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第7章 第三の影――罪が歩く場所

 ◆1 犯行予告の座標へ ―― “第三の事件”の現場到着


 パトカーが止まったのは、都内でも歴史の古い商業ビル街だった。

 大通りから一歩入ると、レトロな小路が並ぶ静かなエリア。

 朝の曇った空も相まって、どこか不穏な気配が漂っていた。


「……ここが、犯行予告の“座標”?」


 麗が見上げた建物は、築60年以上の古いオフィスビル。

 外壁には雨跡が筋を作り、

 入口付近には数人の刑事がバリケードを張っている。


「御影さん、宵宮さん。こちらです」


 刑事が二人を案内する。


 朔弥は淡々と状況を確認し、麗は少し緊張しながら後ろに付いていく。


「……で、被害者はまだ?」


「はい。実は……今回は“被害者ゼロ”なんです。」


「は?」


 麗と朔弥が同時に声をあげた。


「現場には“影”だけが残されていまして。

 それを――」


 刑事がドアを開ける。


 その瞬間、麗は息を呑んだ。


 部屋の中央に“黒い染み”が散乱していた。


 床に、壁に、天井に――

 黒い、油のような、墨のような、濃密な影の粒。


「……なんこれ……」


「被害者の“罪”です。」


 朔弥が淡々と言う。


「第三の事件。

 影喰いのピエロは“被害者の罪を奪い、それだけを残して消えた”。」


「罪、だけ……?」


「罪の記憶に関するデータが、この部屋にばら撒かれていた。」


 麗は散らばる黒の粒に近づき、しゃがみ込む。


 近くで見ると、薄い膜のように波打っており、

 触れるとひんやりとした空気が指を撫でた。


(……これは……)


 ピタッ、と世界が静かになった。


 麗の“推理モード”が、勝手に起動する。


 耳にかけた髪が揺れ、視線が少しずれる。


(影が薄い……いや、“誰かの後悔”が薄まってる……

 違う……剥がれ落ちた? 罪の表皮みたいな……)


 ふいに、背後から声。


「麗、触んないで!」


「っ、」


 ここで音が戻る。


 振り返ると朔弥が険しい顔で立っていた。


「罪の残滓が強い。触れたら記憶に影響が出るかもしれない。」


「……ごめん。」


 朔弥は少しだけため息をついた。


「無茶するな。

 ……お前のその“感覚”、大事なんだから。」


 その言い方が妙に優しくて、麗は少し照れた。


 ◆2 第三の事件は“空白”――影武者の気配


 部屋を一周し、調査を終えた頃。


 麗は眉をひそめた。


「ねえ朔弥さん……今回の事件、変じゃない?」


「どう変だ?」


「被害者がいないのに“罪”だけある……

 普通、罪を奪うときって、何かしら本人に接触するはずで――」


「……だよな。」


 朔弥も同じ疑問を抱いていたらしい。


「影喰いのピエロは“人の罪を剥がすために”対象に近づく。

 だが……今回は痕跡が薄い。

 まるで――」


「別人がやったみたい、ってこと?」


 朔弥の目がわずかに揺れた。


「それは……まだ断定できない。」


 麗は気づかない。


 朔弥の声の奥に、微かな焦りが潜んでいることに。


(……別人?

 もしかして……影武者……?)


 今はまだ確証はない。

 だが、胸のざわつきだけは強まっていく。


「宵宮、美影が言ってただろ?

 “影は三度、過去を照らす”って。」


「うん。」


「これは“予告の前半”だ。

 問題はその後だ。」


「後?」


 朔弥はスマホを差し出した。


 そこには、犯行予告動画の最後に表示された文字。


 《夜更けの真実は、白の中に隠れる》


「……白の中……?」


「意味が分からないだろ。

 だが、このビルの隣にある場所を見てみろ。」


 朔弥が指さす先。


 そこには――


 “真っ白なインテリアのカフェ”が建っていた。


「え……ここって……」


「“White Drop Café”。

 美音がよく通ってる店だ。」


 麗の心臓が跳ねた。


(美音さん……?

 彼女、狙われてる……?)


 ◆3 シルキードロップの楽屋 ―― 美音の“気づき”


 一方その頃。


「美音ちゃん、今日の差し入れ〜!」


「ありがと〜!」


 メンバーたちが談笑する中、美音は一人、スマホを見つめていた。


 ニュース速報が流れる。


 《影喰いのピエロ 三度目の犯行予告か》


(……まただ……

 今日の現場、うちの近くだ……)


 胸がズキッと痛むような感覚。


(なんで……そんなに胸騒ぎがするの……?

 “あの日の影”が近づいてる気がする……)


 ふと。


 スマホの画面がかすかに揺れた。


 《――ミオ。》


「……え?」


 画面には何もない。

 通知も履歴もない。


 だが、確かに誰かの声を聞いた気がした。


(いま……呼ばれた?

 誰に……?)


 胸の奥の“壊れた笑顔”がひび割れる音がした。


 ◆4 White Drop Café にて ―― 麗の違和感


 現場調査のあと、麗と朔弥は隣のカフェへ移動した。


「ここが……美音さんがよく来る場所?」


「ああ。署の調査でも名前が挙がった。」


 店内は驚くほど白い。


 壁、椅子、テーブル。照明までも白。

 まるで“影が落ちない空間”のようだった。


(……影がない……?

 いや、影が落ちにくいように作ってある……?)


 麗の推理モードがさりげなく起動する。


(影をつけないための照明角度……

 反射率の高い壁材……

 まるで“影を隠すため”みたい……)


 そんな考察をしていると――


「あら、麗ちゃん?」


「!!」


 聞き慣れた声がした。


 入口を見ると、

 制服姿の美音が立っていた。


「あ……美音さん!」


「偶然だね〜。

 今日リハあって近かったから、ちょっと寄っちゃった。」


 美音は柔らかく笑う。


 その笑顔はいつものアイドルスマイル。

 だが――


(……やっぱり……ちょっと不自然?)


 理由は分からない。

 ただ、胸の奥がザワッとした。


「一緒に座っていい?」


「もちろん!」


 美音が席につくと、周囲の客がざわつく。


「あっ、シルキードロップの美音ちゃんじゃ……?」

「マジで!? 本物!?」


 本人は慣れた様子で手を振った。


 麗は気になって仕方なかった。


(美音さん……さっきより目が揺れてる……

 なにか……隠してる?)


 しかし梨は踏み込めない。


 その時だった。


 美音のスマホが震えた。


 画面を見た美音の表情が――一瞬だけ、笑顔じゃなくなった。


「……ごめん、ちょっと出るね。」


 席を立ち、奥の通路へと歩いていく。


 その横顔。


(……美音さん……?)


 麗は気づかない。


 美音の背中に、かすかに“黒い靄”がまとわりついていることに。


 そして――

 その瞬間、カフェの外を

 一人の男がゆっくり横切った。


 無機質な能面のような仮面。

 黒いコート。


 影喰いのピエロ。


「……!!」


 麗が椅子を蹴って立った。


「朔弥さん!! 外!!」


「なに!? どこだ!」


 外を見る。


 だが――もう、その姿は無い。


(……また、消えた……!

 どうしてこんなに早く消えられるの……?)


 麗の胸は不吉に鳴り続けた。


 そして――


 この直後、“美音の襲撃”が起こることを

 まだ誰も知らない。


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