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ヤンデレ王子と風の精霊  作者: 東稔 雨紗霧
1st脱出

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12/20

4

 「アリア! 見て下さい! 今日はテストを受けたのですが満点が取れました」

 『あら、凄いわね!』『流石レインだわ』

 「一緒にステラ姉上も受けていたのですが僕が満点を取っていたのでとても悔しそうでした。 ふふん、良い気分ですね」

 『学んで己の力を磨けば』『いずれ貴方は誰にも負けない人間になれるわ』

 「はい! 頑張ります!」

 『私も応援しているわ』

 「嬉しいです……アリア、大丈夫ですか?」

 『ええ、大丈夫よ』



 微笑みながら文字を操るアリアの様子にレインは眉を下げる。

 本人も大丈夫だと言っていたし、最初は気のせいだと思っていたがアリアは確実に弱っていた。

 草で空に文字を綴るのもいつもより遅くなり、今は立つのも億劫な様子で座った状態で宙に浮いている。

 約束の日まで残り三日となっていたが日に日に弱っていくアリアの姿に死んだ母を思い出し、このままではアリアも母と同じく死んでしまのではないかと言う考えにレインは至った。

 精霊は契約者から魔力を与えられなければいずれ死ぬ。

 ヴァンに言われた言葉が頭を過る。



 「ねえ、アリア。精霊はどうやって契約者から魔力を貰うのですか?」

 『そうねぇ、人によると思うけれど』『私の場合はヴァンが手で固めた』『魔力の塊を貰って食べているわ』

 「魔力の塊?」

 『ええ、こう、ギュッとするの』



 アリアの動作を真似て手をギュッとするが何かが固まった感触は無い。

 疑問符を浮かべながら首を傾げるレインの様子にアリアは笑いながら説明する。



 『魔力を固めるのはそれなりの経験と練習がいるのよ』『レインはまず魔力を感じる所から始めなくてはね?』

 「魔力を感じる、ですか?」

 『えぇ、生まれ持って霊眼を持つ者は総じて』『魔力の総量が高いから他の人間よりも感じやすいはずよ』

 「…………」



 頑張って魔力を固めてアリアに渡さなければとレインは目を閉じ、必死に探るが何も感じない。

 数分頑張ったが一向に何かが分かる気配を感じないレインは肩を落とす。



 「何も感じないです」

 『いきなりやって出来る物ではないもの』『これから少しずつやっていけばいいのよ』

 「これからでは遅いのです……今できないと……」

 『あら?どうして』

 「……だってそうしないとアリアに魔力をあげられないじゃないですか!」

 『レイン、例えレインが魔力を固められても』『貴方は私の契約者じゃないから私は貰えないのよ』

 「そんなの! そんなのやってみなければ分からないじゃないですか!! もしかしたら出来るかも知れないじゃないですか!」

 『そう考えた人が他にもいるのよ』『そうねぇ、レイン、こんなお話を知っている?』



 そう言いながらアリアはレインをソファーへと座らせ、隣へ自身も腰かけると古い御伽噺を始めた。


 昔、ある所に一人の精霊術師と一人の精霊と一人の精霊術師の友人がいました。

 精霊術師の友人が霊眼を持っては居ませんでしたが精霊は水の精霊でしたのでその身を水で覆い、友人に姿を見せる事ができました。

 三人はそれはそれはとても仲睦まじく、暇があれば三人で過ごす程でした。

 そんなある日、精霊術師が呪いをかけられその魔力を失ってしまいます。

 その呪いは精霊術師が死ぬまで解けないとても強力な呪いでした。

 契約主から魔力を供給してもらう事ができなくなった精霊はどんどん弱っていきました。

 魔力を持っていた友人は何とかして己の魔力を弱っていく精霊に与えようとしますが、友人がどんなに強固に固めた魔力も不思議な事に精霊が口をつけると途端に消えてしまい供給する事ができませんでした。

 友人は精霊のために時には水の中に魔力を溶かしたり、魔力を霧にしてみたり、直接精霊の口に魔力を送ってみたり神様に祈ったりと思いつく限りであらゆる手段を尽くしました。

 ですが、どんな手段を用いても魔力は決して精霊へと渡ることなく消えてしまいます。

 そんなある日、夢の中に神様が現れました。

 神様は言いました『精霊は契約した者からしか魔力を貰えないと世界の理で決まっているのだ』とそして『友を想うお主の気持ちに私は心打たれた。お主の為に友への呪いを解いてやろう』と。

 目が覚め、慌てて精霊術師の元へ向かった友人が目にした物は元気になった精霊と魔力を取り戻し神様に祈りを捧げる精霊術師でした。

 精霊術師によると夢に神様が現れ、その身に宿った呪いを解いてくれたのだそうです。

 こうして三人は元の様に仲睦まじくいつまでもいつまでも過ごすのでした。



 『このような言い伝えの様に後世でも』『沢山の人間が研究したけれど』『どれも結果は不可能で終わったわ』

 「……それでも、それでも僕は諦めません。もしかしたら、出来るかも知れない可能性はあるじゃないですか!」

 『そうね』『レインが大発見するのを楽しみにしているわね』



 そう微笑んだアリアにグッと言葉を詰まらせたレインは一度、ギュッとアリアに抱き着いた後、窓に向かって歩きだした。



 「僕はアリアに魔力を供給したいです。でも……それができるのは今じゃない。だからアリア、どうぞ行って下さい。もうこれ以上母上のように弱っていくアリアを見たくないんです」



 術を解き、そう言って開け放たれた窓から新鮮な風が淀んだ空気の部屋へと広がっていく。

 久しぶりに感じる世界の広さと自由な風に体が軽くなっていく。



 『ありがとう、レイン』



 そう言って笑ったアリアはレインの頬をするりと撫で、愛するヴァンの元へと消えた。

 アリアが傍から居なくなった喪失感にレインはしばらく呆然としたが直ぐに次なる目標を掲げる。



 「今回は僕の無知ゆえにアリアに辛い思いをさせてしまいました。次こそは……!」



 〔ヴァン……!〕

 「おわぁ!!!」



 久々に会う事が出来た愛しいヴァンに勢いよく抱き着いたアリアは彼女に対して仄暗い意志を燃やすレインの事など知る由もなかった。


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