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第6章 「アイドルと、影のざわめき」

 ◆1 シルキードロップの楽屋にて


「み、お〜ん! 今日のポニテ、優勝してる〜!」


「ほんと似合う! センターの輝き出てるよ〜〜!」


 都内某スタジオ。人気アイドルグループ《シルキードロップ》の楽屋は、開演前にも関わらず異様なほど明るかった。

 その中心にいるのは、もちろん――


 御影美音みかげ・みおん、18歳。グループの不動センター。


「えへへ……そんなに褒めたら、今日ステージで飛んじゃうかも」


 美音はにっこり笑い、鏡の前でくるりと回った。

 動くたびにきらめく髪、透きとおる笑顔。スタッフからもメンバーからも人気なのも納得だ。


 ――ただ、鏡の奥。

 誰もいない空間に、一瞬だけ「青白い影」が揺れたように見えた。


「……?」


 美音が瞬きした瞬間、その影は消えていた。


「みおん? どうかした?」


「ううん、なんでもないよっ!」


 美音は笑顔を貼りつけたまま、鏡から目をそらした。


 (……気のせい、だよね)


 その指先が、なぜか右耳の裏の小さな古傷に触れた。


 癖のような、無意識の仕草。


 ◆2 朝のキャンパスにて


 朝のキャンパスは春の風が心地よく、並木道に新入生の笑い声が漂っていた。

 ――だが。


「……でさ! 昨日なんて“麗! 反省しなさい!”ってペシッ! だよ!?

 大学生なのにペシッだよ!? やばくない!?」


 麗は涙目で訴えていた。


「いや……うん……聞いてるよ……」

 柚葉は苦笑しながら、麗の肩をぽんぽん叩いた。


「麗ちゃんのお母さんって……鬼だよね……」


「マジそれ!!」


 二人は同時に、あの“警部部長・宵宮美羽”の鋭い眼光を脳内再生してしまう。


「「ひっ……!」」


 ビクンと肩を震わせ、ほぼ同時に身をすくめた。


「家庭内取り調べ室のほうが、普通の取調室より怖いってどういうこと……」


「うん、それね……。完全に“署内レベル”。」


「むしろ署内より怖いまである……」


 バカ話をしつつも、テンションはどこかズレている。

 麗はカバンを抱きながらため息をついた。


「でもまあ……お母さんの“あの感じ”が無かったら、昨日泊めてもらえなかっただろうし……」


「それはそう。

 でも麗ちゃん、あれ甘やかされてるって言わない?」


「言わない!! あれは普通に脅されてるの!!」


 二人が笑っていると――


 空気がふ、と揺れた。


 黒いスーツを着た細身の男が、静かに二人の横をすれ違った。


 歩くだけ。声も出さない。


 なのに、そこだけ時間の密度が違うかのような、冷たい圧。

 麗の背筋がぞくりとした。


(……今の、誰? なに、この感じ……)


 振り返る。

 だが――もう、どこにもいなかった。


「麗ちゃん? どうしたの?」


「……いや。ちょっと変な人が……」


 言いかけた瞬間、向こうから声が飛んだ。


「宵宮、いた。やっと捕まえた。」


 御影朔弥が息を切らしながら近づいてくる。


「なんで、大学に……?」


「影喰いのピエロ。次の犯行予告が出た。」


 麗の思考が止まった。


 ◆3 犯行予告 ―― 新たな“影の座標”


「犯行予告って……いつの間に……」


「今朝、匿名動画サイトにアップされた。“影は三度、過去を照らす”だってさ。」


「……それ、また意味深な……」


 朔弥は腕を組みながら険しい表情を見せる。


「前回二件とも、被害者の“罪”が現場に露出した。

 今回も何かしらの“罪の証拠”が使われる可能性は高い。」


「その“罪”って……本当に影喰いのピエロが集めてるの?」


「今説明してる時間は無い。

 現場に来れるか? お前、見ておくべきだと思う。」


「え……私が?」


 横で聞いていた柚葉が慌てて手を振る。


「麗ちゃんは大学生だよ!? ねぇ御影さん!? 巻き込むのは――」


「巻き込むんじゃない。

 ……宵宮。お前は、今回の連続事件の“鍵”になっている。」


 朔弥の声は深刻だった。

 そして――ほんの少しだけ、何か伝えたいものが滲んでいた。


(鍵……? なんで――)


「行くよ、宵宮。」


 朔弥は背を向け、歩き始めた。


 麗は一度だけ柚葉を見る。


「……行ってくる。また連絡する。」


「……うん。気をつけてね。」


 柚葉の声は、少し震えていた。


(――影喰いのピエロ。

 本当に、誰? 何をしようとしてるの……?)


 麗の胸に、ざわざわと黒い靄が広がっていく――。


 ◆4 美音のステージ裏 ―― 薄い“壊れた笑顔”


 同じ頃。

 都内某スタジオの控室。


「美音ちゃ~ん! 次のリハ、10分押すって!」


「了解でーす!」


 **久瀬美音くぜ みおん**は、完璧な笑顔でマネージャーに手を振った。


 所属グループ《シルキードロップ》。

 今まさに人気急上昇中の新世代アイドル。


 だが――鏡に映る自分を見つめる美音の瞳は、どこか乾いていた。


(……あの笑顔。今日は上手く作れてる。

 うん、大丈夫。壊れてない。壊れて、ない……)


 鏡に向かって無表情になる。

 そして、再び“笑顔”を貼り付ける。


「……うん。大丈夫。笑えてる。」


 控室のドアがノックされた。


「美音ちゃん、今日も完璧だね。ほんとすごいよ」


 同じグループのメンバーが顔を出す。


「ありがとう!」


 美音は完璧な笑顔で返す。

 メンバーが去ると、表情は再び静かに落ちた。


(……このところ、胸騒ぎがする。

 どこかで“何か”が始まってる気がする……)


 美音はカーテンの隙間から外を見る――


 そこで、一瞬だけ。


 **ビルの影に立つ“機械的な仮面のシルエット”**が見えた気がした。


「……っ!」


 だが目をこすってもう一度見ると、何もいなかった。


(……気のせい……だよね?)


 完璧な笑顔の裏で、

 胸の奥の何かがごくわずかに軋む。


 ――それはまだ、ただの“予兆”だった。


 ◆5 影喰いのピエロの暗躍 ―― 黒澤の声


 その夜。

 薄暗いモニタールーム。


 モニターを見つめる黒澤が、おどけるような口調で笑う。


「さてさて……次の舞台は整った。

 朔弥くん、今日はどんな“影”を食べてくれるのかな?」


 返事はない。


 ただ、後ろの闇の中で、

 無表情の“影喰いのピエロ”がゆっくりと立っていた。


「宵宮麗ちゃんも……かなり動きが良くなったねぇ。

 いいよいいよ……そのまま迷って、苦しんで、答えに近づいて……」


 黒澤は笑う。


 だが――その瞳の奥は氷のように冷たい。


「さあ、朔弥くん。

 “第三の影”を描きに行こうか?」


 ◆6 影へ向かう ―― 麗の決意


「ほんとに、私が行っていいの……?」


 現場へ向かうパトカーの中で麗は尋ねる。


「ああ。

 ……お前の洞察は、俺たちには無い視点を持ってる。」


 朔弥は窓の外を見つめたまま言う。


「大学生だからとか、そんなの関係ない。

 宵宮、お前は“見える人間”なんだよ。」


「……見える?」


 朔弥は続ける。


「黒い感情。過去の匂い。

 他のやつらには届かない、もっと深い場所を感じ取れる。」


「そんな大げさな……」


「大げさじゃない。

 ――影喰いのピエロは、お前が追うべき相手だ。」


 その言葉に――

 麗の胸に、これまでなかった“覚悟”が生まれた。


(逃げてちゃダメだ。

 柚葉、美音さん……巻き込まれる人が、増えていく前に……)


 麗は拳を握る。


「……行こう。犯行予告の場所。」


 朔弥が小さく頷く。


「――行くぞ。第三の事件だ。」

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