで」



 ヴァンがアリアと出会ったその日、ヴァンは口減らしの為に森の奥深くで両親に置いてきぼりにされて泣いていた。

 そこで偶々精霊界から足を滑らせて落ちてきたアリアと出会い、その出会いによって今日と言う日まで命を繋いでくる事ができたのだ。



 「本来ならば二人を引き離しアリアが僕の元に来た時にこの呪具の中に封じ込め、後は素知らぬフリを通して穏便に済まそうと考えていたのですが残念ですね。

 手荒な手段にでなければなりません」

 「は、どうだが。穏便も何も俺を始末しようと考えていたんじゃないのか?」

 「おや、バレていましたが」



 レインが片手を上げると物陰に隠れていた弓兵達が姿を現す。



 「取引をしませんか、アリア。

 貴女がこの中に入ってくれるのなら僕はヴァンには一切の危害を加えません。

 ですが、貴女がそれを拒むと言うのであればこちらは強硬手段に出ます。

果たして、六体の高位精霊と弓兵を相手に貴方はヴァンを無傷で守り切る事が出来ますかね?」

 〔…………〕



 レインの言葉にアリアは唇を噛み締めた。

 レインの言う通り高位精霊ではないアリアではヴァンを守り切る事は不可能だ。

 だが、もしその条件を飲んだとしても本当にレインがヴァンに危害を加えないとは限らない。

 迷うアリアにヴァンが言った。



 「アリア、俺は君に命を救われた。君をあんな物に閉じ込める目に合わせるぐらいなら俺は死を選ぶ」



 何も手ぶらで後宮に来た訳ではない。

 一か八かならここから脱出する手はあるし、もし駄目だったとしても二人で死ぬのなら本望だと笑うヴァンにアリアは決心する。



 〔本当にヴァンには一切手を出さないのね?〕

 「おい!? アリア!?」

 「うん、約束するよ。母上に誓っても良い。

 それに、僕がアリアに嘘を吐いた事がありましたか?」

 〔いいえ、レインは良い子だから私に嘘は吐いた事は無いし約束を破った事もないわ〕

 「アリア待て! 俺は了承していないぞ!!!」

 〔ごめんなさい、ヴァン。 でも、私は貴方に生きていて欲しい〕



 ヴァンを床へと降ろすと彼は行かせまいとアリアの腕を掴もうとするがそれよりも早くリョクによって蔦へと絡み取られ身動きが取れなくなる。



 「ふざけるなアリア!」

 〔元気でね〕



 アリアはその唇へ一つ口付けを落とした。

 二人の唇が離れる前に噛みつくようにもう一度ヴァンがアリアの唇を奪う。



 〔!!?〕



 目を白黒させるアリアを他所にそのまま荒々しく口付けを行い、アリアの喉がこくりと動いたのを合図に離れる。



 「必ず迎えに行く」

 〔ありがとう〕



 待っていると囁くように言ったアリアはヴァンから離れ、迷いなくレインの元へと向かう。

 二人の様子に奥歯を鳴らしたレインだったが、アリアの目に入る前に表情を取り繕う。



 「ありがとうございます。アリア」

 〔約束は守って頂戴ね〕

 「はい、必ず」



 目を合わせ、レインがしっかりと頷いた事を確認したアリアは彼が掲げている首飾りに触れる。

 触れた指先から溶ける様に首飾りへと吸い込まれていくアリアの姿にヴァンがアリアの名を叫びながら必死で蔦を引き千切ろうと藻掻くがリョクによって操られている蔦はびくともせず、ただヴァンの腕に傷を付けるだけに終わった。

 やがて、アリアの姿が完全に首飾りへと吸い込まれるとヴァンは力を失い項垂れる。

 首飾りを愛おし気に撫でた後、服の中へと仕舞い込んだレインは思い出したかの様にヴァンへと声をかけた。



 「ああ、要件は済みました。どうぞ帰って頂いて結構ですよ」



 そこ言葉と共に拘束が解かれ出口を塞いでいた氷塊が消える。

 その場を離れようとした時に一つ、男に伝え忘れた事があった事を思い出した。



 「そうそう、契約者は離れた所から自分の元へと契約した精霊を召喚する事ができますが、これにはそんな事ができないようにそうなれば召喚者の命を奪う術式が組み込まれています。

 この意味が分かりますよね?」

 「……精霊は契約者が死んだら解放されるが、呪具に封じ込められた状態ではその限りじゃない」

 「その通りです。そして契約者が居なくなれば僕はアリアと再契約を結ぶ事ができます。

 僕としては知らずに召喚に挑んで自滅して欲しい所ですが、それだとアリアとの約束を破ってしまう。

 僕、彼女との約束は守るんです。だからお伝えしました」



 言うべき事は言ったと興味を無くし後宮へと足を向けるレインの耳に何かしらを呟いたヴァンの声が入る。



 「何か言いましたか?」

 「覚えていろと言ったんだ。俺は必ずアリアを救い出す」

 「は、アリアを失い精霊使いではなくなった貴方に何ができるのか見物ですね。

 アリアとの約束通り貴方に危害は加えませんが、これからは口の利き方には気を付けた方がよろしいかと思いますよ」



 己を憎々し気に睨みつける男に嘗て自分もこの男を同じ様に睨みつけた事を思い出す。

 あの時とは反転した立場に愉悦を覚えるが今はそれよりも一刻も早く漸く手に入れる事ができた彼女と二人きりになりたい。



 「では失礼」



 弓兵も撤退し誰も居なくなった大広間にはただ一人、力なく項垂れる男が取り残されていた。




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